不穏な動き
「それじゃあ、また今度! 次も装備の依頼とかあったら私に持ち掛けてきてね」
鉱山の街でドガンさんとアルに武器を作ってもらった後、すぐにラピに乗って森林の街まで戻ってきた。時間も押していたのでアルとは門を出たところで分かれて宿に向かう。待ち合わせまでは後15分あるので何とか間に合うだろう。
ラピを宿に預けた後は冒険者ギルドまで走る。時間的には夜中に近いので街灯以外の明かりは月明りしかない。なので適度に闇魔術のナイトビジョンを使いながら道を進む。
この時間でも門が空いてるのは常識的に考えて危険だと思うがそこはゲームなので気にしてはいけないな。リアル志向を謳っているいる割には変なところでゲーム仕様なのが面白い。でも夜中に騒音を出すと衛兵に捕まるのでそこはリアルに寄せているみたいだ。
まあ、この時間帯でもプレイヤーがかなりいるのでうるさいと言われればうるさいのだけどな。住民はそこのとこをどう思っているのか聞いてみたい。AWOの世界の住民は本当の人間みたいな反応をするので、ただのデータの塊とは思えない。
実は本当に私たちがいる世界とは異なる世界だったりして。このゲームの題名もアナザーワールドオンラインだしな。ありえなくはないかも......って、オカルトじゃあるまいしそれはないか。
それに実際問題そんなことは起こりえない。なにせそこまでの技術など今の我々人類ができるわけがないからな。だが、私たちに本物だと錯覚させるほどリアルなのは確かだ。ってなんでこんな話になったんだっけか?
「ゼロ殿こちらですぞ」
冒険者ギルドに入ったらすぐ隣のテーブル席に座っていたロードたちから声をかけられた。良い所で待ってるじゃないか。探す手間が省けるので楽だと言おうとしたが、それ以前にロードたちの周りにはプレイヤーがほとんどいないことに気が付いた。
と言うより遠巻きに彼らを見つめていた。プレイヤーはギルド内にかなりいるし前に集まった時はすぐ近くにプレイヤーたちがいて、今みたいなことは起こらなかった。なので何事かと思いロードたちを見れば、一刀のネームタグがわずかに赤色になっていた。うん、PKしたんだね。だから他のプレイヤーも何かされないように距離を取っているのか。
「待たせた。それより一刀、やったのか?」
「ああ、殺った。だが、あれは仕方がないことだ。可哀そうにもPKに襲われていたプレイヤーがいたからな。PKを殺す代わりにそいつも死んでもらっただけだ」
「普通にPKだけ倒せばよかっただろ。流石に一般プレイヤーをやるのはどうかと思うぜ」
確かに不知火の言う通りだ。私は一刀が何をしようが別に構わないがさすがに純粋にゲームを楽しんでいるプレイヤーを殺すのは見過ごせん。一刀はそこまで無差別なことはしないと思っていたのだがな。少し話を聞いた方が良さそうだ。
「それについて話したいことがあるから魔の森の麓に向かいながらでもいいか? 少しここでは話せん内容だからな」
どうやら訳ありか? 話の内容が気になるので早くこの場を立ち去ろう。それに周囲のプレイヤーも早くどこかに行って欲しそうな目でこちらを見ているしな。
まあ、それはしょうがない。PKは街の外じゃないとできないなんて制限はないし、殺ろうと思えばどこでもやれるからな。その場合はすぐに衛兵にしょっ引かれることになるのだが。
それにサービスが開始してから初めて見るレッドネームと言うのもあるか。実際は一刀が初のレッドネームではないだろうが彼らは一刀が危険人物だと認識したのだろう。
・・・
・・
・
「それで何があったの?」
街を出てすぐに聖が問いかける。普段一刀と行動することが多い聖なので一刀の訳というのには興味があるようだ。もちろん私たちも気になるので黙って一刀が話し出すのを待つ。
「結論から言ってしまえば俺が殺した二人のプレイヤーはPKだ」
「ちょっと待てよ。レッドネームを殺したってレッドネームにはならねえだろ。レッドネームになるには住民を殺すか通常タグのプレイヤーを殺すかしかねえぞ」
「レオの言う通りだ。だから俺は通常タグのPKを殺ったんだ」
意味がぷぅなんだが......冗談だ。つまり一刀が言いたいことは通常タグのプレイヤーだけどβ版ではPKだったってことだろう。
「なるほど。それで仲間割れしていたから二人ともやったってことで合ってるか?」
「そういうことだ。それにちょうど興味深い話をしていたから情報提供をしてもらったんだよ。その命と引き換えにな」
PKが話していた内容、か。掲示板でも言われていたが今はPK被害が出ていないみたいじゃないか。それと今回の仲間割れは何か関係がありそうだ。
「それで一体PKたちはどんな会話をしていたのですかな?」
「それが、俺が尋問したPKは下っ端だったみたいでそんなに情報をもっていなかった。だが、そいつは幹部たちがある計画の準備をしていて手持ち無沙汰になったからPKしようとしていたところを他のPKに見つかって言い合いになったと言っていた」
ある計画、ね。PKの連中は何をやろうとしているのやら。そにしてもずいぶんと面白そうな展開になってるじゃないか。PKの幹部と言ったら〈赤の雨〉が中心になって始めたことだろう。あいつらが大人しくしているのを私も疑問に感じていたのでこれで謎が少し解けた。




