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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・秋
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【りんごあめ】


 秋祭り。

 九尾火神社で行われたささやかな、秋の実りに感謝するお祭り。受験勉強の息抜きに行っておいでと母たちに見送られ、ワタシとゆゆ、大王の三人で訪れている。


「黒錆ちゃん、一体何したのさ~? うそのセンセ、最近暗いじゃ~ん」


 紅葉模様がかわいらしい浴衣と、浴衣に合わせてワタシが作った紅葉の髪飾りで髪を編み込んでいるゆゆが意地悪そうに口を吊り上げながら聞いてきた。うっしっし、と聞こえてきそうな悪い笑みだ。


「いや……ワタシは何もしてないけど」


 十中八九、ってか十割十分十厘社長のせいである。

 何をしたのかは知らんけど、どうも相当上の人から絞られたらしい。校長先生も教師による生徒いじめを放置していたということで絞られたらしく、職員室がやけにぴりぴりしていた。

 エセメガネ先生は嬉々としてあれこれワタシたちにチクってたけどね。


「黒錆ちんトコ、おっかねぇ人いたろ。あの日以来会ってねぇけど……絶対あの人だろ」


 肩口で真っすぐ切り揃えた髪に紅葉のヘアピンを刺している大王が苦笑混じりに言う。その通りである。ゆゆと大王が社長に会ったの、中二の春だったっけか。いおりんや坊主も一緒にさいはて荘でカレー作った時。あの時に会っただけなのに、よく覚えていたな。それだけ怖かったのか。


「そこまで怖いかな~」

「怖いよぉ! あの人でしょ? なんてゆーか、うちらを人間として見てないみたいな……」

「そうそう。オレらを見下ろすあの目な。品定めされてるっつぅか……空港でセキュリティゲート通る時のあの緊張感で体が動かなかった」


 空港のセキュリティゲート……? 行ったことないからわかんないけど、敵性チェックされている感じだったってことかな。


「……そんな悪いヤツじゃないんだけどね」


 むしろ──優しい。

 獺野先生の一件だってそう。社長がワタシを守るために裏で動いてくれたのは確かだ。社長は、いつだってワタシを守ろうとしてくれている。大家さんと元軍人がワタシに向けてくれる愛情がわたあめのように包み込んでくれる優しいものなら、社長がワタシに向けてくれるのは硬く冷たくそっけなくも優しくて、甘いだけじゃなくて芯がある。


 そう、りんごあめのような。


「──ふぅん?」


 と、ぼんやりしていたワタシをゆゆの含むような声が引き戻してきて何よ、と首を傾げる。


「いーっしっしっし、なーんかわかっちゃったかもぉ」

「何よ、いやらしい笑い方しちゃって」

「いやあ~、黒錆ちゃんも青春だねぇ~って。んむふふ、そうかそうかぁ~黒錆ちゃんがねぇ~」

「なんだ、黒錆ちんあの人のこと好きなのか?」

「は……はぁ!? ハァ!? ハァアアァ!? 何言ってんのよ!! ワタシがアイツを好き? あの俺様何様イヤミ野郎を? ありえないッ!! エセメガネ先生の方がよっぽど可能性あるわよッ!! 呪うぞッ!!」


 誰が誰を好きだって!?

 社長!? アイツを!? あのイヤミ野郎を!? 何かにつけて鼻で笑うヤツを!? アンタらアイツが何なのかわかってんのッ!? 魔王よ魔王ッ!! 世界征服を企むどころか世界征服を成し遂げて高笑いする魔王よッ!!


「あのねぇ!! ワタシの好みはもーっと優しい人!! お父さんみたいに優しくて頼れる人がいいの!! アイツなんて正反対よ正反対っ! 魔王よ!? わかる!? 魔王よ!!」

「おーおー、必死になってる黒錆ちんきゃわいーな」

「ひひひっ、青春青春!」


 ワタシの必死の否定も空しく、大王とゆゆはワタシが照れているだけであるかのようににやにやと隠す気ひとつないいやらしい笑みを浮かべている。

 何度も言うが、ワタシがアイツを好きとか絶対にありえない。絶対にだ。だって社長よ? 天敵よ? そりゃ優しいところもあるし、いつだってワタシの味方だし、社長なら心の底から信じられるけど……それとこれは話が別!!


「別にアイツ、ワタシにだけ優しいワケじゃないし」


 そう。社長が優しいのはワタシにだけじゃない。

 巡にはなんだかんだ甘くて、にーたって慕われているし。お蝶や元国王の店が長く続くようにって支援しているみたいだし。元巫女の故郷である、こことは別の神社のこともあれこれ画策してるみたいだし。なっちゃんだって死に物狂いになってまで守ってやろうとするくらいだし。大家さんだってアメリカに連れていってまで死なせまいと頑張ったみたいだし。

 ──うん、社長は優しい。

 社長は、さいはて荘のみんなをものすごく大切にしている。社長にとってさいはて荘はとても大切な場所で、そこに暮らすみんなはワタシ含め、何よりも大切なものだから。

 だから社長は、無言の愛情でもつてさいはて荘のみんなを守る。


「……別に、なんとも思ってないもの。ワタシにとってアイツはさいはて荘に暮らす、大切な家族のひとり。それだけだもの」


 それ以上でも、それ以下でもない。

 そう、そのはずだ。ワタシにとって社長は──〝家族〟、それだけだ。大切な家族、それ以外に何があるというの?


「好きか嫌いかって言われたら好きよ。大嫌いな天敵だけどまあ、好きよ。でもそれはさいはて荘のみんなと同じ。みーんなワタシの大切な家族」


 家族。

 家族なのだ。

 社長は、ワタシの家族だ。


「…………ふぅん」

「……ま、黒錆ちんの好きなようにやりゃいいと思うぜ」


 だってオレらまだ中三だからな、と大王は頭の後ろで手を組みながらワタシを振り向く。


「大人ぶる必要なんかねーもんな。さいはて荘の人たちといろいろ話してよ、思ったんだ。あの人たち大人だけど誰一人として大人ぶってねーんだよな。本当の大人ってそーゆーもんなのかもな」


 大人ぶる子どもと同じくらい、大人ぶる大人というのは多い。〝大人〟を前面に出そうと振る舞う。そう、〝大人〟──協調性だとか理性的だとか。

 でもそれは本当に〝大人〟なのだろうか。大王の言う通り、さいはて荘のみんなは大人だけれど、大人ぶらない。大人ぶらず、ワタシたち子どもと()()に接する。ワタシたちを決して未熟な子どもとして扱わない。


「はい黒錆ちゃん、りんごあめ」

「ありがとー」


 子どもたちにだけ配られる屋台券で買ったりんごあめにかぶりつく。社長が作ったものでも元国王が作ったものでもない、普通のりんごあめ。ちょっと湿気ってふやけた飴に歯を立てて、ちょぴり硬くて甘さに欠けるりんごをもぎ取る。

 ぱさついてるりんごの身と、ただ甘いだけの飴。

 まずくはないけれどおいしくもない。お祭りという特別な環境下で食べるからこそおいしい屋台飯。


 ──いちご味のりんごあめが、恋しくなった。



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