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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
22/185

【きのこ】


 秋。食欲の秋。

 キノコ狩りである!


「このキノコ食べられる?」

「食べられるが、処理に手間がかかる。やめておけ」

「はあい」

「おっ、ヒラタケだ~」

「食べられるの?」

「シメジって言えばわかるだろ~? おいしいよ~」

「へぇ~」


 紅葉した裏山の中をさくさく歩きながらワタシと元軍人と元国王とでキノコを狩っていく。今夜はキノコバーベキューなのだ。キノコ料理って食べるけれど焼きキノコは意外と食べない。だから楽しみである。


「あのキノコは?」

「ツキヨダケ──毒キノコだ。食べられそうな見た目なだけにキノコ狩りでよく間違えて取る人間がいるな」

「げっ……カエンダケみたいな分かりやすい見た目のよりもこっちのが怖いね」


 カエンダケは真っ赤で毒々しくて、だから分かりやすい。絶対に触りたくないって思える。

 でもツキヨダケは見た目が完全に食用のと変わらない。なんか柔らかい色合いで食べられそうで、それなのに毒があるって。罠だ。


「人間もそうだね~チンピラだとか極道だとか、わかりやすい見た目の人には近づかなければいいからそれほど怖くはない。怖いのは、善良な見た目で悪意を持っている人間だ」


 元国王の言葉にワタシはこくりと頷く。


 見た目で分からない悪意ほど、恐ろしいものはない。

 例えばワタシの()()だ。いかにも虐待しそうな見た目の親ではなかった。それどころかその真逆──子どもを誰よりも愛し、大切にしていそうな優しい聖母の顔をしている母親とどこか抜けていて憎めない顔をしている父親だった。“幸せな家庭”を描写しようと思ったら真っ先に思い浮かんでくるような見た目の親だった。

 けれどあれはワタシを愛さなかった。ワタシを使い潰すことしか考えていない、悪意に塗れた人間だった。

 そして当時のワタシの周りにいた大人たちもそうだ。ワタシの言葉なんて誰もかれも本気に捉えず、想像力が豊かで片付けられるのが常であった。学校から派遣されてきた先生もワタシの“絵を描きたくない”という言葉に“才能を無駄にするなんてもったいない”と返して励ましてくるだけだった。


 誰もかれもがワタシの敵だった。


「魔女」


 過去に想いを馳せていたワタシの頭に元軍人の分厚い手が載せられる。誰のどんな手よりも安心できる──優しい手。


「これから先、お前は成長して色んな人間と付き合う機会が増えていくだろう。だが交友関係がどんなに広がっても──どんな人間がお前の前に現れても──これだけは憶えておくといい」


 “さいはて荘”のみんなはお前の味方だ。

 それさえ憶えていれば、いつどんな時でも安心できるだろう。


 そう言って微笑んだ元軍人にワタシはこくりと頷く。今、ワタシはさいはて荘に引きこもっているようなもので学校には通っていない。けれどいつかは学校に行かなければならなくなるだろう。そんな時──ワタシはきっと、誰を信じていいのか分からなくなる。

 でも、ワタシにはさいはて荘のみんながいる。ワタシの後ろにはいつも大家さんと元軍人がいて、社長がワタシを見下しながらも見守ってくれていて、お蝶と元王子が隣で笑っていて、爺と元国王もワタシの頭を撫でてくれていて、なっちゃんと元巫女は少し離れたところからワタシを見て微笑んでいる。

 絶対の味方。その存在が──ワタシを支えてくれる。


「うんうん~最近は学校でいじめられて自殺する子も多いけど、そういう子は絶対に安心できる場所ってのがなかったんだろうねぇ……それか、あっても見えなくなってしまっていたんだろうね」


 いじめ、か。

 学校に行ったことがないから分からないけれど……どうだろう。ワタシは……同い年の子たちとうまくやれるのかな?


「深く考えなくていいよ~なるようにしかならないからさ~。それよりもさ、さいはて荘っていう帰る場所があることと……元軍人さんと大家さんっていう頼れる人がいることを絶対に忘れないようにね」


 忘れさえしなければ何が起きても大丈夫。


 そう言った元国王にワタシは頷いてちらりと元軍人を見上げる。元軍人はいつもの無機質な顔だったけれど、そのまなざしはとても優しい。


 ……やっぱり“お父さん”だ。


「あっ!! 元軍人さん!! あれ松茸じゃない!?」

「む? ──確かに」


 松の木の根元に生えているキノコを指差して叫んだ元国王に元軍人が頷いて、元国王は大喜びで飛び付きに行った。松茸……アレよね、なんか高くておいしいやつ。


「松茸ってワタシ食べたことないよね?」

「ないな。少なくともお前がさいはて荘に来てから食事に出たことはない。今夜楽しみにしているといい」

「うん!」


 ワタシは、もうひとりじゃない。

 この先何があったとしてもひとりじゃないという安心感は──絶対に忘れない。そう心の中で誓いながらワタシは元軍人の手をぎゅうっと握った。





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