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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
59/185

【魚市場のうみいろあらじる】




【魚市場のうみいろあらじる】




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 さいはて荘のエントランスに飾られている巨大なキャンパスの下に陳列されている、十体のぬいぐるみ。


 その中からいつものように梟のぬいぐるみを手に取る。折れた翼が印象的な、梟のぬいぐるみ。


「よし、呪うか」

「呪うなバカもん」


 しばかれた。


「だってこんな朝早くに起こすんだもん。呪いたくもなるわよ」


 ちなみに午前四時である。叩き起こされたのである。呪うぞ。今すぐ呪わせろ。


「なんでこんな時間に起こしたのよ?」

「ええところにおぬしを連れていこうかと思うてのう。始発に間に合わんから行くぞい」


 そう言ってまだ日の昇らぬ闇夜に出ていった爺を追い掛けてワタシもさいはて荘を後にする。その際に元軍人がひょっこりと顔を出してきたが、爺が事情を説明していたのか特に何も言うことなく気を付けろよ、と言うだけであった。


「あれ、元国王」

「おはよぉ……」

「駅までの足役にな。ちっと叩き起こしてやった」

「ひどいよぉ……」

「な、なんかごめん元国王……」


 両目を〝3〟のマークにしてぼんやりしている元国王に何故か巻き込まれた側であるはずのワタシが罪悪感を覚えてしまう。

 それから元国王のトラックに揺れられて豹南駅まで向かったワタシと爺は元国王と別れて、始発に乗り込んだ。


「始発ってこんな朝早くにあるんだ」

「そこそこ利用者はおるようじゃしの。利益と釣り合っとらんだろうがな」


 豹南駅は田舎の鉄道駅らしく一時間に一、二本ほどしか電車が通らない。電車は利用しないから知らなかったけど、田舎の鉄道駅にしてはそこそこ乗車率があるらしい。実際、始発だというのにサラリーマンだとか登山者らしき人とかが車内にいる。


「眠いんだけど」

「乗り換えたら一時間ほどかかる。その時に寝るといいじゃろ」

「どこ行くの?」

「海」

「海?」


 何でまた。


「ワシが行きたいから」

「わがままか!」


 元国王連れてけばいいのに──って仕事か。いや、なら仕事の元国王叩き起こして送迎させるなっ。

 ……元国王になにか作ってあげよう。パン屋の宣伝に役立つような……ちっちゃなくまさんぬいぐるみとかいいかな? レジ台に置いたらウケそう。

 と、まあそういうワケでワタシは爺に連れ回される形で海へ向かうこととなった。これって、よそから見たらおじいちゃんと孫に見えてるのかな~。

 悪くない。




 ◆◇◆




「うあ、こんな早朝なのに人多い……」

「魚市場じゃからな。漁師と商人が卸商取引をやっとる」


 夏の名残りを少しも感じさせぬ冷たい潮風が明るみ始めた空の下をそよいでいる。そして鼻孔を突く潮の香りにほんの少しくらくらしつつ、早朝だというのに人で賑わっている漁港を眺める。海は海でも漁港だった。漁港ってか、漁港の中にある……卸売市場?

 漁師らしき荒っぽい人たちが大声を張り上げてどんな魚があるか主張していて、魚屋さん……なのかな? 鮮魚を取り扱うのであろう商人たちが魚を見繕っている。寿司屋とか料亭とかの人もいるのかな?

