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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【だんご】


 くるくる、くるり。

 ころころ、ころり。


「上手上手~」


 元国王がにこにこと屈託のない笑顔を浮かべながら褒めてくる。ワタシ見た目こそ小学二、三年生くらいだけど一応、もう五年生にあたるんだけどなぁ~。


 くるくる、くるり。

 ころころ、ころり。


 ここは元国王が経営しているパン屋、“元王様のパン屋さん”。そのまんまである。本当に王様だったのかどうか疑わしいけど。元王様のパン屋さんはさいはて荘から自転車で三十分ほど走ったところにある小さな田舎町の中にある小さな、本当に小さなパン屋さんである。小さいながらも町の人々──特におばさんおばあちゃんたち中からは愛されているおいしいパン屋さんらしい。元国王見た目海外の映画俳優みたいでかっこいいしね。


 そこでワタシは元国王が白玉粉にきび砂糖をほんの少しだけ混ぜて水とこねたものを少しずつ千切って、くるくると丸めてだんごにしていっているところだ。


「どんなだんごにするの?」

「みたらしだんごだろ~、あんだんごだろ~、きなこだんごだろ~、ごまだんごだろ~、くりだんごだろ~、揚げだんごだろ~、しょうゆだんごだろ~、みそだんごだろ~、まっちゃだんごだろ~、くろみつだんごだろ~」

「結構いっぱい作るんだね」


 よくよく見れば元国王の手元にはボウルがたくさん並んでいて、中に色んな調味料が混ぜられている。お鍋もいくつもコンロにかけていて、中からあんこ特有の甘い匂いが漂ってきている。


「町の人たちのお花見だからね~。町の南に川、あるだろ?」

「知らない」


 外に出ないもん。

 人嫌いだし。

 今日だってだんごを分けてくれるって話じゃなかったら元国王と一緒にここに来なかったし。


「綺麗な川があるんだよ~。とても透き通っていてね~魚もたくさんいるんだ。そこに桜並木があってね~散りかけの今、すごく綺麗な桜吹雪なんだよ~。だからぜひみんなでお茶とおだんごを食べたいっておばちゃんたちに言われてね~」

「ふぅん」


 費用もおばちゃんたちが出してくれたんだそうだ。ほんとマダムキラーだな元国王。


「昨日は元軍人さんと大家さんがそこでデートしてたよ~」

「何それ詳しく」


 ワタシの知らぬ間に!


「絵になってたよ~。元軍人さん、いつもの作業着じゃなくて和服着ててね~大家さんが元軍人さんの腕に掴まって寄り添ってて……写メったけど見る?」

「送って」


 元国王が笑いながら作業を一時中断してガラケーをぽちぽちと操作する。スマホに変えればいいのに。

 メールの着信音がして、ワタシも白玉だんごを作るのを中断して手を洗ってから黒いワンピースのポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す。社長が保護監視のためだとくれたやつである。超上から見下しながら。


「おお~、元軍人やるじゃん」


 桜の花びらが舞い散る中、藍色の和服を身に付けた元軍人が大家さんをエスコートしている写真に思わずため息が零れる。


「早く結婚すればいいのに」

「ははは。そのうちすると思うよ~本人たちにもタイミングってのがあるしね~」


 元国王はそう言って柔和に笑うとだんご作りを催促してきた。はーいと返事しつつ、またスマホの画面に視線を落とす。やっぱ、早く結婚すればいいのに。


 ◆◇◆


 少し焦げたはちみつのようなとろとろのたれが輝いているみたらしだんご。

 ずっしりとした重量感のあるあんこに包まれた黒真珠のようなあんだんご。

 砂丘のようにさらさらとした小麦色の粉でまぶされている甘そうなきなこだんご。

 たれをたっぷり絡ませた白玉だんごに黒ごまをこれまたたっぷりとまぶしたごまだんご。

 すり潰した栗とあんこをよく混ぜて滑らかな黄金色になった栗あんで包んだくりだんご。

 白玉だんごの中にあんこをたっぷり詰めて、白ごまもたっぷりまぶして揚げたあつあつの揚げだんご。

 甘じょっぱい砂糖醤油のたれを白玉団子に薄く塗って焼き上げたカリカリしょうゆだんご。

 赤味噌に砂糖で作った甘い味噌だれで絡めた甘くも大人の味がするみそだんご。

 少し苦い香りのする抹茶の粉を砂糖で優しく味付けして白玉だんごに練り込んだまっちゃだんご。

 きらきらと輝く黒蜜を贅沢にたっぷりコーディングしたくろみつだんご。


 とろけるような甘さとふやけるような幸せで心がほわんほわんとなってしまうだんごの山を前に、大家さんは両手を合わせて満面の笑顔で喜んでくれた。


「まじょちゃんがつくってくれたの? すごい! とてもあまくてやさしいあじがしておいしい!」

「わ、ワタシは白玉だんご丸めただけだから……」

「まじょちゃんがわたしたちのためにもとこくおうさんとつくった、それだけでわたしはとってもうれしい」


 大家さんはあんだんごを頬張りながらそう言ってワタシの頭を撫でてくれる。


 ──たったそれだけで、ワタシはとても嬉しくなる。

 大したことはしてないのに全力で喜んでくれる大家さんに、心が幸せな気持ちで満たされる。

 だから、大家さんが好きなのだ。


「揚げだんご最高にうめー」

「このタレ……元国王め、また腕を上げよったな……」

「うむ、うまい。ありがとうな魔女」


 お蝶も、爺も、元軍人も。

 ここにはいないけれどきっと他の住人たちも、後でだんごを食べて同じように言ってくれる。言ってくれる人たちだ。


 ああ、ここに来てよかったなあ。




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