【あじふらい】
元国王と爺が釣りに行って、アジを釣ってきた。
「アジフライ」
と、いう鶴の一声ならぬ社長の一声でアジフライにすることになった。社長はさいはて荘のみんなに甘いけれど、さいはて荘のみんなも社長に甘いと思う。
「大家さ~ん、捌いたよ~」
「ありがとうございます、もとこくおうさん」
「元巫女、味見してくれ」
「──美味しゅうございます。お蝶さまの豚汁は本当に美味しゅうございますね」
「魔女ちゃ~ん、お箸どこぉ~?」
「あ、ここ。持っていくよ」
「元軍人、今夜は呑むぞ」
「──たまにはいいか。元国王も社長も呑め」
「……集まると分かっていればもっと上等な酒を用意したんだがな」
「ボクらNOお酒組は愛媛のお土産であるいよかんジュースで一杯さ! 道後温泉、あそこは素晴らしかったね。ロマンがある。まさにチヒロと同じ世界にいるような気分だったよ。日本最高のアニメ映画、そのモデルに使われただけあって本当に想像力を掻き立てられる素晴らしい場所だった。ボクもチヒロとともに」
カット。
──そういうワケで今日は珍しいことに、示し合わせたワケでもないのにさいはて荘のみんなが集まった。いつもなんだかんだ誰かいないのに、今日は本当に珍しくみんなさいはて荘に揃っていた。みんなで集まってごはん食べる時っていつも社長に合わせてみんなで日時決めるからね~。
「よし、アジフライも揚がったし食べるかぁ! 音頭よろしく魔女」
「えっワタシ!?」
いきなりの無茶ぶりやめろし。
「ん~、何に乾杯すればいい?」
「安産祈願とか?」「えっ」
「安産祈願のかんぱ~い」
「適当!」「いきなり!?」
そこかしこからツッコミが入るけど無視していよかんジュースがなみなみ注がれたコップを持ち上げる。それに合わせてみんなもコップやらぐい呑みやらジョッキやら持ち上げて、かんかんかんっと軽快な音が鳴る。
さあ、ごはんである!
「フェアリーの作る豚汁は格別だねっ。このアジフライと実に合うよ」
「おう、サンキュ。ってか元王子が作ってくれた長芋の甘辛煮うめーな」
「テディベアに教えてもらったものだけれどね! ボクは料理ができなかったからね。ボクの知っているレシピは大体がテディベアとアニメから学んだものさ」
「最近のアニメは料理にも力入れてるよなぁ~。と、いうか視聴者の見る目が厳しくなってきたっつぅ気はするけどな」
マジか、この長芋の煮っ転がし元王子が作ったのか。確かにおいしい。お蝶が作った豚汁も最高においしい。
「たいへん美味しゅうございます」
「おいしいよねぇ~。アジフライと豚汁の相性が最高だねぇ」
「元国王さまと爺さまは本当に釣りがお上手でいらっしゃいます。いつも美味なおさかなをありがとうございます」
「いやあ、そんなことないけどねぇ。今度みんなで釣りに行こうよ~。釣り方は教えるからさ~」
おお、釣り。いいなあ。一日中のんびりまったり釣り。いいなあ。忍耐力が要るんだろうけど元巫女はその辺問題なさそうだ。
「んん~、おいしい~! ねぇ社長さん!」
「ああ」
「あたし、魚捌けないんですよねぇ~。魚捌けるひとってすごぉい」
「そうか」
──社長となっちゃんは普通に会話している。
〝普通〟に。
「もっと呑まんか元軍人」
「爺さん、呑みすぎではないかね」
「こんなウマい料理を前に呑まずにはいられるかッ! ええから呑めい!」
「やれやれ……」
爺に絡まれて元軍人は大変そうである。ガンバレ。
「──たのしいね」
「うん」
みんなの会話を聞いてにやにやしているのがバレちゃったのか、大家さんにくすくすと笑われて少し恥ずかしくなりながらも頷く。
「やっぱりさいはて荘が大好き」
「ええ、わたしもよ。おんなじね」
「おんなじだね」
ワタシと大家さんは顔を見合わせて、笑う。
──ああ、本当に幸せだ。