 寿司も握れるおまわりさんの漫画でそんな描写あった気がする。


「魚を買いに来たの?」

「土産に買って帰ろうとは思っとるがのう、目的は違う」


 そう言いながら爺は魚市場の中をゆったりとした足取りで進んでいく。漁師さんから魚を勧められるが、爺はそれに一切反応しない。しようとしない。

 そしてそれはワタシも同様──と、いうかそもそもワタシは知らない人間と話すのが苦手だ。怖いから。

 ぎゅっと爺の腕を掴んで頭上を飛び交う漁師さんたちの荒っぽい声に縮こまる。怖い。やっぱり、知らない人間は──特に大人は、怖い。


「無視しとれ。無理に関わろうとせんでいい。興味ないじゃろ」


 ()()()


 そういえばそうだったと思い出す。

 爺はさいはて荘以外の人間に対して無関心だ。全くと言っていいくらい、無関心だ。興味の持てない人間関係は──人間(ひとあい)は、築こうとしない。さいはて荘以外で爺と過ごすことってほとんどないから忘れていたけど──爺は、興味のあることにしか関心を抱こうとしない、まさに我に生きている人間だ。

 さいはて荘の中だとかなり愉快で面倒見のいい爺さんなんだけどね~。


「爺って色んなものに無関心だったんだよね、昔」

「ん? なんじゃい藪から棒に。そうじゃが、それがどうした?」

「でも仕事には関心あったんだよね? 重役についていたこともあったっぽいし……」

「関心──と、言っていいのかどうか分からんがのう。分かりやすい目標と目に見える結果、それでやりやすかったのは確かじゃの」

「ふぅん……その仕事をやりたかったとか、この会社に入りたかったとか、そういった気持ちはあったの?」

「──どうだったかのう。大手であれば何でもいいとは思っておったかもな」


 ……いおりんみたいな感じかな?

 世間体的に悪くなくて、安定していて、無難な仕事。


「じゃあさ、爺に聞いていいのかどうか分かんないけど──仕事に必要なものって何だと思う?」


「〝()()()〟じゃな」


 即答であった。


「にんげんせい……」

「ワシ見りゃわかるじゃろ。人間性の欠片もない欠陥人間じゃもん」


 じゃもん言うな。


「ワタシ、さいはて荘以外の爺知らないし」


 ──でも確かに、今こうして会話している間にも漁師さんたちから声がかかってくるけれど爺は無視している。関心を抱かない。持とうとする素振りさえ見せない。魚市場の中を行き交う人々の〝()〟を、爺は見ない。


「責任の持てない人間(ひとあい)は築くな──前、そう言ったがの。限度はある」


 明らかな客寄せは無視しても問題なかろうが、好意を持って話しかけてくれとる相手を興味がないというだけで無視するのは違う。

 そう言って爺はワタシの目を見上げてきた。歩くときはゆるやかに背筋を曲げている爺の視線よりも、いつの間にかワタシの視線の方が高くなったことにこの時ようやく気付いた。


「ま、おぬしは大丈夫じゃ。中学校でもうまくやっとるようじゃしの。あとはこういう有象無象に惑わされんようになるだけじゃな」

「……爺は仕事していた時の人間関係……人間(ひとあい)、どうしていたの? 人間性が欠如しているって言うけど……でも爺、重役にまで上り詰めていたんでしょ?」

「その結果、ワシはどうなっとる?」

「え?」

「ワシがさいはて荘以外の人間と交流したのを見たことあるか?」

「……ない」

「じゃろ。ワシはさいはて荘と巡り合えた、それだけで世界の誰よりも恵まれとると思っとるがのう……世の中にはの、何も残らなかった人間がおる」

「なにも、のこらなかった……」


 ワタシの言葉に爺は頷いて少し背筋を伸ばし、魚市場を見回す。


「ここにおるやつらは互いを尊重しとる。漁師仲間を大切にしよるし、商売相手も無下に扱おうとは絶対にせん。ワシらのような一般人の客に対しても多少荒っぽくはあるが魚の捌き方やおすすめの料理方法を教えるなどサービスがいい」


 ──お蝶が言うには、じゃがの。

 そう付け加えて爺は興味を失くしたように背筋を戻してふう、とひと息吐く。


「話の続きは後じゃ、さっさと行くぞ──腹減った」

「あ、うん」


 ワタシもお腹空いた。

 そういうワケで一旦会話を打ち止めにしてワタシは爺について魚市場の中を進んでいく。爺の目的地はどうやら魚市場の奥で営まれている飯処のようであった。漁師が主な客層だからなのかとても質素なつくりで、強烈な魚の匂いが店内に充満している。


「ここは朝と夜のみ営業してての。取れたての魚を肴に酒呑めるんじゃ」

「えっ、まさか朝っぱらから酒呑むつもり?」

「そうじゃ。朝イチの酒は体にいいんじゃぞ?」

「そんなわけあるか!」


 これだから酒呑みはっ!

