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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
82/185

【かくてる】


 ワタシは黒錆どれみ。

 魔女である。


「人を呪っちゃったりできるんでしょ? ちょーっとお願いしたいことがあるんだよね」


 魔女たるワタシには人を呪うことができる。


「大した呪いじゃなくってもいいから、例えば顔にニキビがブツブツできるとかさぁ、そんなんでもいいんだ」


 (のろ)うことも、(まじな)うことも魔女たるワタシにはできる。


「ちょっと聞いてる? 黒錆」

「ワタシは黒錆どれみ」

「は?」

「魔女である」

「……はぁ?」

「魔女たるワタシに〝呪い〟を依頼するのね?」

「……?」


 ワタシは黒錆どれみ。

 魔女である。


「対価に、()()()ね。──ちょうど、足りなかったんだ」


 ワタシは黒錆どれみ。

 魔女である。


「足りなかった、って……お金、とか? あんた、先輩からお金取るつもりじゃ……」

「魔女にお金はいらないよ」


 欲しいのは、媒体。


「足りなかったんだよね。()()()()()()()()

「え……」

「ワタシの〝呪い〟には必要なんだよね。ぬいぐるみ。だから呪う前にぬいぐるみを作る必要があるんだ」

「そ……それ、が?」


 ワタシは黒錆どれみ。

 魔女である。


「あなたくらいならふたつ分は作れそうかな。よかった、()()()()()()()()


 あ、逃げた。


「おととい来やがれ」

「おう、お疲れさん。見慣れない友達と一緒だなーと思ってたけど先輩か?」

「うん。中三の先輩。お願いしたいことがあるからって呼び出されたの」


 夕暮れ時のもろみ食堂。

 学校帰りに先輩から相談したいことがあると呼び出しを受けて、何事かと待ち合わせ場所であるもろみ食堂に来てみれば用件はつまらないものだった。気に喰わないヤツがいるから呪ってほしいという、ほんっとくだらない内容。

 ワタシは確かに魔女だけれど魔女にだって選択権はあるのだ。ホイホイ人を呪うような魔女だと思わないで頂きたい。


「お疲れさん~さっき大家さんに連絡入れたからさ~夕飯はこのままここで食べなよ。ぼくがおごるからさ~」

「ほんと? じゃあ夏色まかないのCセットで」

「おう!」


 パンが全部売れてしまったからと店を閉めて夕飯を食べにもろみ食堂に来ていた元国王の隣に座り直して、つい昨日から始まったばかりの季節限定メニューを注文する。


「迫真の演技だったねぇ。ぼくも思わずビビったよ」

「演技じゃないし」

「えっ」

「嘘だけど」


 びっくりさせないでよぅ、という元国王の泣き言を流してお蝶が置いてくれた夏色まかないCセットにさっそく手を伸ばす。と、そこでトレイの上に淡いいちご色の液体に赤い果実が混じっている飲み物があることに気付いて、これは何かとお蝶に問う。


「サービス。フルーツカクテルだよ。と、言ってもアルコールは一切使ってねぇけど」


 ノンアルコールカクテルってやつか。


「オリジナルドリンクも始めようと思ってな。そのカクテルの名前は〝魔女のキモチ〟」

「なにその名前」


 ツッコミを入れつつ太めのストローに口をつけてカクテルを飲んでみれば、いちごとりんごとヨーグルトとを混ぜ込んだようなスムージーに大き目のいちご果実がたっぷり入っているものだった。うん、おいしい。つぶつぶいちごがいい。


「おいしいねこれ。王様のランチセットや反乱軍セットにさ、プラスおいくら円すればドリンクをこれに変えられるとかしたらウケそう」

「お、いいねそれ」

「だったらぼくも〝魔女のココロ〟って名前のパン作ってみるかな~」

「だからなんで魔女」


 ワタシに関連付けてるよね? どう考えてもワタシ意識してるよね? なんてツッコミを入れたら墓穴掘りそうな気がして深入りできない。なんの墓穴かって、聞くな!! 呪うぞ!!


「りんごの形にするね」


 突っ込まねーぞ!!


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