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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
63/185

【赤煉瓦執事喫茶のゆめいろぱんけーき】




【赤煉瓦執事喫茶のゆめいろぱんけーき】




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 さいはて荘のエントランスに飾られている巨大なキャンパスの下に陳列されている、十体のぬいぐるみ。


 その中から道化化粧を施されている猿のぬいぐるみを選んだワタシは今、〝赤煉瓦執事喫茶〟にいる。

 豹南町から電車で一時間ほど揺られた先にある都市部、そこに立ち並ぶ商業ビルの中に埋もれるようにしてひっそり佇む赤煉瓦がおしゃれな執事喫茶。


「きゃ~ん、メイド服かわいい~」


 くるぶしまであるクラシカルなメイド服を身に付けてゆゆが楽しそうにはしゃぐ。こういうお店のメイドさんってミニスカメイドなイメージだったけど、出されたのはクラシカルロングメイド服だった。女性をターゲットにしているから萌えよりも雰囲気を重視するんだって。なるほど。

 クラシカルでシンプルなマキシ丈ドレスにふんわりレースの真っ白なエプロンがよく映える。そしてそれを身に付けているゆゆもいつものツインテールじゃなくて両サイドでお団子にまとめていて、とっても可愛い。


「ゆゆにメイド服はよく似合うな」

「そう言う大王ちゃんも執事服、よく似合ってるよ~」

「大王ゆーな」


 大王はメイド服じゃなくて執事服で、この執事喫茶の標準制服であるテールコート──つまり燕尾服を身に付けている。大王の体のラインにぴったり沿ったつくりで、背が高くスレンダーな大王によく似合っている。ボディスというのかなぁ、フロント部分が大きく開いたベストを着ていて、大王のくびれがきゅっと締められて胸が強調されている。いいねぇ。


「──で、なんでワタシは羊なの!? 元王子ッ!!」


 めえめえ!!(怒)

 かっこおこるを付けずにはいられるかっ!!

 ──ゆゆにはメイド服で大王には執事服、それなのになんでワタシには羊の着ぐるみ!? もこもこあったかーいじゃないわよ!!


「OH、何を怒っているんだい魔法少女ちゃん? 似合うよ」

「似合う似合わないの問題じゃないっ!! なんでワタシだけ羊なのよっ!!」

「似合うと思って」

「うがー!!」


 めえめえ!!(怒)


「似合うよ、黒錆ちゃん(笑)」

「かっこわらいつけるなっ!!」

「でもかわいーぜ、黒錆ちん。もふもふで」


 そう言いながら羊の白いもこもこに包まれたワタシの頭を撫でてくる大王についじっとりとした視線を向けてしまったのは仕方ないと思う。

 ワタシも執事服着たかった……。


「おしゃべりはここまでにしようか。キミたち、仕事の説明をするからしっかり聞きたまえよ」

「はぁい。レオンさんそうしていると本当に王子様みたいですねぇ」


 うっとりと頬を赤く染めたゆゆが元王子に見惚れる。──確かに今の、執事服を着ている元王子は本物の王子様みたいだ。金髪碧眼のキラキラ王子様。イケメン滅べ。

 ああ、ちなみにレオンってのは元王子の本名。とは言っても帰化してるから草田(そうだ)レオンって名前だけどね。


「アパートで会った時はコスプレしてたもんな」


 そうそう。ゆゆと大王が前、さいはて荘に泊まりに来た時元王子と会ったんだけど……なんか赤いタイツ着てた。ロボットアニメに登場するパイロットのスーツとか言ってたけど……うん。大王もゆゆも何とも言えない顔をしていた。顔は超絶イケメンなのに口を開けば残念な元王子に何とも言えない顔をしていた。シュールだった。


「ここ執事喫茶は普通のカフェとは違うからね。しっかり覚えてくれたまえよ──ここで売っているのは料理でも珈琲でもない。〝夢〟さ」

「ゆめ……」

「〝雰囲気〟であり、〝世界〟であり、〝夢〟──それをここ赤煉瓦執事喫茶で売っている」


 元王子はそう言うと他の執事さんを呼び寄せて、接客の基本スタイルを教えてくれた。ワタシたちはメモ帳片手に台詞やらお辞儀の仕方やらを必死に覚えていく。

 開店時間まであと二時間──頑張らねば、ってワタシ羊なんだけどどうすればいいの!?




