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AWO〜ゼロと愉快な5人の仲間たち〜  作者: 深山モグラ
第一章 中央大陸編 第一節 中央王国 第三項 森林の街
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此処にいる理由

〈戦闘が終了しました〉


 エルダーがしっかり消えていくのを確認し、少年の下に向かう。少年の周りにはまだ二枚の盾が浮遊しているがここを抜けるまでは解除しないようにしておく。少年は未だ地べたに座り、唖然としている。しかし、今何が起きたのかは理解しているようだ。


「怪我はないか?」


 少年に近づき膝を折り、目線を合わせて問いかける。私が助けに来るまでは泣き叫んでいたのだろ。目元は赤く腫れ涙の跡が窺える。それに体もわずかに震えている。例え助かっても殺されそうになった記憶は鮮明に残るもの。

 少年の頭に軽く手を置き、優しくなでる。わずかに震えていた肩も徐々に震えが収まり、呼吸も安定してくる。


「ありまぜん」


 まだ、鼻声だがこれはしょうがない。それにしてもこの子の親は何をしているんだ。ここは子供一人で入ってくるような場所じゃないぞ。

 だが、周囲を見渡してもこの子の親らしき存在は見当たらない。


「ここにいてはまたいつ襲われるか分からん。とりあえずこの林を抜けるぞ」


 地面に座り込んでしまっている少年を立たせる。背丈は120cmよりは高いだろうか。白髪に翡翠色の瞳が良く映えている。

 服も泥だらけで外傷はないが今生きているのが不思議なくらいにボロボロだ。このまま街に入ろうものなら私が衛兵に職質を食らいそうなのでインベントリに入っていたもう使わなくなった〈初心者の神官服〉を少年にかぶせる。


「少年、親はどうした?」


 できるだけ優しく少年に問いかける。これでも子供の扱いには慣れているので質問は一回につき一つにして少年からの返答を待つ。


「お父さんはおしごとに行っててお母さんはお家にいる」

 

「それじゃあ、少年は一人でここに来たのか?」


 その問いに少年は俯きながら首を縦に振り答える。おいおい、マジかよ。てっきり親とここまで来てはぐれたのかと思っていた。それでも魔物がいる場所に子供を連れてくるなど正気の沙汰じゃないのだが。

 しかし、少年が一人でこの麓まで来ていると言うことはこの子の両親は少年がここにいることを知らないんじゃないだろうか。いつからここにいるのかは知らないが今頃は少年のことを探していることだろう。

 

「はぁ、ここは魔の森と呼ばれる場所の麓だぞ。魔物がいることはお父さんやお母さんに教えられなかったのか。なんでここに来たんだ?」


 いけない、少し呆れ気味に聞いてしまった。今回は無事だからよかったものの一歩間違えれば死んでいたのだ。これでお遊びで来たなどと言えば説教ものだが、それは私の仕事ではなくこの子の両親がやることなのでまずは家まで少年を送り届けるとこまでが私の仕事だ。


「それは......お母さんを助けたかったから」


 最後の方は声が小さくて聞き取りづらかったが少年がここに来たのは何か原因があったのだな。母親を助けたかった、か。ここの麓にあるものと言えばトレントンと薬草くらいなので少年の目的はここに生えている薬草か。

 薬草など鑑定を使わなければ詳細が分からないし、そもそも私が外見で判断できる薬草は数種類しかない。それも街で簡単にポーションになった物を買えるので流石にそのレベルよりは上位の薬草を探さないといけないだろう。


「仕方ない。薬草採取なら手伝ってやる」

 

「なんで......僕が薬草を探しているって......」


「トレントンを討伐する目的以外でここに来るのはそこらへんに生えている薬草を採りに来る以外ないからな」


 少年は不思議そうにこちらを見る。私との身長差があるので上目遣いでこちらを見るが、何かに目覚めてしまいそうだ。ぶかぶかの服に風が吹くたびに揺れるサラサラな髪がマッチして......危ない。なんて恐ろしい力だ。

 マーキュリー・ホプに次ぐ強敵だぞ。って冗談はさておき、樹の傍や倒木の近くに咲いている薬草を探すために歩き出す。


「ところでどの薬草を採ればいいんだ?」


「それは......分かりません」


「ん? どういうことだ?」


 少年の話によれば3日程前から母親の体調が悪化しており、苦しんでいる姿を見て少しでも役に立てればと思ってここに来たらしい。なので、どの薬草が必要なのか分からないとのこと。

 教会に行って母親の容態を見てもらったようだがそれでも原因は分からず体調は悪化するばかり、少年の父親も直す手段がないのか調べているようだがそれも成果がないみたいだ。

 

「それだったら薬草を探しても意味がないな。とりあえず少年を家にまで送り届けよう」


「でも! それじゃあ、お母さんが!!」


「少年もむやみやたらと薬草を探しても無意味だと分かるだろ? それにこう見えても私は神官だ。少年の母親の容態について何か分かるかもしれんぞ」


 無言で頷く少年を引き連れ街に戻る。結局自分が何もできなくて悔しいのだろ。私の後ろを歩く少年から、すすり泣く声だけが聞こえてくる。

 誰かが苦しんでいるときに何もできないのはつらいよな。私もその気持ちは良く分かるぞ。だから、今は好きなだけ泣くといい。だが、母親の前では笑顔を見せてやるんだ。どんな母親だって我が子の悲しむ姿なんて見たくはないだろうしな。


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