 と、爺が呑みすぎないよう見張ろうと静かな決意をしたワタシをよそに爺は店主に声をかけて朝食のセットをふたつ頼んだ。(おとこ)のとれたて朝食セットと、とれたて朝食セット。〝漢〟ってつくメニューは日本酒とセットらしい。メニューにあるってことは頼む人間が他にもいるってこと!?


「へい、今日は海鮮丼とあら汁のセットだよ」


 朝から海鮮丼。


「ここのメシはうまいぞ」

「朝っぱらから海鮮丼ってのはともかく、とれたての魚ってのはおいしそうだね」


 ほどなくしてでん! とテーブルに海鮮丼とあら汁のセットが置かれた。爺の方には日本酒付き。


「あら汁がのぉ、特に絶品じゃ。酒によく合う」

「へぇ」


 とりあえず手を合わせていただきますをして、あら汁に手を伸ばす。身がほどよく残っている骨がこれまた豪快に汁にブチ込まれている。

 まずは汁の方をすす──あっつ!


「熱っ……でもおいしい」


 魚のダシがよく融け込んでいる。体に馴染むというか、染み込む味だ。こういう汁ものって不思議だよね。熱いけど飲むとほっと安心する。じわーって体があったかくなって、魚の風味で胸もいっぱいになっていくというかさ。

 何の魚を使っているのかと店主に聞いてみれば太刀魚らしかった。初めて食べた。刺身も海鮮丼に使ってるらしい。


「ん~、おいしい」


 あら汁の骨をつまんで吸うように身を口に含む。ほろりと身が融けて、けれどふわふわとした食感もある。噛めば噛むほど魚の風味が口に広がってたまらない。


「うまいじゃろ」

「うん」

「人間もな、同じじゃ。人生に()()()が出るかどうかは〝()()()〟によるものじゃと言ってもいい」


 仕事だけに生き、家庭を放棄した爺が家族を失ったように。


「熟年離婚とか、よく聞くじゃろ。家庭を顧みてこなかった人間が捨てられるという話」

「うん。モラハラだとかDVだとか……ああ、人間性ってそういう……」

「そうじゃ。仕事をする上でも同じ。ワシは仕事に生きているようなもんじゃったが、今のワシには何も残っとらん。何故か分かるか?」

「……人間(ひとあい)を築いてこなかったから」

「そうじゃ。結果が全て、そう思って上司も同僚も部下も、その人間性をワシは見てこなかった」


 そうして重役にまで上り詰めた爺には、信頼できる人間というのがひとりもいなかった。退職する時さえ、形式的に見送りされただけで爺がいなくなることを惜しむ人間はひとりもいなかったそうだ。


「ワシが持っているスキル、人脈、マネジメント。それらさえ吸収しきればワシなぞいらん存在でしかない」


 その人間がどんな天才であろうと。

 そこに〝()()()〟が伴っていなければ〝次〟は存在しない。


「〝()()()〟の欠如してる天才が死後有名になるパターンとかもじゃの」

「…………」

「仕事をしていく上で能力は重要じゃ。能力がなければ結果を出せん。努力をして能力を伸ばしていくことは必須。じゃがな──能力だけじゃと最後には何も残らんよ」


 どんなに有能な上司でも、パワハラする人間であれば部下たちからは尊敬の眼差しではなく憎悪の眼差しを向けられる。

 どんなに仕事の速い企業でも、鼻のつく横暴な態度であれば取引先からは忌避されそっぽを向かれる。

 どんなに金に困らない裕福な家庭であろうと、家庭を全く顧みない親であれば子からすれば毒親でしかない。


「〝()()()〟は気付きから始まる。魔女っ子、おぬしも色んな人間を見てきて知ったことがあるじゃろ。その知ったことについて考えることを放棄するでないぞ──それはおぬしの人間性を育てていくことになるからの」