 ◆◇◆




「おかえりなさいませ、お嬢様」

「おかえりなさいませ、コートと鞄をお持ちいたします」

「めえめえ」


 からんからんと軽快な音を立てて開いた扉に、ワタシたちは一斉に頭を下げる。

 羊のワタシはどうすればいいのかって聞いたらめえめえって鳴いてたらいいんじゃないかなと適当なことを言いやがった元王子を心の中でボコりながら、とりあえず鳴いておく。


「あら! びっくりした、かわいい女の子たちね」

「おかえりなさいませ、驚かせてしまい申し訳ございません。こちら本日付で赴任してきました見習いの者たちでございます」


 と、元王子が優雅な礼を取りながら説明してそこに付け加えるように職業体験である旨を伝えた。お客様のマダムはそれで納得したようにワタシたちを眺めて頑張ってね、と声をかけてくれた。

 それから席に案内して、そのお客様は常連とのことなのでメニューを出さず大王がそっと耳元に囁きかける。


「何かお召し上がりになりますか?」

「いつものパンケーキをお願い」

「かしこまりました、お飲み物は如何なさいますか?」

「いつもの紅茶を」

「すぐに持ってまいりますのでどうぞおくつろぎください」


 そう言って元王子に比べると幾分か見劣りするものの、綺麗な礼を取って大王がバックヤードに戻ってくる。それにバトンタッチするようにワタシが相手役としてとことことマダムの元へ行った。


「めえめえ」

「あら、羊さん。可愛いわね」

「めえめえ」


 ──これでいいのか、おい。


「羊さん、レオンを呼んでちょうだい」

「めえ」


 了解です、と示すように敬礼をしてからとてとてとバックヤードに戻る。そうすれば元王子が颯爽と、すれちがいざまにワタシの頭を撫でてマダムの元へ向かっていった。


「ふはぁ……なんか違う世界って感じで息が張り詰めるね」

「確かに。メニューを見せないってのがびっくりだ」

「あのお客様は常連だからね。いつも頼むものは一緒だし、他のお客様だって頼むものはあらかじめホームページで確認していることが多い」


 ワタシと大王の会話ににょっきりと元王子の同僚であるメガネの執事さんが顔を伸ばしてきた。ビクッと大王の後ろに隠れてしまったワタシに構うことなくメガネの執事さんはぺらぺらと説明を続ける。


「この店に来るお客様は〝お屋敷に帰ってきたお嬢様〟の設定だからね。家に帰ったのにメニューを見て注文っておかしいだろ? だからメニューは出さないんだよ。ご新規さんには〝コックがこちらならご用意できるとのことです〟と言ってお見せするんだ」

「へぇ~。いかにもお嬢様と執事の会話、ってかそれを再現してるんですねぇ~」


 キッチンから紅茶とパンケーキのセットを持ってきたゆゆがメガネの執事さんにそう言ってお盆を手渡す。


「そういうこと。いわばここはひとつの舞台みたいなものだね。この店の中ではお客様はお嬢様で、俺たちは執事なんだ」


 と、そう言い切ると同時にキリッと口元を締めて〝お堅いメガネの執事〟になりきったメガネの執事さんはかつりかつりとホールに出て行った。あまりの豹変ぶりに思わず茫然としてしまって、情けなくもぽかんと口を開けてしまった。


