エルダートレントン その2
私がエルダーとの距離を詰めると奴は枝を叩きつけるようにして攻撃をしてくる。樹の枝となど戦ったことがないので往なすことができないと思い後ろに飛ぶことで避ける。
困ったな。エルダーの手数が多すぎて近づくに近づけない。攻撃できる枝がどれ程の数なのか分からないが今動いている枝だけでも6本だ。これは前衛職には厳しいと言われるわけだ。
時折私の後方から飛んでくる矢がエルダートレントンに当たっているがダメージは微々たるものだ。まあ、今はそれでいい。折角の練習なのでもう少しコイツの攻撃を避け続けたいからな。
困ったことにコイツの枝には葉もついておりそれがまた邪魔でしょうがない。攻撃をするたびに葉をまき散らしやがって私の視界の妨害にしかなっていないのだ。実際その目的でやっているんだろうがやられる身としてはたまったものではない。
「アル! 少し無茶をするので危なくなったらすぐに逃げてくれ」
このまま逃げ続けてもいずれはアルの攻撃でエルダーは死ぬであろうがそれでは私がつまらない。いや、練習にならないのでコイツと直接戦ってみることにした。
早速右手を強く握り本を送還して片手剣を召喚する。素手にしないのはあいつの攻撃判定がどれ程広いのか分からないからだ。もし葉っぱにも判定があれば〈白黒〉が一瞬のうちに解除されてしまうからな。
エルダーに向かい一歩ずつ歩き出す。するとすぐに右から枝による攻撃が飛んでくるがそれを片手剣で思いっきり切りつける。そこらの樹ならば確実に叩き斬れるであろう一撃は、しかしわずかにエルダーの身を傷つけるだけにとどまった。
「かったいな。渾身の一撃で何とか攻撃を止められる、か。予想以上に難敵だな」
今の攻撃なら枝を切断できると踏んでいたがそこまで甘くないようだ。これは単に技量の問題かシステムの問題かは窺い知れぬが、今の私ではヤツの身体を切ることができないと分かった。
〈白黒〉が上限まで発動したら再度叩き斬ることができるか試してみるのもいいがそれはできなそうだ。本当に困ったことになぜかヤツのHPが3割も減っているのだ。軟弱にもほどがあるだろ。
たしかに私とのレベル差もあるしこちらはバフで強化していてエルダーは弱体化してるけどさ、アイツの攻撃を迎撃しただけでそれほどまでにHPが削れるとは思わないじゃんか。もっと私のことを考えてくれよ。
「ゼロなにしたの!? エルダートレントンのHPが一気に減っちゃったよ!」
「特に何もしていない。ただレベル差が開きすぎていただけだ」
アルもまさか私の攻撃でここまでHPを削るとは思いもしなかったようで驚いている。もちろん私も驚いているし、ついでにエルダーも驚いているので全員の攻撃の手が完全に止まっている状態だ。意味わからんわ。アルはまだしもなんで魔物のコイツまで呆けているんだ。
呆れた目でヤツを見据え再度歩き出す。今の攻防で分かったことはヤツの攻撃を迎撃してはいけないと言うことだ。攻撃はすべて避けるか往なすかにしないと貧弱なエルダー君はすぐに死んでしまうからな。
私が近づいていると分かると直ぐにエルダーは攻撃を再開してくる。枝による薙ぎ払い、上段からの圧し潰し、複数の枝による無差別な連撃。それを私は避けることだけを意識して距離を詰める。
たが如何せん手数が多すぎるので思うように距離を詰めることができない。ヤツの幹まであと5メートルというところまで来ているのだが今度は幹の上部にある枝ではなく私の身長と同じ高さにある枝で攻撃をしてきた。
先ほどまでの枝に比べれば長さも短いし太さもそんなにないのだがマーキュリーゴーレム・ホプリゾーンとの再戦かと感じるほどに鞭の様にしなるのだ。
だが、これはチャンスだ。鞭のようにしなる枝は最初に私に対して攻撃を仕掛けてきた枝に比べて格段に硬度が落ちている。これならば切断することだってできると言うもの。
攻之術理 閃撃
居合の要領で抜き放った片手剣の剣先が高速で迫りくる枝を切断した。切り飛ばされた枝は光となり空間に溶けだしエルダーは声にならない甲高い音を上げる。
柔らかければ切断できるみたいだ。さっき切断できなかったのは単に私の問題か。まだ私が未熟であるとの証明になってしまったではないか。
怒り狂いがむしゃらに攻撃を繰り返すエルダーにさらに近づき幹に攻撃を加えていく。完全に近づいてしまえばこちらのもんだ。枝を振り始める前に枝の付け根に斬撃を入れ綺麗に一本ずつ刈り取ってやる。
地中から根っこによる突き上げ攻撃も来るがそれは〈危機感知Ⅱ〉〈気配察知Ⅱ〉のスキルを使い攻撃が当たる瞬間に避けていく。
最初はどうなることかと思ったが懐に入ってしまえばコイツも倒すのが簡単だ。懐に入れればだが。今回はレベル差とステータスによるドーピングをしているから楽に避けることができたので己の技量だけでコイツを圧倒できたとは言えない。
コイツだけじゃなくて他の魔物にも言えることだが初見でも敵の攻撃に合わせられるように鍛錬しなくちゃだ。こればかりは経験を積むしかないのでただひたすらに強敵と戦って勘を養うしかないな。
攻之術理 死突
最速の突きがエルダーの眉間に突き刺さり残りわずかだったHPが全損する。アルを見ればグッドサインを出していたのでアイツもダメージを食らわずに済んだようだ。