「うん」


 頷きながらあら汁をすすって、骨をしゃぶる。

 人間性。

 ──正直、ワタシの人間性がどんなものなのか全然分からない。かなりひねくれてる自覚はあるけれど、どうなんだろう。

 ワタシの〝()()()〟──……


「かーっ、これじゃこれ。あら汁を肴に呑む酒は最高じゃ」

「…………」


 朝っぱらから酒を呑む爺はどうかと思う。

 けれど、でも。

 でも──

 でも、ワタシは爺が言ったように爺の〝()()()〟が欠如してるだなんて思わない。だってこうして爺はワタシと向き合って、子どもであるワタシにも真摯に語りかけてくれる。

 昔の爺がどうだったか知らないからこそなんだろうけど、でもやっぱりワタシは爺の〝()()()〟が好きだ。さいはて荘の中でのんびり趣味に生きる爺が、好きだ。


「ねー、爺はさ、ワタシにどんな仕事が合うと思う?」


 海鮮丼うっま!

 太刀魚の刺身うっま! てかネタでっか! 分厚い! うっま! あら汁と合わせてさらにうっま! やっべ!


「話聞きたいのか食べたいのかどっちなんじゃ」

「あ、ごめん。聞かせて」

「やれやれ。魔女っ子に合う仕事のぉ……おぬしは職人気質なところがあるからのぉ」

「職人気質?」

「納得いくまで作業をし続けるところとかの」

「あー」


 確かに。

 さいはて荘のエントランスに飾ってある絵も、ほぼ不眠不休で仕上げたものだもん。なんというか、リミットが外れたというか……無我の境地的な。


「オーダーを受けて作るハンドメイドの職人でもいいかもの。おぬしなら素質あるじゃろ」

「オーダーメイドのお店かぁ……」


 うーむ。

 確かに何かを作るのは嫌いじゃない。でも、ワタシって〝やりたい時にやる〟ことしかやってないから……誰かに頼まれて何かを作ったことって、そういえばないかも。


「オーダーメイドの店じゃとなおのこと、〝()()()〟が問われるの。客の要望よりも自分の願望を貫き通したら客は来なくなる」

「……なるほど」


 確かに注文したものと違うものが出来上がって、〝自分はこれを作りたかったからこうした!〟なんて言われたらしばきたくなる。


「んむぅ」

「元国王あたりに造ってほしいものないか聞いてみたらどうじゃ? それで手始めにやりとりを学んでみるのもいい」

「そうだね。そうしてみる」


 そしてふと、思い付いたようにワタシがOLとしてやっていくのはどうかと問うてみた。やめとけと即答された。なぜに。


「おぬしは人の下で働くには向かんわい」

「そぉ?」

「さいはて荘に来た当初から──おぬしはワシら大人たちと()()に接しているしの」

「……対等に?」


 ……さいはて荘に初めてきた時って……ワタシ、確かみんなのこと超警戒してたと思うんだけど。大家さん以外信用できなくて、大家さんのひっつき虫になっていた。


「子どもっちゅうのはな──いや、大人でもそうじゃがの。対等であることが難しいんじゃ」

「対等であること……」


 対等。たいとう。タイトウ。同じ立場。同じ目線。同じ位置。

 ……うーん? 仲間意識というか、家族意識は持っていると思うけど……


「人間はの、たとえ夫婦であろうとも微妙に見下すことがあるんじゃ」


 夫は妻のことを愚かだと見下し。

 妻は夫のことを愚かだと見下す。

 部下は上司のことを低能だと見下し。

 上司は部下のことを低能だと見下す。

 子どもは大人のことを馬鹿だと見下し。

 大人は子どものことを馬鹿だと見下す。

 たとえ友人関係にあろうと。たとえどんなに親しい恋人であろうと。

 無意識のうちに相手が自分よりも劣っていると考えるのだという。


