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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・冬
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【ひやむぎ】


「そうめんとひやむぎの違いって何?」

「ひらがな」

「当たり前よそういうことじゃないわよ」


 ずるずるずる、とひやむぎを啜る。

 夏も真っ盛り。近年は猛暑化が酷くて、毎年最高気温を更新している。それはここさいはて荘とて例外ではなかった。周りにビルも何もないド田舎だから風の通りはいいけれど、その風が熱い。熱風だ。

 巡もお外で遊ぶのはもっぱら早朝が当たり前になった。川遊びさえも午前十一時を過ぎると無理ゲーになる。木々に遮られて日陰が落ちている山奥の滝つぼなら涼しいけど、毎日行けるトコじゃないしねぇ。

 最近じゃスマホのグループトークルームで住人が「今から帰るのでエアコンオネシャス」って大家さんや元軍人に頼むのが当たり前になっている。マスターキー持っているから勝手に入れるしね。


「簡単だぜ? 魔女がそうめん。大家さんがひやむぎ。アタシがうどん。元巫女一本うどん」


 成程、麺の太さね。ってどこで比較してんのよお蝶!! ワタシだってちょっとはおっきくなったのよ!!


「いっぽんうどんってなーにー?」

「普通のうどんよりぶっとくて、一本しかねーながーいうどんのことだよ」

「ほほー」


 お蝶がスマホの画面で一本うどんの画像を見せて、巡が感嘆の息を漏らす。


「きつねうどんの方がよかった」

「何様よアンタ!! 食べさせてもらってんだから大人しく食え!!」


 見た目に似合わずきつねうどんが一番好きな社長にフシャりつつ、またひやむぎをつゆにつけて啜る。


「でも社長アタシより魔女派だろ」

()()の話はしてない!!」

()()のサイズなんざどうでもいい」

「社長はケツ派じゃもんなあ」

「太もも派じゃないの?」

「何の話してるのよアンタら!!」


 変な会話に割り込んできた爺と元国王を後で呪う決心しつつ、薄くなったつゆにめんつゆを追加する。


「HAHAHA、みんなまだまだ少年だねっ」

「こん中で一番でけえ元巫女捕まえといてナニ言ってんだ」

「ボクはそこで選んだんじゃないよ!?」

「何が大きいのですか?」

「あ、いや……えーとだね」


 無垢な顔で問いかけている元巫女にしどろもどろになる元王子を肴に、ひえひえの麦茶を喉奥に流し込む。かー、真夏の麦茶はうめえ。

 ちなみにこのふたり、この場でみんなに婚約報告しおった。ひやむぎで報告。もっとこう、居酒屋とかパーティーめいた雰囲気で報告すると思ってたのにひやむぎ。まあいいけどさいはて荘らしくて。


「ねーお蝶さんさっき自分をうどんってゆってたけどぉ~……お蝶さんそんなあっさり風味じゃないよねぇ。汗だくでおじさんが啜るこってりラーメンじゃない?」

「なっちゃんさん?」

「どれみ、おいなりさん食べるか?」

「あったべるー」

「めぐるくんもたべる?」

「たべるー」


 九尾火神社のおいなりさんは最高に美味い。ん? なっちゃんの毒舌? いつものことだし間違っちゃいない。


「アタシにおいなりさんはねえぞ!! ぷるぷるプリンがふたつあるだけだ!!」

「コラァ!!」


 元国王のラリアットが炸裂した。ご愛敬。


「ああそうだ魔女くん、食べ終わったらまた勉強かい? 少し食休めしたらかき氷やろうって思ってるんだけど」

「かきごおり!」


 それは食べなくてはならない。ああ、絶対に!


「めぐるくんがおひるねするから、そのあとにしようか」

「二時間ってとこか。魔女、喜べ。俺様が進度を見てやる」

「ゲェーッ!! まあいいか」


 社長はスパルタだけど確実に身に付くからね……。


「じゃ~アタシも巡に付き合ってココで寝よ」

「ぼくも」

「夏の昼下がりにみんなで雑魚寝、いいねっ! あたし一度でいいからやってみたかったんだあ!」

「……おい魔女、進度チェックはかき氷食べてからだ」

「あいあいさー」


 ホントなっちゃんには甘いよね。社長に限らずみんなそうだけど。

 ん? じゃあ女子力向上委員会でもっとなっちゃんの意向汲めって? それは無理な話である。なんせ、食が絡んでおるのだ。無理というものよ。我ら〝食〟に関しては一線も退かぬゆえ……!

 ま、そーゆーワケでお昼寝することになった。


「食洗機様様だねホント。十一人分ともなるととんでもないもんね」

「そうね。しゃちょうさんにかんしゃしなくっちゃ」


 食後、お皿を軽く水で流してから食洗機に突っ込む。業務用の中型食洗機で、いつも食後の皿洗いに時間がかかることを気にしていた社長が大家さんにプレゼントしたのだ。もろみ食堂にも小型の小回り効くヤツがあるけど、中型を見て欲しいな~って羨ましがってた。

 お皿を全部突っ込み終わったところでリビングに戻ると、カーテンが閉められてゆるやかな光しか入ってこない空間でみんなが寝転がっていた。巡はもう元国王のお腹の上で爆睡している。お蝶も元国王の腕枕で爆睡してて、元国王は目を閉じていたものの起きているようで穏やかな笑顔を浮かべていた。

 なっちゃんはひとり薄い布団にくるまってうつらうつらしていて、その隣で社長が胡坐を組んで壁にもたれかかっている。テレビはついているけれど小さな音で、それを見ているようだった。

 元巫女と元王子は並んでソファに座って姿勢を崩していて、そろそろ眠りに入ろうかという時のようだ。その下で爺が寝転がって大きなあくびをしている。

 大家さんと元軍人はおやつの用意をするみたいだ。ワタシはそろりそろりと足音を立てぬよう気を付けて社長の元にいき、隣に座る。

 ちょっと凭れかかる。柑橘系のすっきりとした香り。

 社長がワタシの頭を掴んで、太ももの上に押し付けた。一瞬暴れたけど、すぐ大人しく社長の膝枕……胡坐枕? に収まる。

 ……えへへ。


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