【山本茂一郎の場合】
【山本茂一郎の場合】
傷ついた犬。
血塗れの狼。
無表情な兎。
艶やかな猫。
何もない人。
飛べない梟。
怯えてる虎。
ピエロな猿。
汚れてる熊。
潰れてる鼠。
暴れ狂う鯱。
さいはて荘のエントランスに飾られている巨大なキャンパス。そしてその下に絵本と一緒に陳列されている、十一体のぬいぐるみ。
翼の折れた梟のぬいぐるみを抱えて、ずいぶんボロボロになってしまった腰部分を補修する。ついでに、腰の具合が安定するよう呪いも少しかけておく。
──呪いじゃないわよ? 呪いよ。
呪いなら腰の不調を完全に治せるけどね。でもそれだと、リスクが伴うから。
人を呪わば穴二つ。
──ってね!
「魔女っ子、準備は済んだのか? ホレ行くぞ」
「あ、うん! 待って爺!」
三人目。
〝爺〟こと山本茂一郎。
絵を一緒に描きたいと申し出たところ、画材の用意は自分でやると言われた。だからワタシはお財布とかスマホとかを入れたリュックに梟のぬいぐるみと五寸釘を詰め込んで背負うだけ。職質されたら間違いなく五寸釘が引っ掛かるけど、まあ傍目にはおじいちゃんと孫にしか見えないし大丈夫だろう。たぶん。
いざとなれば社長召喚だ。
「ホレ連れてけ元国王」
「ふああああああ……」
現在時刻、午前四時。叩き起こされた元国王は今日も今日とてアッシーにされる。ドンマイ。
「な~んか昔を思い出すわね。昔もこうやって始発に乗ったっけ」
「まあ同じところに行くからの」
「えっあそこに?」
あそこ、というのはいつだったか──ワタシがまだ中学生の時、爺に連れて行ってもらった漁港である。
あそこで飲んだあら汁美味しかったな~。
「そういえばこの間のこいのぼり(?)も爺が漁師に頼んで船に乗せてもらったんだったけ? 漁師と仲良くなったの?」
元国王の見送りを受けながら電車に乗り込んだワタシはがたんごとんと揺れる心地いい振動に眠たくなりつつ、問う。
「さあのう。知らんわい」
……相変わらずさいはて荘以外の人間には無関心か。
人間関係、つまり人間で憂き目を見た爺は極力、人間関係の構築を避けている。さいはて荘のみんなとの関係性は大切にするし責任を持つし維持のための努力もする。でも、さいはて荘以外の人間に対しては無関心を貫いている。責任が持てないから。大切だと思えないから。維持したいと思わないから。
爺は決して、中途半端な人間を築かない。なぜならば、そう。
人間の根底は変わらない。
「同じ無関心でも、行動を起こす人間と起こさない人間とでは雲泥の差が出る」
「ん?」
「この前、元国王が言っておったのぅ」
行動を起こす人間と起こさない人間、か。どういうことだろう?
