【あいすくりーむ】
今日も今日とてさいはて荘は全力で緑色である。
葛のつるに覆われたさいはて荘は築何十年も経ったかのような佇まいを醸し出しているが、実は新築である。そう、新築なのだ。前の木造アパートから建て直して数年も経っていない。ピッカピカの新築。
「やれやれ……葛は油断すると中にまで入り込もうとして来る」
葛のつるをハサミで断ちながら元軍人がため息を漏らす。その隣でワタシは切り落とされた葛を集めてかごに入れる。後で焼却するのだ。葛はその名の通りクズのように使い道がない植物で、食用にするにしても手間がかかる上に繁殖に消費が少しも追いつかない。ゆえに燃やすしかないのだ。
「だがおかげでこの自然豊かな光景に馴染む素晴らしい建物になったろう?」
そう言いながら白い歯を見せて親指を突き立てるのは元王子──犯人である。そう、犯人だ。コイツがどこからか持ち込んできた葛が一夜にして新築であったさいはて荘を緑色に染め上げてしまったのである。一体どこから持ち込んできたんだ。一晩でこうなるとかなんなんだこの葛。
建て直したばかりのさいはて荘をこんな風にされて、さすがの社長も静かにキレて元王子の胸倉を掴んでいた。元王子は笑っていたけど。
「まあ、確かに悪くない景観になったとは思うがね──管理が面倒だ」
放置しておくとさいはて荘が某森の精マスコットのように緑色の塊になってしまう他に、虫が湧くなどの害も生じてしまう。だからこうして元軍人が管理している。
「お~い、みんな~。アイスクリーム作ったから休憩しようよ~」
と、その時元国王のほんわりとした声が三階から降って来てワタシはあいす! と思わず喜色に声を上げてしまう。
そうして葛刈りをいったん止めたワタシたちは縁側に集まり、休憩がてら元国王が持ってきたアイスを食べることになった。
「バニラとチョコ、抹茶を作ったからさ~好きなように食べちゃってよ」
そう言いながらどかりと縁側にクーラーボックスを置いた元国王はその蓋を開ける。中にはみっつの箱が入っていて、それぞれにバニラアイスとチョコアイス、抹茶アイスが入っていた。市販のと違って手作りだからなのか、濃いチョコレートの匂いと抹茶の匂いがふわりと漂ってくる。こりゃたっぷりチョコレートとお抹茶使ってるな。
「抹茶は少し濃い目に抹茶を混ぜたから苦みがあると思うけど、好みに合わせてバニラと併せるといいよ~」
「もとこくおうさんね、すこーんもつくってくれたの。ほら」
管理人室から大家さんが出てきたかと思えば焼き立てのパンのような香ばしい匂いが香ってきた。元国王があらかじめ作ってあったスコーンを焼いてきたらしい。最高じゃん。
ワタシは早速焼き立てほかほかのスコーンに抹茶アイスとバニラアイスをひと口ずつ載せてかぶりつく。
お抹茶の苦みを殺すことなく、けれど苦みを優しく蕩けさせたアイスが濃厚なバニラと混ざって最高にまろやかなお抹茶アイスと化す。それがスコーンのバター香るさくさくとしたビスケットと合わさって、もう最高。
「おいひい」
「はははは、その顔いいね~」
ワタシの緩み切った顔に元国王が大口を開けて笑う。少し照れ臭くなるけど、しょうがないと割り切る。だっておいしいもん。
「FOO!! ジャパニーズ抹茶アイスは最高だね。日本人の誇りだよ、これは」
「私はチョコが好みだな。チョコの欠片が混ざっているのがまたいい」
「どれもおいしいです、もとこくおうさん」
元王子も元軍人も大家さんもアイスとスコーンに舌鼓を打つ。打たざるを得ない。こんなにおいしいアイス、他にない。
「今度、アイス天ぷらってやつに挑戦したいんだよね~」
「あいすてんぷら?」
なんだその珍妙なメニューは。
「そのまんま。揚げアイスとも言うね~。アイスをパンかすで包んで揚げるんだよ~。外側のさっくりとした熱い衣と中の冷たいアイスの感触がおいしいらしくてね~」
「へぇ~、おいしそう。でも難しそうだね」
「アイスが油に触れないようにしっかり衣で包まないとすぐ溶けちゃうだろうしね」
でも元国王なら作れそう。
「作る時には声掛けるよ~」
「絶対ね」
元国王とお蝶の試作品は全てワタシの胃に収まると前世から決まっているのである。誰が決めたのかって? ワタシ。
「そういえば元国王、お前が休みということはお蝶も休みだろう? その割には姿を見掛けないが」
「ああ、お蝶くんなら爺さんとデートだよ~。酒盛り用の酒を買いに行くんだって~」
相変わらずだなあのふたり。
「相変わらずだな」
同じ感想を抱いたらしい元軍人が仕方なさそうに口元を緩めながらアイスを載せたスコーンを頬張る。
「フェアリーといえば魔法少女ちゃん、今度フェアリーの店でバイトするそうじゃないか」
「へ?」
バイト?
お蝶の店──おっさんどもから金を毟り取──違う、もろみ食堂。
「なにそれ」
「おや? 違うのかい? フェアリーが魔法少女ちゃんに職業体験させると言っていたんだがね」
「職業体験──」
そういえばこの間、そんな話をした。けど、なぜにワタシがお蝶の店で働くことに?
「しょくぎょうたいけんするの? とってもすてきなかんがえ!」
大家さんが満面の笑顔でワタシの頭をよしよしと撫でてきた。いや、ワタシ初耳だって。
「お父さん……」
「いいんじゃないか? 嫌じゃなければやってみるのもよし、だ。お蝶がどんなことをしているのかを知れるというのもあるが、お蝶がどう地元の人間と関わっているのかも知れる。けして悪い経験にはなるまい」
「むぅ」
もろみ食堂で職業体験──皿洗いとか接客とか、そんなあたりをすることになるのかな? 悪くは……ない、かな?
「なんならぼくのお店でも職業体験するといいよ~」
「OH!! ならボクの働いている執事喫茶にも来たまえよ! ボクが話をつけておくからさ!!」
なぬ!?
待て、パン屋さんはともかく執事喫茶って、ワタシが執事になるの? 執事になってマダムの相手をするのか? 執事服を着てキリッとキメて……ふむ、悪くな──いやいやいや。
うーむ。




