表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・冬
178/185

【たまこんにゃく】


 群馬県にある温泉街のひとつ、石段街。

 社長の空間製作により観光客が極限にまで減少したそこで、ワタシたちは石段をゆったりと降りながら観光していた。ここは石段がそのまま街になったようなつくりになっていて、温泉に入りにきたお客さんを迎え入れるお土産屋さんや遊技場が段差状に並んでいる。

 昔ながらの遊技場で射的をやったり(なっちゃんが撃った玉が棚を破壊して全部落ちた)、手裏剣を投げたり(なっちゃんが投げた手裏剣がブーメランになって元王子をかすった)、くじ引きをやったり(なっちゃんが一等のゲーム機を当てたのに壊れてた)、ワニワニパニックなるモグラ叩きゲームをやったり(なっちゃんがハンマー握ったら一匹も出てこなくなった)、パンチングマシーンに挑戦したり(元軍人が壊した)──色々楽しんで体があったまったところで、何か食べようかと散策しているところである。社長ドンマイ。補填ガンバレ。


「あ、たまこんにゃくだ。ここの名物だってさ。食べようよ」


 ふと見かけたお店に元国王が食いつき、お蝶とともに買いに行った。たまこんにゃく。語感から察するに、丸いこんにゃくかな。

 と、さほど時間を置かず元国王らが戻ってきた。たまこんにゃくは想像通りまんまるいこんにゃくだった。まんまるこんにゃくがみっつ、串に突き刺さっている。一本貰って、熱いよと言われたので軽く息を吹きかけながらかぶりつく。熱い! ──でもおいしい! うわあおいしい! こんなにおいしいこんにゃくはじめてかも!!


「おいひっ!」

「俺にも食わせろ」


 社長が一口、こんにゃくをかじる──どころか一個丸ごと持っていってしまった。こら!!


「丸飲みして詰まらせないように気をつけろよ。ほら巡、かじれ」

「はぐはぐー。む! はぐー!」


 こんにゃくをかじった巡がそのおいしさに目を輝かせ、さらにかじりついた。うむ、これは実においしい。おつゆでよく煮込まれていて、味がじっくり染み付いている。たぶんだし醤油をベースにしたおつゆかなあ? おでんに近いかも。でも、普段食べるおでんよりもずっと味が染み込んでるから、あれよりも濃いめにおつゆを作ってるんだと思う。

 あぁ、もう三個目食べちゃった。社長が食べかけの一個目食べちゃったから二個とひと口しか食べられてない。


「また買ってこようか? 一本百円だし」

「やっっっっす!!」


 おいしくて安くて、おまけに低カロリー!! 最高か?

 元国王が追加で買ってくれたたまこんにゃくに大喜びでかぶりついた。社長もこの味と食感は気に入ったのか、串を一本貰っていた。


「こんにゃくがどうやって作られたか知ってっか?」

「ううん」


 こんにゃく芋はそのままじゃ毒性が強くてとても食べられるものじゃなかった。でも粉々にして練ったこんにゃく芋に、わら灰を水に混ぜたものを練り込んで煮込むことで食べられるようになるらしい。


「今は炭酸水とかで代用できるみてぇだけどな。昔の人は何を思って灰と混ぜたんだろうな」


 うーん、このままじゃ食べられない。でも捨てるのはもったいない。どうにかして食べられないものか……そうだ! こんにゃく芋を粉々にして灰と混ぜて練ろう!

 うん、そうはならない絶対。何があったし。


「それを言うならフグの卵巣もだよ。猛毒があって取り除くべき場所である卵巣を三年間ぬか漬けにすれば食べられるようになるって、一体どういうことなのってなったよ」

「うはは、恐るべきは日本人の食に対する飽くなき探求心、だな!」


 「毒が()()()食べられない」のではなく、「毒が()()()()食べられない」──全く同じ文章に見えるだろうが、全然違う。

 普通なら、毒袋などは前者のように毒性がある部分としてしか認識しない。でも、日本人の──特に食に貪欲な先人は、後者のように毒性のせいで食べられない部分と見做していた。きっと、その違いなのだろう。単純に毒物として見るか、ただ毒があるせいで可食に至らない部分として見るか。

 見方の違い、視野の違い。

 笑い話ではあるけれど、勉強にもなる話だ。


「魔女、もう一本買ってこい」

「自分で買いなさいよ!!」

「小銭を持ってない」

「…………」


 これだからボンボンは。一円玉とか五円玉とか持ったことなさそう。


「存在は知ってるに決まってるだろう」

「お蝶のお店で食べた時とかどうしてんのよ? あそこカードもモバイル決済も無理でしょ?」

「社長、いつもお札出して釣り銭貰わず帰ってくぞ」

「マジか」


 これだからボンボンは!!


「まあ、気持ちはわかるよ。ぼくも王様やめてから初めてお金触ったし」

「ボンボンどもめ……」

「ぼく結構キツい難民暮らししてたんだから勘弁してよ」


 小銭が落ちてないか地面を這い回ったこともあるよ、としみじみ懐かしそうに言う元国王からはとてもとても、没落した元悪王の影は見えない。たまに黒い元国王出てくるとあっそれっぽいってなるけど。

 と、そこでなっちゃんがたまこんにゃく串片手にぴょこっと会話に入ってきた。


「あたしもさいはて荘に来るまでお金、まともに触れたことなかったなぁ~」

「そうなの? お札燃えちゃうとか?」

「ううん。物価がいきなり上がったり下がったりしちゃうの」

「…………」


 次元が違ぇ。


「大家さんに買ってもらったドーナツがあんまりにもおいしくて、また食べたくて、大家さんにお小遣い貰って……それがはじめてまともに触れた時かなぁ?」


 大家さんパワーすげぇ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