◆◇◆
漁港に着いてすぐ、答えが出た。
「おう爺さん! 今日はお孫さんと一緒か?」
「あっおはようございます」
「うお!? 返事された!! 爺さんとは大違いだな、ガハハ!」
さっきからこんな調子で爺に声をかけてはワタシに返されて驚く漁師さんばかりなのである。爺は見事にスルーして一直線に目的地を目指している。
「ちょっと爺、結構慕われてんじゃん。挨拶くらい返したら?」
「ん? 挨拶?」
挨拶されていること自体に気付いていなかった。どんだけだ。
早朝の魚市場は数年前に訪れた時よりもずっと賑やかで、あの頃と違うのは爺に気付いた漁師さんたちが声をかけてくることか。いいマグロかなんか釣れたのか、競りもかなり盛況で雄々しい声が木霊している。
「おやまあ山本さん! 今日はお孫さんと一緒かい? 山本さんと違って可愛らしいお孫さんだねえ!」
魚を売りさばいているらしいおばちゃんにも声をかけられて、でも爺の返事は期待しておらずひとりで勝手に喋ってひとりで爆笑している。その隣で、息子と思しき小学生くらいの男子がしかめっ面で挨拶くらいしろよ、と零していた。ごもっともである。
「いいんだよ山本さんはアレで」
「んだんだ。返事なんてされた日にゃあ魚が捕れなくなっちまいそうだべ」
「はぁ……?」
爺はこれでいいんだ、というおばちゃんや漁師さんたちに男の子が怪訝そうな顔をする。うん、ワタシも同じ気持ちだよ少年。何だ、爺のこの慕われっぷり。
「……ワタシが言うのもなんですけど、アレちょっと無愛想すぎません?」
無愛想といえば社長もだけど、アレは人間を見下しているからこその無愛想だ。爺は違う。無関心からくる無愛想さだ。
爺にとって、さいはて荘以外の人間は遍く無価値だ。
〝人間性〟が大切だと説き、〝仲間〟が必要だと語った爺ではあるけれど──それは結局、ワタシ目線で見る優しい爺の姿でしかないのだ。さいはて荘のみんなだけが知るひょうきんな〝爺〟でしかないのだ。
人間の根底は変わらない。
さいはて荘から一歩、外に出てしまえばその根底が露わになる。〝人間性〟は欠如しているし、〝仲間〟だって必要としない。
そんな偏屈で頑固な爺を何故魚市場の人たちが慕うのか、ワタシは純粋に興味があって返事を待つ。
男の子も同様に興味があったみたいで、おばちゃんを見上げて返事を待っていた。
「お孫さんも認める無愛想ぶりは中々だねぇ。でもお孫さん、あの人は確かに無愛想だし何考えてんだかわかんないし少しくらい会話おしよ! って思うけどねぇ。でも──」
あの人は、行動する人だから。
そう言ってからからと笑うおばちゃんに、周囲にいた漁師さんたちが同意する。
「あの人は確かにわたしら人間には興味ないんだろうねぇ。でも、あの人は〝いいもの〟をちゃんと〝いいもの〟として認めて尊ぶことができる人だよ」
二年ほど前、テレビ局がこの魚市場に芸能人レポーターとともに取材しに来た。それがきっかけで客が倍増し、魚市場は賑わった。
けれど一度に増えすぎた客入りは常連客を遠ざけた。そしてテレビやSNSなどに触発されて訪れる客の多くが、一回限りの訪問で終わる。
だから倍増した客足はすぐ落ちる──そして、以前よりも客数が減る。一度足を伸ばすのを止めた常連客が戻るまで、時間がかかるのだ。
「でも山本さんはね、混雑して買い物もままならない状況の時も通ってくれてたんだよ。相変わらず無言で無愛想だったけどね。待ち時間が長くても文句ひとつ言わず、食べて呑んで買い物して帰っていったのさ」
たった一回魚市場に訪れて、〝とっても素晴らしいところでした〟とSNSに投稿してそれきり来なくなる客よりも、爺のように価値あるものに価値が伴っている限りそれの価値をちゃんと認め続ける客の方が魚市場の人たちにとっては嬉しいんだそうだ。
一回限りの客でも嬉しいけれど、美辞麗句並べておいて二度と来ないのはやっぱり寂しいから、とおばちゃんはため息を零す。
「でもあなたのおじいさん、めっちゃくちゃ審美眼が厳しいからちょっとでも価値を落とすと絶対に買ってくれないのよねぇ~そこはホント頑固! って思うわぁ」
「へぇ……あぁ、そっか。行動を起こす人間と起こさない人間の差、ってこういうことか」
爺が元国王に言われたっていう言葉。あれはきっと、漁師に慕われる爺を見て思ったことなんだろう。
爺は言葉を紡がない。関係性を拒絶する。でも、行動する。し続ける。
ワタシたちは人間だ。言葉にしなければ伝わらないものもある。でも、ワタシたちは人間だ。言葉に惑わされず一歩引いた場所から本質を見ようとする理性を持てる。ここの人たちはそうだった。だから、爺を認めるようになったんだ。
「今時の子にゃ〝昭和の男〟はちっとも魅力的じゃないのかねえ」
「そりゃ何もしてないからだろ? うちのじいちゃん、仕事から帰ったら酒呑んでぐうたらしてたからってばあちゃんに捨てられてたじゃんか」
「そりゃ昭和の男じゃなくて無能だからさね! 昭和の男ってのは多くを語らず、行動で示すってことだよ」
「ただのコミュ障じゃん。言わなくてもわかれって最低じゃんか」
……うん、ぶっちゃけワタシも少年に同意だ。爺も捨てられてるしね、奥さんに。多くを語らず行動だけで示す、まあこの一文だけならかっこいいよね。でも大概が自分はちゃんとやっていた、見ていないお前が悪いみたいな言葉足らずだから。
爺の場合言葉足らずってか言葉どこってか。それでも慕われているのは、爺が相手に理解を求めないからだと思う。言葉にしないなら理解も求めるな、ってトコだろうなたぶん。
「おい魔女っ子、置いていくぞ!」
「うおっ喋ったァアアアァ!!」
「あらやだ意外といい声!!」
「おれはこの前聞いた! あのデカいのとおっかないのと一緒に釣り来てた時、そいつらと喋ってたからな!」
喋った爺に湧くみんなをその場に残して、せかせかと爺を追って数年前にも入った食堂に入る。爺が今もココに通っているということは、数年前と変わらずおいしいごはんを提供しているってことだ。楽しみである!!
