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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
53/185

【たこやき】


 タコ。

 エビ。

 ソーセージ。

 チーズ。

 ……何って? たこ焼きの身。

 たこ焼きだからタコだろって? そんな固定概念捨てちまえ。


「ホットケーキの材料もあるからたこ焼き終わったら鈴カステラもどき作るよ~」

「うわ、それ最高じゃん。中にいちごとか入れたらさらにおいしそう」

「いちごは旬じゃないから残念ながらないけどね~チョコレートは用意してあるよ~」

「ちょこ! おいしそうだね。──ってか元国王、引っ繰り返すのうまいね」

「お蝶くんに仕込まれたからね~。初めてたこ焼きにチャレンジした時はものすごく下手くそでね、潰れたたこ焼きを囲んでみんなで食べたものだよ~」


 そう言いながら手慣れたようにたこ焼きをくるくると引っ繰り返していく元国王にワタシはほぉ~、と感嘆のため息を漏らす。


「〝食っちまえばたこ焼き味だ! ガハハ〟」


 ワタシたちの手伝いもせずあぐらを組んで読書に勤しんでいる社長が無表情でそんな台詞を再生した。誰の台詞なのかわざわざ名を挙げなくとも分かる。お蝶だ。

 無表情でガハハってシュールだからやめろ。


「そんなこと言ったかぁ?」

「言ったのう。そしてロシアンたこ焼きをおっ始めおったのう」

「ロシアンたこ焼き!?」


 ──ロシアンドーナツ以前にもやっていたのか。

 ──ああ、ちなみに今はワタシと元国王、社長、お蝶に爺の五人で昼ごはんタイムである。たこ焼きである。大家さんと元軍人はデート。元巫女と元王子となっちゃんは仕事。


「わさび入りのを食べたのは元国王だったよな」

「えっ、また?」


 ロシアンドーナツの時もわさび入りのを食べていたよね元国王。


「ぼく、そんなに運は悪くないと思うんだけどね~」

「悪くはないだろうが、元国王のキャラに合ってはいるだろう。物語のオチでとばっちり喰らうキャラだな」


 ぼそりと呟かれた社長の言葉にワタシたちは確かに、と思わず頷いてしまった。


「なんで~」

「それそれ、その顔。へたれ顔って言うの? 元国王のはへにゃり顔って感じだけど」

「うむ。へにゃり顔じゃの」

「へにゃり元国王」

「みんなひどい~」


 へにゃりと眉尻を下げて、けれど決して不快には思っていない顔で嘆いた元国王にワタシたちは声を揃えて笑ってしまった。


「……もう焼けたんじゃないのか?」


 ふいに投げかけられた社長の冷ややかな声に元国王が慌てたようにたこ焼き器からたこ焼きをお皿に上げていった。


「だし醤油とソース、好みの方で食べなよ~」


 そう言いながら小皿を手渡してきた元国王に礼を言って、ワタシはいそいそとソースとマヨネーズを手に取る。まずは王道に。


「ワシはだし醤油が好みじゃな」

「アタシはどっちも好きだぜ~社長はどっちにする?」

「だし醤油」

「へいよ」


 刷毛でだし醤油をたこ焼きに塗り付けたお蝶が小皿を社長に手渡せば、社長は間髪入れずぽいぽいと口に放り投げて頬張り始めた。腹減ってたのか?


「やらんぞ」

「いるかっ!!」


 お前じゃあるまいし!


「いただきま~す」


 ソースとマヨネーズ、それに青のりをまぶして王道たこ焼きを完成させたワタシはさっそくつまようじでひとつ、口に運ぶ。


「はふはふ」


 焼きたてほかほかのたこ焼きの熱を口内で転がしながら取りつつ、ある程度熱がほどけたあたりでがぶりと歯を立てる。

 かりかりさっくりとした衣の中にはもっちりとした身が詰まっていて、ソースやマヨネーズと絡み合って舌を楽しませてくれる。さらに歯を突き立てればもちもちとしたソーセージの具に当たって、ソーセージ入りたこ焼きであったことを知る。

 ん~、おいしい。


「おいひい」


 小ぶりのたこ焼きはあっという間に喉の奥に消えて、けれど口寂しさを覚える前に次のたこ焼きを頬張った。

 ──今度はとろりと融けたチーズがたこ焼きの中から溢れてきて、これまたたまらなくおいしい。B級グルメここに極まれり、って感じのものすごく親しみある味。社長曰くジャンクな味だがそこが癖になる、らしいけどその通りだと思う。


「だし醤油もほら、食べてみなよ~」


 そう言いながら元国王が差し出してきた小皿にワタシは遠慮なくつまようじを突き刺して一個、ぽいと口に放り投げる。

 おお……おいしい。だし醤油味たこ焼きって初めてだけど、すごくおいしい。なるほど、爺や社長が好むわけだ。ソースやマヨネーズで味付けたたこ焼きのようながっつり感はないけれど、あっさりしている分とても口当たりがよくて口内でとろかすように味わって食べられる。


「おいひい」

「ッフ」

「む」


 たこ焼きに舌鼓を打っていると横から鼻で笑う音がして、ワタシはじろりと社長を睨み上げる。何よっ!


「いや? あまりにも元国王そっくりな顔だと思ってな」

「えっ」

「失礼ねっ! まぬけな顔になんてなってないわよっ!! 呪うぞっ」

「えっ」


 ひどい社長くん、魔女くん。

 ぼくそんなにまぬけな顔してないよ~。


 ──そうへにゃりと眉尻を下げて文句を言ってきた元国王にワタシと社長は、思わず吹き出すように笑ってしまった。

 そんなワタシたちを見て元国王も、おかしそうに笑った。


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