林の中の悲鳴
さっき砦から出て今は森林の街に向かっている。そうそう、ノヴァさんに聞いたのだがどうやらウッドアニマルは動物に擬態しているようだ。思い返せば森の中には結構動物がいたんだよな。
だが、動物に擬態しているとは思わないじゃないか。名前にはしっかりアニマルと入っているがその前に付いているウッドが視野を狭くした原因だ。
ウッドだぞ。なんでそんな名前が付いてるのに本物の動物と見分けがつかないレベルで擬態できるんだよ。魔の森にいた動物は本当にただの動物にしか見えなかった。森には動物がいるもんだし、どこにも樹の要素などなかったので分からなかったのだ。
言い訳はこの辺にしてこれでウッドアニマルを見つけることができる。しかし、レベルが低いとはいえ〈看破〉が一切反応していなかったことを考えると相手の擬態能力が相当高いことが伺える。それに擬態能力が高いと言うことはそれに比例してレベルも高いだろう。
せっかく魔の森に入れたのに何の収穫もないでは寂しいので〈看破〉を鍛えるためにもエルダーを狩っていくか。できればこの麓を出る前に二次スキルになってくれれば最高だ。
・・・
・・
・
〈戦闘が終了しました〉
〈魔力視のLVが上昇しました〉
〈視覚強化のLVが上昇しました〉
〈聴覚強化のLVが上昇しました〉
〈臭覚強化のLVが上昇しました〉
〈感覚強化のLVが上昇しました〉
〈打撃強化のLVが上昇しました〉
〈刺突強化のLVが上昇しました〉
〈看破のLVが上昇しました〉
エルダーがいるエリアは抜けてしまった。残念ながら〈看破〉のスキルが二次スキルになることはなかったがLV23まで上がったのでレベル上げは十分できた。
それと戦闘は銀樹刀を使って近接戦を挑んだので〈打撃強化〉のレベルが上がっている。やっぱり、刀はいいぞ。前まで使っていた片手剣と比べて扱いやすさが全く違う。おかげでエルダーも楽に倒すことができた。
たまにエルダーの枝を叩き折るといった無茶な攻撃もしたがアルが木刀に施してくれたマナコーティングのおかげで耐久力が上がっており、まだまだ耐久値には余裕がある。
耐久値が0になると武器が壊れてしまうのでその前に修繕をしてもらわないといけない。だが、私が使っている銀樹刀はかなり等級が高く扱える生産職も少ないのだ。
なのでこの武器を修繕するにはアルに頼むのが一番手っ取り速いが迷宮の街に行ってしまえばアルに会いに行くのはかなりめんどくさいので耐久値を底上げしてくれるアルのオリジナルスキルは本当にありがたい。
「今日で生命の雫が100個落ちるまで続けるのは流石に無理か。どんどん予定がズレていくではないか。私の中では今日中には修行を終わらせる予定だったんだがな」
ままならないものだ。ウッドアニマルの見つけ方は教えてもらったが最低でも100体倒す必要がある。ゴーレムだったら楽に目標を達成できるが初見の魔物だし、何時間かかるか想像できない。
師匠が課した修行と言うことを考えれば一筋縄ではいかないことは目に見えているのだがダンジョンに潜りたいと言う気持ちが先行してしまっている。
耐えなければならないと分かっているんだがな。目の前に美味そうな飯を出されて食わずに耐えられるかと言う話だ。むろん、欲望に忠実に従ってきた私には無理な話。
まあ。そんなことを言っても結局は修行をこなさなければならないことに変わりないので修行をこなすのだが。
「アイビートレントンか」
〈看破〉に引っかかった魔物を見ればエルダーと同じトレントン系の魔物である、アイビートレントンだった。アイビートレントンは異様に発達した蔦を使って攻撃してくる魔物で全長は5メートルほどだ。
エルダーに比べれば推奨レベルも低く、比較的レベルの低いプレイヤーが狩にくる魔物だが攻撃に蔦も使ってくるのでエルダーよりも攻撃手段が豊富だ。なので私も昨日から数回ほどお世話になっている。
しかし、正直レベル差がありすぎて瞬殺してしまうのだけどな。そこで私は天才的な発想をしたわけだ。
「ハイエンチャント・レッドダウン......エンチャント・レッドダウン......ハイエンチャント・グリーンダウン......エンチャント・グリーンダウン。っとこれで準備完了」
そう、それは自分にデバフをかけることだ。事の発端はデバフに分類されるバーサークが味方にもかけることができたことが始まりだ。これを考えた時は本気で自分は天才だったのだと思ったよ。デバフを敵にかける奴はいても味方にかける奴はいないだろうからな。
「まあ、例え自分にデバフをかけてアイビートレントンを強化してやっても」
攻之術理 閃撃
「トレントンの攻撃パターンを見切った今の状態では単に倒すまでの時間が長くなるだけなんだがな」
アイビートレントンが蔦や枝を振り私を叩き潰そうとするが、居合の構えを取り一閃。敵を切り裂くことはできないはずの木刀で私に迫り来たものを斬り飛ばす。
蔦などが切断されたエフェクトを出しているのをしり目にアイビートレントンに走って近づき一閃、二閃と攻撃を浴びせる。
時折地中から飛び出してくる根による奇襲も攻撃の直前わずかに揺れる地面の振動を感知し避ける。そしてHPが残りわずかになったら幹に木刀を差し込み光へと変えていく。
〈戦闘が終了しました〉
「これじゃあ、ダメだ。モーションの追加を希望する」
すでにトレント系は行動が分かってしまったので良くない。どちらかと言うと私は攻撃速度が速い方が捌きやすいのでトレントンとは相性がいい。逆にモーションが遅い奴は苦手だ。
昼も近づいてきたしトレントンとの戯れは終わり。さっさと街に戻るか。
『だれか!!』
街に戻ろうと足を進めた瞬間、林の中に悲鳴が響く。この甲高い声は子供特有の声ではないか! イベクエか!!