◆◇◆
最高においしい朝食でお腹を満たして、爺もほろ酔い気味になってきたところでワタシたちは埠頭に移動した。酔っている爺が海に落ちたらヤバいからやや内陸部に食い込み気味にポジションを取って、腰を下ろす。
このあたりには漁船が停められていなくて、ひとつ埠頭を挟んだ向こう側で積み荷の上げ下ろしをしている漁師さんといくつかの漁船の姿が見える。
「画材は爺が用意するって言ってたけど、何遣うの?」
「コレじゃ」
爺が背負っていたリュックからおもむろに取り出したのは書道具だった。いつだったか筆を認めて飽きてワタシに下げ渡して、でもまたやるとか言って取り上げていって、かと思えばまた下げ渡してきて──とワタシと爺の間を行き来している書道具だ。
「水墨画?」
「うむ。潮風に飛ばされるなよ」
「潮風に吹かれながら水墨画したためるって斬新」
爺が持ってきた折り畳みシートの上に麻紙を広げて、文鎮でしっかり四隅を押さえる。麻紙は和紙の一種で、水墨画に向いているらしい。
書道用の墨を硯に入れて(磨らないヤツ)、水も加えて色合いを調整していく。水墨画用の墨もあるんだけどウチには書道用の墨しかない。結構な種類があるらしいから今度、水墨画用の墨を見に行こうかなって思ってる。どこに売ってるんだろ。
「爺って達筆だけど絵の方も──うっま!!」
葛飾北斎が描いた富嶽三十六景のひとつ、猛り狂う波濤を見事に再現してみせた〝神奈川沖浪裏〟ばりの雄々しい波が描かれていた。いや目の前に広がってる海すっごい静かだけどね?
「つまらんのう。どれ、空飛ぶ魔女っ子を加えようぞ」
「ちょっ!」
爺の筆が滑らかに滑って、荒れ狂う高波を見下して爆笑している女の子が描かれた。なにこの魔王感。ワタシこんなんじゃないわよ。上から見下して哄笑するような人間に思われてんのワタシ? それは社長のほうでしょうに!
「ん~、せっかくの海なんだし……漁港だし……人魚姫でも描こっと」
「魚市場に人魚姫か。おぬしも酷じゃのう」
いいじゃん別に。八尾比丘尼伝説とか、人魚姫の肉を喰らう話はわりとあるし。いや、描かないけどねそんなスプラッタ。
「──ここの人、いい人ばっかりだよね」
「ん? そうなのか」
「やっぱり、興味持てないの?」
やっぱり──無関心は、無関心なの?