「アイドルなんかの偶像崇拝でもそうじゃの。見上げているようで実は見下している。実際、アイドルの不祥事や失敗に人間性を否定するファンはいる」

「…………」

「じゃが魔女っ子、おぬしは最初からワシらと対等じゃったよ。ワシらを見下すことも見上げることもせなんだ──恐れこそすれど、ワシらを否定しようとはせんかった」


 恐れながらもワシらと言葉を交わし、ワシらの言葉を理解しようと努力し──そしてワシらを知った後は尊敬の念を持ってワシらと接した。挙句には、ワシらのことをより深く理解しようと真正面から向き合ってくれた。


「…………」


 ……え? 褒められてる? えっと、そんなつもり全然なかったんだけど……これどうしたらいいの? なんか照れるんだけど。


「い……いや、ワタシだって見下すことはあるよ? えっと、同級生のいおりんとか……わりと内心ボコボコにしてるし」

「それを自覚しとるのが凄いんじゃ」


 ──誰にでもできることではない。

 そう言って爺はニッと笑い、だからワタシは人の下に付くような人間じゃないとまた言ってきた。


「おぬしは()()()()()

「そぉ? エセメガネ先生には一応敬意払ってるけど」


 うん。ちゃんと敬語も使うし敬ってもいる。夏休みの登校日にエセメガネ先生から〝()()()〟についての話を聞かされて以来はもっと敬うようになったんじゃないかな。たぶん。時々呪うけど。

 そう言いながら海鮮丼の残りにあら汁の汁を入れてかきこむ。店主曰くこの〆がうまいんだそう──うっま! これうっま! お雑炊っぽい感じでうっま! やばい、ここ通いたい。でも遠すぎる。


()()じゃ」

「え?」

「自覚しとらんじゃろ。店主と会話して、うまいことを素直に言って、店主に礼と感想を言う──誰にでもできることじゃない」

「……そんなもの?」

「そんなものじゃ」


 まあおぬしはそのままでええ。そのまま、成長していけ。それでいい──そう言って爺はまた笑い、海鮮丼にあら汁をぶち込んで飲み干し始めた。

 ……うーん。ここに記すでもない、なんてことない店主との会話──それが対等であることで、誰にでもできることじゃない……うーん。わからん。

 社交的かどうかという話なら、ワタシに社交性は欠片もない。人間嫌いは治ってないし、大人は怖いし。でもおいしいものは素直においしいと言いたいから言った。それだけだしなぁ……うーん。


「おう悩め悩め。青春しろ」

「ジジイ臭いことを……ジジイだった。青春か~もっといろんな仕事、見てみようかな」

「ああ、お蝶の店で職業体験したんじゃったか。元国王や元王子の店で働いてみるのも悪いことじゃなかろうよ。青二才んとこは職業体験は無理にしても、見学くらいはさせてくれるじゃろ」


 社長の会社を見学……!?


「神殿に行って勇者の剣を抜いてこないと」

「どこの魔王を退治しに行くつもりじゃ」


 社長。


「ちょうどいい具合にさいはて荘には色んな仕事の人間がおる。まだ若いんじゃからそれ利用してどんどん経験積んでいけ」


 ──ワシのようにはなるな。


 小さく付け加えられた爺の言葉に、ワタシはゆるりと首を横に振る。


「爺みたいに趣味に生きて、かつ仲間を──さいはて荘の〝家族〟を大切にする人間にワタシはなりたいけど」

「…………ふっ」


 ほんの少しだけ嬉しそうに口元を吊り上げて笑う爺に、ワタシもにかっと満面の笑顔を向ける。


 昔の爺がどんな人間だったとしても、ワタシは今の爺が好きだ。



 【人間性】


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