「演じる、かぁ……みんなで劇をやっているみたいだね」

「やっているみたい、じゃなくてやっているのさ! ここで売っているのは〝夢〟だからね!!」


 そんな溌剌とした声と同時に元王子が帰ってきた。キラリと白い歯が輝いて素晴らしく腹立つ。


「〝夢〟──」

「そう、お客様はここで何かを食べたいんじゃない。〝執事に傅かれるお嬢様に成る〟という〝夢〟を見たいんだ。そしてそれをボクらは叶えるために在る」


 執事とお嬢様の関係を味わう場所。

 料理ではなく雰囲気を食するところ。


「それが執事喫茶……」


 パンを売る元国王。

 家庭の味を売るお蝶。

 ──〝夢〟を売る元王子。

 同じ食品を扱う仕事でも、色々あるんだなぁ。


「じゃあさ、元王子。元王子は仕事に必要なものってなんだと思う?」


「〝()()()〟だね」


 はくりせい。剥離。


「公私は分けるべきだってよく言うだろ?」

「うん」

「その通りなのさ。仕事とプライベートは剥離しているべきだとボクは思っている」


 私生活に仕事を持ち込んだり、また仕事に私生活を持ち込むと〝切り替え〟がうまくいかなくなって破綻する──そう言って元王子はゆるやかに微笑んだ。


「フェアリーやテディベア、キングもそうだろう? 仕事をしている時とさいはて荘にいる時の彼らは違う」

「……うん」


 確かに、パン屋や定食屋で仕事をしている時の元国王とお蝶はとても真面目だ。さいはて荘の元国王やお蝶とはだいぶんイメージが変わる。

 社長は知らん。さいはて荘のしか知らんぞワタシ。


「この店はまさに〝()()()〟の象徴みたいなものだね。いつもと変わらないありふれた世界──けれど店の中に入ると一変、非現実的な世界が待っている」


 その剥離性をお客様は求めているのだと元王子は語る。


「プライベートは心安らぐ空間でありたい。大切な人たちと穏やかなひとときを過ごす世界でありたい。けれど仕事には〝螺旋の責任〟が伴う」

「螺旋の責任?」

「ボクの持論なんだけどね。どんな会社にも飲食店にもグループにも、そこに属する以上は複雑に絡み合ってねじれた責任が発生してしまうんだ」


 例えばただの駄菓子店にしても、駄菓子店の主人にはいくつもの人間関係が生ずる。お客様との関係もそうだが駄菓子を調達してくれる業者とも関係を持つことになるし、税金の関係で税務署と、近隣の小売店との関係を良好に保つためにも組合と──と、いうように様々な関係が生ずる。

 お蝶も言ってたな、これは。


「仕事だと赤の他人と金銭が絡むからなおのこと責任は螺旋状にねじれて、複雑に、けれどなかなかほどけない厄介なものになっていくんだ」


 だからこその〝()()()〟だと元王子は語る。


「ま、極論を言えばこの店のお金をボクがさいはて荘の家賃に勝手に使ったら横領罪だ。公私混同ダメ、ゼッタイ」


 そしてね、と元王子はワタシの羊の耳をぐりぐりとこねるように撫でる。ワタシの耳じゃないから何も感じんぞ。


「〝()()()〟が成り立っていれば成り立っているほど、さいはて荘に──家に帰って来た時〝帰ってきた〟って安心できるんだ」


 そしてまた、頑張れるんだ。

 ここさいはて荘に帰ってくるために──ここさいはて荘での暮らしを守るために、また明日も頑張ろうと思えるんだ。

 ──そう言う元王子の目はとても優しくて、あたたかい眼差しだった。


「……女嫌いの元王子がこのお店で働くことを選んだのも、〝()()()〟がこのお店で成り立っているから?」


 ずっと思っていたことだった。さいはて荘の女性陣以外には淡白な元王子が、何故女性と関わる機会の多い執事喫茶で働いているのか。


「そうだね。ここで働くようになったのはスカウトされたのがきっかけだったけれど──ここに訪れるお客様は〝夢〟を求めて演じるからね──トラブルが全くないというワケじゃあないけど、楽なのは確かだ」


