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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【はんばーがー】


「でっか」


 眼前にでん! と置かれたワタシの顔面よりもデカいハンバーガーにさすがのワタシもドン引きする。


「わ~佐世保バーガーだ~」

「させぼ?」


 元王子がまたもや元巫女を連れ回して今度は九州に行ってきてたんだけど、そのお土産でなにやらでっかいハンバーガーを出された。

 元国王によれば佐世保バーガーなるものらしい。長崎県のご当地グルメのひとつで、佐世保市には米軍基地があるとかで米軍向けの飲食店がたくさんあるんだそうだ。そして佐世保バーガーはそんなアメリカン向けのアメリカンサイズハンバーガー。だからデカい。


「俺様にこれを食えと……」

「キングなら大丈夫さ」


 キラリと白い歯を見せて笑う元王子に冷ややかな視線を向けて、社長がため息を吐いてワタシの前からハンバーガーを取り上げた。


「俺様と魔女は半分ずつで十分。元国王、貴様は一個丸ごと食べろ」

「命令!?」


 ここにある佐世保バーガーは三個。

 ここにいるのはワタシと社長、元国王に元王子、大家さんと元軍人である。

 ワタシと社長で半分ずつ。元王子と元軍人で半分ずつ、大家さんもおまけを元軍人にもらい。最後の一個は元国王がひとり占め。なるほど、合理的である。いや、何が合理的かは知らんけど。


「ねえ、これどうやって食べたらいいの? どう見ても口に入らないんだけど」

「潰せ」


 言うが早いか、社長はぎゅむっと巨大なハンバーガーを上から潰した。大口空けても入りきらないほどの大きなハンバーガー、こうやって潰して口に入るようにするらしい。なんとも豪快な食べ方だ。


「んがっ」


 潰した後に半分に切られたハンバーガーをキッチンペーパーで包んで、んがーっと大口空けてかぶりつく──潰してもギリギリなんだけど!? どんだけデカいの!? アメリカってこれが普通なの!?


「んぐぅ」


 食べにくい!!

 ──でも、おいしい! アメリカンって言うからなんとなくやたら濃い味付けをイメージしてたけど、結構あっさりしている。世界的に有名なバーガーチェーン店の方が、サイズは小さいけれど胸やけするかもしれない。元々は米軍向けのだったのかもしれないけど、年月を経るにつれて日本人向けに改良されていったのかな?


「おいしいね~」

「テディベアが持つとノーマルサイズに見えるねっ!」


 ……うん。元国王のおっきな手が持つとさすがの巨大ハンバーガーもなんか普通のハンバーガーに見える。


「いや、うん。でもぼくでもさすがに多いよこれ。日本に来て長いからさ~すっかり胃袋が小さくなっちゃって」


 食べられなくはないけどね、と普通にぱくつくあたりさすがは元国王である。


「日本に来たばかりのころは何もかもが少なくて物足りないと思っていたけどねっ。いつの間にか馴染んでしまったね!」

「そうそう。コンビニのサンドイッチとかさ~なんでこんなに小さくて少ないのに高いの? ってなってた」


 それが気付けばお味噌汁とごはん、漬物だけでも満足できる体になっちゃった~と笑いながら話す帰化コンビになんだか、関係ないはずなのにほんの少しだけ嬉しくてくすぐったくて、誇らしい気持ちになる。別にワタシの手柄ってワケでもないのに日本を好きになってもらえて、日本に馴染んでもらえたことがなんだか嬉しい。


「ふたりともすっかりにほんじんですねぇ」

「そうだねぇ~。電話している時にぺこぺこ頭下げている自分に気付いた時は思わず笑っちゃったよ~」

「人ゴミを通り抜ける時のソーリーチョップスタイルとかね!」


 ソーリーチョップ……? ああ、すみませんって言いながら片手で割るように人ゴミを縫っていくアレか。

 アレって日本人特有のものなのか。


「おい魔女、ソース零れてるぞ」

「んぐぅ!」


 ハンバーガーのおしりの方からソースが零れ落ちてしまっていた。慌ててキッチンペーパーで机を拭きながらハンバーガーの向きを調整する。中身も偏りかけていたから揉んで元に戻す。ぐぬぬ、難しい。


「口もソースまみれだぞ。餓鬼じゃあるまいし」

「んぐぅ!?」


 ぐりぐりと乱暴に口の周りを拭かれた。痛い!! もっと優しく拭け!!


「っは、まだまだお子様だな」

「うるしゃい!!」


 呪うぞっ!!


「微笑ましいねっ!」

「微笑ましいねぇ~」

「……、…………。…………」

「ふふふ。もとぐんじんさんったら」


 何やら元王子と元国王のふたりに生暖かい眼差しで見つめられて、元軍人は何故か鬼も裸足で逃げ出しそうな超怖い視線を社長に向けている。そんな元軍人に大家さんがくすくす楽しそうに笑っていて、ワタシには何が何だかだ。


「ねえ社長、お父さんに何かした?」

「してない」

「じゃあなんでアンタ睨んでんのよ」

「父親のサガというやつだ」

「父親の……?」


 なんじゃそら。



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