【あぼかどのちーずやき】
大学に受かったとはいえ、ワタシも大学共通テストを受ける。うちの学校じゃ全員受けることが義務だからね。んで、以前のようなピリピリしたお受験モードにまではいかないもののそれなりに身構えてはいる。
何でって?
社長のせい。
あいつ鬼だ。
「太る……やめようかな……いやでも……」
テストを控えて遅くまで過去問をしていたらお腹が空いたので何か作ろうと思ってこっそり管理人室に侵入したんだけど(元軍人には絶対バレてるだろうけど)、手早く作れそうなのがアボカドのチーズ焼きなのだ。高カロリーイェイ! うぅん、どうしよう……。
「あれ? こんな遅くにメッセ」
さいはて荘のグループトークルームに着信があったようでスマホが震えて、画面を確認する。
R・J:夜食
意訳「もうすぐさいはて荘に着くのでどなたか夕食お願いできませんか?」
おい社長。
GGY:起こすな
キュア残念なイケメン:我らがキングの帰還だ! これは是非とも盛大に迎えなければならないねっ!
ぱん:ねむいよ
キュアホーリィ:おつかれさまですしゃちょうさま
お父さん:魔女が今キッチンで冷蔵庫漁ってるぞ
ドラ猫:バラさないでお父さん!!
もろみん☆:メニューは?
ドラ猫:アボカドのチーズ焼き
もろみん☆:真夜中にw
R・J:管理人室に行けばいいのか?
黒錆つゆり:巡くんが寝ているから社長さんのお部屋に行きましょう(*‘∀‘)
──で、起きてきた元軍人と大家さんも一緒に二階に上がった結果。
「何でみんな集まってんのよ」
「ねむいよぉ、なんでみんなここに集まってるのぉ?」
「今からアボカドのチーズ焼きをみんなで食う」
「アボカドの!? カロリーおばけじゃあん!! やだぁ!」
「じゃ、おやすみなっちゃん」
「仲間外れはもっとやだぁ!」
グループトークルームに参加していないなっちゃんまで加えて、巡を除いたさいはて荘のメンバーが社長の部屋に集結した。狭い。
「アボカド足りる?」
「みっつあったから、みんなでわければなんとか」
そうね、アボカドを半分に割って余り物のグラタン詰めてチーズ盛って焼くカロリーおばけ料理だし、さらに半分こしたものを食べればいいかも。
「言い出しっぺの社長と冷蔵庫泥棒の魔女はそれぞれ一人前な」
「なぬ!?」
社長、ワタシ,元国王とお蝶、元王子と元巫女、元軍人と爺、大家さんとなっちゃん。
こんな感じで三つのアボカドを分け合うことになった。まずはアボカドを半分に切って種を取り除いて、夕食のあまりものグラタンを種があった穴にちょこっと詰めて、チーズを盛り付けて……社長の部屋にはオーブンがないから、元国王が焼いてくれることになった。
十分後には焼きたてほかほかのアボカドチーズが仕上がって、ワタシと社長には丸ごと二分の一個。ほかのみんなはさらに半分にカットした四分の一個を小皿に取り分けていた。
「いっただきまぁ~す! 太るぅ」
「んじゃ食い終わった後ホットヨガでもすっか?」
「爺の関節がどうにかなりそうな予感しかしないわよ──んまっ」
分厚いアボカドの果肉にとろとろのグラタン、カリッと焼けたチーズ!! カロリーおばけだわこりゃ。
あぁ焦げたチーズとアボカドたまんないっ!
「おい魔女。カフェオレ」
「……前々から思ってたけど、アンタブラック飲みますってツラしてて甘いの飲むわよね」
「会社ではブラックだ」
「外面だけかっこつけやがって」
悪態を吐きつつ、管理人室から持ち込んできた飲み物の数々から牛乳とアイスコーヒーを選んで、カフェオレを作る。ついでに自分のも。
「ホットミルク飲みたぁい」
「レンジでチンしとけ」
「ぼくがやるよ。みんな、飲みたいもの言って~」
「酒」
「ないよ!」
わあわあ盛り上がっているみんなを眺めながらカフェオレを啜って、ふと忘れていた寂しさが蘇る。
ここを出てしまえば、こうやって真夜中にこっそりわるいことすることだってなくなる。定期的にここに帰るとはいえ、長くても三日だろうし。
なんだか寂しさと切なさと苦しさが一気に込み上がってきた気がして、ぎゅっと社長の腕を掴む。
「……出ていきたくない」
ぽつりと、言葉が落ちた。
ぐしゃりと社長の手がワタシの髪を撫ぜた。言葉はない。けれど、骨ばった社長の手に何となく優しさを感じて、そっと社長にもたれかかる。
ワタシたちの様子に気付いた元軍人が一瞬、ものすごい殺気を放っていたけれどすぐ収めて、仕方なさそうに笑って視線を逸らす。大家さんはにこにこ笑いながらなっちゃんと食べさせっこしていて、元国王は酒を取りに行こうとする爺を必死で止めている。お蝶は爺を応援してて、元国王に怒られていた。元王子と元巫女も仲睦まじくホットミルクを飲んでいる。
巡はきっと夢の中だろうけど、明日になれば揃って寝坊してきたみんなに何かを察して文句言ってくるに違いない。
平和な場所。
とてもとても、平和で平穏なところ。
ワタシたちの──故郷。
あぁ、やっぱり出て行きたくない。