 時折元王子に本気でアプローチするお客様が現れて多少のいざこざを産みはするものの──この店に訪れるお客様は大半がひとときの〝()()()〟を求めてやってくるという明確な目的がある。だから、元王子の嫌う女性の一面を見る機会が()()()少なくて済むんだそうだ。


「まったくもって、何故女性は()()()()()のだろうね」


 おいやめろ。ゆゆと大王の顔が引き攣っている。


「──さて、お嬢様からリクエストだ。お嬢様がキミたち三人にパンケーキをプレゼントするとのことだ。演じきりたまえよ、新人執事くん、新人メイドくん、新人──新羊くん」


 なんと。

 マダムがワタシたちとパンケーキを食べたいとワタシたちの分も注文したらしい。いつの間にかワタシたち三人分のパンケーキを持っていた。てか片腕にお盆みっつ、すごいな元王子。サマになっていて腹立つ。

 ──剥離性。私生活と仕事。現実と、夢。

 ここはお客様に夢を見せる場所。

 ここは夢を見るところ。




 ◆◇◆




「どうかしら? うちのコック自慢のパンケーキなのだけれど」

「たいへん美味しゅうございます、お嬢様」

「わたくし、こんなにおいしいものを食べたのは人生で初めてでございます。お嬢様のお心遣い、心より感謝いたします」

「めえめえ! めえめえ!」


 なんだこの羞恥プレイ!!


「羊さん、とってもおいしそうに食べるわねぇ」

「めえ!」


 いや、マジでおいしい。

 料理は二の次で夢を売るところって元王子は言ってたけど、このパンケーキむっちゃおいしい。親指ほどの厚さがあるふっくらパンケーキはとてもしっとりしていてぱさついてない。それなのに外側はほんのすこしさっくりカリカリに焼けていて、ふわふわもっちもちな中身とあわせてとってもおいしい。

 メープルシロップと生クリーム、それにチョコアイスがあって好きなように味付けして食べられるんだけれどワタシはぜいたくに全部のっけて食べている。羊だからね! 羊ってどんな風に食べるのか知らんけど!!

 大王やゆゆは執事とメイドらしく上品にひと口ずつ食べている。羊でよかった。おいしいものはかぶりつきたい派である。


「三人とも今日限定というのが残念ね」

「そう仰っていただけるとは感慨の極み、痛み入ります」

「わたくしもお嬢様の元でもっと働きとうございます」

「めえ~」


 大王もゆゆもサマになってるな~。

 ゆゆはアレだ、元巫女のを参考にしている感じがある。前に泊まりに来た時、とても綺麗な言葉遣いだってゆゆ言ってたもんね。

 ふたりに比べてワタシのなんと哀れなことよ。社長にだけは見られたくない光景である。


「学校はどう?」

「ちゅ──、執事、学校は厳しいところでございますが一人前の執事となるべく毎日励んでおります」


 おお、執事学校。なんかそれっぽい。


「一人前となりあるじを持てるようになった時、お嬢様にお仕えできればよいのですが」


 そう言ってほんの少しだけ憂いを帯びた表情を──やるな、大王。マダムが嬉しそうだ。


「わたくしもお嬢様にお仕えしとうございます。今はまだ半人前でございますが……お嬢様のお傍にいても恥ずかしくないよう尽力いたします」

「めえ! めえ~!」


 訳:め~も頑張るめ~!

 なんかミジメだ。

 ああ、それにしてもこのパンケーキおいしい。ふわふわしっとり、けれどサクサクまろやか。ああ、んまい。


「羊さんはもっと食べてもっと大きくなならないとね」

「めえ!」


 ──ジンギスカン……いやっ違っ。

 このふわふわもこもこウールをもっともこもこにしなさいってことよね!