「…………」
ワタシの言わんとしていることを悟ったのかそうでないのか、爺は筆を置いて顎髭を撫ぜながらワタシを見やってきた。
「おぬし、クラスメイト全員と仲いいのか?」
「え? ううん……よく話す人と話さない人がいるけど」
「全員と仲良くなりたいか?」
「……ううん、べつに」
ともだちひゃくにんつくれるかな、なんてのは少しも望んでいない。でも、だからって仲良くなりたい人以外との関係を拒絶しようってほどでもない。話す時は普通に話す。ただ、深入りしないってだけで。
──そう、責任の持てない人間は築かない。ただそれだけのことだ。
「うむ、それでええと思うわい。ワシのようになる必要なぞありゃせんわ」
ワシをお手本にするな。
ワシを反面教師にしろ。
「以前にも言ったじゃろ。ワシはそもそも褒められたような人間じゃありゃあせん。人間性なぞこれっぽちもないわい。ワシにとってはさいはて荘だけが全て。余生はさいはて荘のために削ぐと決めた。じゃから他人なぞどうでもいい」
爺。
山本茂一郎。
人間性に欠け、仲間しか大切にしない偏屈な翁。そして、人間の根底は変わらない。無関心なところは変わらない。
山本茂一郎はどこまでも無関心だった。
「……でもワタシにとって、爺は反面教師というより……自分の行動でもつて知らしめようとしてくれているお師匠みたい」
「あん? おぬしみたいな生臭弟子ゴメンじゃ」
「誰が生臭よっ!!」
品行方正よっ!! ちょっと呪うだけで!
──でもま、爺とワタシの関係性をひとことにまとめるなら〝師弟関係〟以外にないと思う。おじいちゃんと孫みたいな関係性でもあるけれど、それ以上にって感じ。
「むしろワシは魔女っ子に色々学び取ってるがのぉ」
「え?」
「中学校に入学する前のおぬしはワシとどこか似ていた。人間嫌いで人付き合いが苦手で、さいはて荘以外の人間が怖くて。──じゃがおぬしは中学校で〝ともだち〟を得た」
「……!」
豹南中学校。
ワタシにとって〝はじめて〟の学校。
入学式当日のことは今でもよく覚えている。怖くて、嫌で、逃げ出したくて、みんなのワタシを見る目に悪意があるんじゃないかって疑って。〝借りてきた猫状態〟ってゆゆと大王に言われたけど、まさにその通りだった。
教室で自己紹介する時も、みんなの〝よそもの〟に対する目を勝手に嫌悪して憎悪して、警戒心いっぱいで敵意剥き出しだった。名前を告げて、〝元王様のパン屋さん〟の元国王とは仲がいいと予防線張って、ナメられないようにつんとすました態度を取って。
結局撫でくり転がされ回されまくって懐柔されたけどね。
「おぬしがはじめてさいはて荘に〝ともだち〟を連れて来た時──ワシは人生で初めて羨ましいと思った」
「えっ、そうなの?」
ゆゆたちはさいはて荘にも何度か来ているけど、爺がまともに会話したのを見たことがない。だからゆゆたちも爺のことをマイペースなご老人として捉えて、無理に関わりに行かないようにしている。
だから爺がワタシとゆゆたちを見て羨ましがってるなんて、一度も思ったことがない。やっぱり爺にとってさいはて荘以外の人間はどうでもいいんだなぁと実感してばかりだった。
「でも友だち、いるでしょ? お蝶とか元国王とか……さいはて荘のみんな仲間で、家族みたいなもんじゃん」
「ん~、ちょいと違うのぅ。お蝶たちは仲間であり、家族であり、身内じゃ。それとはまた別の──おぬしにとっての級友たちのような〝友〟が欲しいとふと思ったんじゃ」
でも、どうしても関心を持てなかった。
お気に入りの酒屋に通いつめ、お気に入りの魚市場で飲み食いし、気の向くままに日本各地を流浪し、気の向くままに土産物屋で見繕っていても──どうしても、爺は他人に関心を向けられなかった。
当たり前のことではあった。
生まれてから齢七十まで家族や兄弟、友人に同僚、配偶者や子どもにまで関心を向けられなかった人間が、そうそう他人に興味を持てるはずがない。
無関心は、無関心でしかなかった。
