銀樹刀
「二人ともお待たせ! 転職してきたよ」
ドガンさんが合金の製造に取り組んでいるのを観察していたらアルが工房に入ってきた。アルと別れてから30分程しかたっていないので転職はスムーズにいったのだろう。ちなみに転職先は〈熟練木工師〉だったようだ。
それと転職候補には上位職以外の転職先も出ていたようでそれが〈学士〉〈商人〉〈農民〉だ。これはキョージューが睨んだ通り二次職になってから新しい職種が追加される形になった。どれもβ版では存在しなかった職業なので今後どうなるのか楽しみだ。
〈農民〉を選択するプレイヤーが知り合いに出たらマッドゴーレムを倒したときにドロップした良く分からない肥料を全て転職祝いに渡すことにしよう。アイツのドロップアイテムはとにかく大量にあるので倉庫の肥やしになっている状況だからな。
売るにしても買取価格が安かったので微妙にもったいなくて売れていない。倉庫にはまだ空きがあるから良いが圧迫するようなら無償提供でもするか。
「待っていたぞ。今はドガンさんが木刀に仕込むミスリルの強度が増すようにとミスリルと鉄の合金を作っているところだ」
「ミスリルって柔らかかったもんね。それは納得だよ。じゃあ、私も早速木刀の製作に入るかな」
そういうとアルも作業台に近づき工具を出して木材の加工を始めた。私がいては作業の邪魔になるだろうからここから出るとする。二人とも、いや二人に関わらず生産職の人は、作業中は真剣な顔つきで生産活動をするので私がいると場違いになってしまう。
それに生産過程を見るのも面白いが何もしないでひたすらに作業を眺めるのは体が耐えられん。今は体を動かしていないと気分が乗らないのだ。
二人が作業を終えるまでは時間があるので軽く運動してくることにする。運動と言ってもゴーレムとの戦闘なんだがな。なんだかんだ言ってゴーレムは戦いやすくて鍛錬の相手にはちょうどいいのだ。たまに全長3メートルほどの巨人版もいるが大体は2メートルくらいで落ち着いているしな。
てなわけでゴーレムとの戦闘だが、今回はバフをなにもかけないで挑む。なぜなら確認するのが技の精度だからだ。それにパラメータのごり押しが効かない敵に出会ったらPSのみで戦うことになるのでPSを伸ばすためでもある。まあ、当たり前のことなんだけどな。
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時間が経つのは早いものであれから2時間ほど経過している。ゴーレムたちとの戦闘もまあまあ楽しめたし、いい暇つぶしにはなった。欲を言えばもっとレベルが高い相手が良かったがここでそれは言っても仕方がないので心のうちにとどめておく。
それと先ほどアルからフレンドメールが届いており、武器が完成したとのことだ。どんな物ができたのか楽しみだ。木刀だと斬撃系の攻撃はできないが今はそれだけでも十分。なにせ刀を使う術理もあるので戦闘中の手段が増え多彩な動きができるようになるからな。
ラピを呼び寄せ街に戻る。ラピに乗れば街にはすぐにつく。しかし、時間がちとやばい。あいつらとは23時に集合することにしてるからかなり時間ギリギリになりそうだ。
街に着いてすぐにラピを宿に預けてからギルドに向かう。計画性がないと困ったことになるのが証明されたな。だが、私に計画性を求めないで欲しい。なにせ体が勝手に面白そうなところに動いてしまうのだ。
今回もバフをかけて最速でギルドに向かう。この時だけは〈白黒〉の制約を戦闘中のみにしたのが悔やまれる。やっぱ瞬間移動できるアイテムが欲しいな。課金アイテムでも私は構わないなから実装頼むぞ運営。
「すまん。少し時間がかかった」
「思ったより全然早いから気にしないで」
「そんなことよりワシとアルポールの合作をゼロに早く見せてやろう」
「うんうん。そうだね! はい、これが私とドガンの合作〈銀樹刀〉だよ。ちなみに長い方が〈導魔〉短い方が〈硬魔〉ね」
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〈銀樹刀 導魔〉 上等級 ☆9
STR+10
ドガンとアルポールによってつくられた木刀。長さは約90cmで中刀に分類される。ミスリルの性質を受け継いだミスリル鋼を中に仕込んでいるため魔力伝導性が高い。MPを消費することで刀身に魔力を纏わせられる
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〈銀樹刀 硬魔〉 上等級 ☆9
STR+5 AGI+5
ドガンとアルポールによってつくられた木刀。長さは約60cmで小刀に分類される。ミスリルの性質を受け継いだミスリル鋼を中に仕込んでいるため魔力伝導性が高い。MPを消費することで刀身をわずかに硬化させる
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ミスリルを中に仕込んだのは正解だったな。導魔も硬魔もどちらも強い。導魔はMPを消費することで霊系の魔物にもダメージを与えることができ、硬魔は逆にMPを消費して木刀の硬度を上げることができるのか。それと木刀は片手武器扱いなので2本とも装備できる。
攻撃用として使うのは導魔で守りに使うのが硬魔の方になるのかな。それぞれ中刀と小刀なので長さも私がよく使う刀と同じで手にしっくりとくる。それに重さも真剣と同じくらいなので刀を振るうのに違和感がないのも良い。
「最高じゃないか。ミスリル鋼もいい感じにかみ合っているし、ドガンさんの技術には感服します。それにアルの加工も実戦を重視した刀にしてくれているじゃないか。特に剣先がうの首のおかげで刺突にも使えるし重心が剣先にあるのがいい」
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ。でも、ドガンが作ってくれたミスリル鋼は希少級だったのに私が加工したら上等級に落ちちゃったの。ごめんなさい。折角貴重なミスリルを使ってくれたのに」
「エルダートレントンの素材を使っているのだし等級が落ちるのは仕方がないだろ。さっきも言ったがこれほどまでのものができるとは想定外だったので気に病む必要はない。それに上等の木刀を作ってくれたので感謝はすれど文句を言うわけないだろ? 上等級だけに」
「え、それはつまらないよ」
グスン。それはひどいぜ。