「──あら、もうこんな時間。お茶会に誘われているのよね」

「お出かけでございますか、お嬢様」

「ええ。これを」


 そう言われてすっとクレジットカードを出してきたマダムに、これまたすっといつの間にか出てきていた元王子が受け取って恭しく礼をする。

 マジでこうしてると王子様そのものだな、元王子……。


「コートを」


 メガネの執事さんがすっと出てきてマダムに着せる。これまたそつのない動き。大王とゆゆの演じっぷりすごいなーと思っていたけどやっぱり本職には敵わない。──いや、こいつらも別に本物の執事ってワケじゃないんだった。


「また来てちょうだいね」

「はい。よりお嬢様のご期待に応えられるよう磨いてまいります」

「ほんのひとときとはいえ、お嬢様にお仕えできたこと誠に嬉しく思います」

「めえめえ」


 ──そうしていってらっしゃいませ、とマダムを見送ってワタシは思わずふうっと息を吐く。


「気を抜いちゃダメだよ、魔法少女ちゃん! これからお昼時──〝お嬢様〟が何人も来るからね」

「……ワタシこのままずっと羊なの?」

「いいじゃあないか可愛くて」


 面白いし。

 めえめえ!!(怒)

 と、軽い応酬をしつつワタシはテーブルに残ってたパンケーキを一気に頬張って空にする。お遺しダメゼッタイ。


「キミらもバックヤードに戻ってゆっくり食べなよ。おつかれ、なりきって食事するのは大変だったろ?」

「ありがとうございます」

「もぉ息詰まって息詰まってぇ」


 〝夢〟を売る──簡単なようで、けれどやはり難しかったらしい。ただめえめえ鳴いてればよかったワタシと違って。


「中学校って言い掛けた時少し慌てた。執事に中学校ってあんのか? って」

「執事学校と言い換えたのはナイスだったね。現実世界は極力持ち込まない、現実とは剥離した夢の世界──それがここだからね」


 GOOD JOBと元王子が大王の背中をぽんっと叩いて、大王は安心したように目を細めて笑った。

 でもそうか、〝()()()〟ってそういうことか。

 お客様も店員も、互いに互いの役割を理解した上で演じ切る。なにもここに限った話じゃない。お蝶の店でだってお蝶は料理人として店主としてお客様の前で演じ切る。お客様側も注文する側として、食べる立場として演じ切る。ここみたいに顕著じゃないだけで──仕事をする上ではみんな何らかの形を演じて取引をするんだ。

 演じなくてもいい私生活とは、違う。


 だからこその〝()()()〟なんだ。


「ありがと、元王子。ワタシが何をしたいのか──それはまだ分からないけど、でもなんか少しだけ知れた気がするよ。何について知れたのか、説明できないけど」

「それが経験だからね。何を知れたか、じゃないのさ。何を感じたか──それが肝心なんだ。もっといろんなことを経験したまえよ」

「うん」


 よし、あと数時間の職業体験──しっかり羊になりきろう!


 ……いや、やっぱりおかしいぞこれ。羊って。




 ◆◇◆




「魔女」

「あん? 何よ」


 執事喫茶での職業体験を終えてさいはて荘に帰ってきたその日の夜。

 予定でもないのに何故か帰ってきた社長が何やらうすら笑いを浮かべてワタシに近付いてきた。なによその笑い。


「よく似合うぞ。待ち受けにした」


 そう言って社長はワタシにスマホの画面、を──……


「ちょっ!! なんっ!! おまっ……」

「珍しく元王子からメッセージが来たと思ったら──いい恰好をしているじゃないか。実によく似合う。ああ、実によく似合う」


 スマホの画面に映る、羊姿のワタシにせせら笑う社長に、ワタシは絶叫した。


「元王子呪うッ!! 呪うッ!! あンの猿ッ!! 呪うッ!!」


「どうした、褒めているのだから喜べ。似合うぞ」


「うるせぇえええぇええ!! アンタも呪うぞッ!!」


 笑うなぁああぁあぁぁ!!



 【剥離性】




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