「さいはて荘が奇跡だっただけで、ワシはそういう人間なんじゃろうて。無理に関心を向けても疲れるし虚しくなるのは目に見えておる──興味がないものはない、もうしょうがないからあるがままなりゆきに任せておるわい」
正直、ワタシには理解できない。
前の両親にだって〝憎悪〟という名の関心を抱いていたから、無関心でいる心境がよくわからない。道ですれ違う知らない人に対して何も思わないのと同じで、自分に声をかけてくる人々に対しても何も思わない心境が──わからない。
でも、いるのだろう。
そういう人間だって、いるのだろう。
そしてさいはて荘は、そういう人間も受け入れる場所だった。それだけのこと、なのだろう。
「──うん、やっぱり爺はワタシにとってお師匠だよ」
「うん?」
「正直、爺の気持ちはわからない。無関心でいられる爺のことが理解できない。でもだからこそ、爺を見ていると色々考えさせられる。人としての在り方。人との付き合い方。色々、考えさせられる」
そう、爺はいつだってそうだ。
決してワタシに考え方を押し付けない。諭しもしない。説きもしない。ただ語らい、ワタシに考えさせる。ただ自分を見せ、ワタシに省みさせる。
自らの人生を反面教師に、人間の在り方を、人生の在り方をワタシに考えさせる。
それを示すが如く、爺の水墨画に荒波に呑まれる漁船が描かれた。その漁船には、ひょうたんを抱えた酔いどれ翁。我が人生を顧みて己が人生を研磨せよ、と言わんばかりに宙に浮く魔女と翁の対比が描かれる。
それを見てワタシは、じゃあと荒波目掛けて飛び込もうとする人魚姫を描いた。酔っ払いが悪天候の中船を出して呑まれる自業自得。でも、だからって死んでいいとは思わない。助けられるチャンスはあっていい。手が差し伸べられるチャンスはあっていい。変わる、チャンスはあっていい。
「ま~だ人生長いんだから友だちだってそのうちできるわよ」
「どうだかの~」
別に、八十超えようが九十超えようが友だちを作れないなんてことはないはずだ。現に、ここ魚市場の人たちだって爺を好ましく思っている。爺が関心を向けられないネックさがあるものの、可能性がゼロってことはない。もしかしたら爺が関心を持って、自分から友だちになりに行こうとする誰かと出会えるかもしれない。
「そのためにも長生きしなくちゃね~」
「ひ孫の顔見るまで死にやせんわ」
ひ孫……?
あ、ワタシとしゃちょ──何言ってんのよ!! ワタシたちはまだそういうんじゃない!! 想像させないでよ恥ずかしい!! 呪うわよっ!!
「ワシャ何も言っとらんが」
「うっさい!!」
不覚にも脳裏に描いてしまった〝未来予想図〟を必死に掻き消しつつ、熱い顔を潮風で冷ましながら水墨画を仕上げにかかる。
ふぅーむ。爺の水墨画と繋がってる感じで荒波に飛び込もうとする人魚姫を描けたのはいいけど、いまいち物足りない。
「おじさんたちにお願いしたらウロコもらえないかな?」
「あん? 生臭くなるぞ」
「洗って乾燥させるわよちゃんと」
「じゃ、帰る前にまた魚市場回るとするかのぉ」
「うん」
──それから道具を片付けて魚市場に戻ったところで知ったのだけれど、昨今じゃ魚市場で魚のうろこやひれ、目玉を使ったアクセサリーが売られているらしい。ここにも小規模なアクセサリーショップがあって、格安でアクセサリーに加工前の魚のうろこを売ってもらえた。
ご満悦なワタシを見上げて微笑んでいる爺に、おじいちゃんとお孫さんはとっても仲良しなのねってアクセサリーショップのおねえさんに言ってもらえて、ワタシは笑顔で頷いた。
ワタシと爺は他人だ。
血は繋がってないし、黒錆家とはゆかりもないし、正確に関係性を口にするなら〝同じアパートに住んでるだけ〟だ。
でもワタシにとって爺は祖父だ。祖父であり、仲間であり、家族であり、師匠だ。
なんてぜいたくな関係性なのだろう、と勝手に口元が吊り上がってしまう。
《山本茂一郎》
〝爺〟
──「友が欲しい」
◆◆重んじるもの:人間性
◆◆大切にしたいもの:仲間
◆◆変わらないもの:無関心
【師弟関係】




