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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・秋
136/185

【さんま】


 秋の味覚といえば、やはり王道はさんま。

 みりんを塗って焼いたさんまに大根おろしをのっけて、醤油をちょん。それだけでおいしいんだからすごいと思う。


「うん、おいしい! おいしいね、ここのお店」

「だろ? オレらのお気に入りなんだココ」


 豹南町に、というかさいはて荘に泊まりに来たいっちゃを加えて、女子四人でもろみ食堂なう。夕食を食べた後、元国王と一緒に車でさいはて荘に帰ることになっている。


「えっと、王様、でしたっけ。王様のパンもおいしそうでしたね。明日の朝、食べるのが楽しみです」

「うん。ありがとうね。遠いからなかなか来れないだろうけど、気に入ってくれたら嬉しいな」


 一緒にもそもそと夕食を頬張っている元国王が人のいい、柔和な笑顔を浮かべる。さすがはマダムキラー元国王。いっちゃもほっとしたように頷いて頭を下げた。安心するよねぇ、この笑顔。


「お蝶は今日は帰らないんだったけ?」

「おう。呑み明かすぜ。じいさんをなっちゃんと挟んでキャバごっこしてくらァ」

「あんまり呑みすぎないようにね。きみ、ただでさえおっさんなのに酔うと加齢臭が加速するんだから。なっちゃん怒らせることのないようにね」


 ……確かに。酔っぱらったお蝶になっちゃんがわなないて怒りそう。


「おいおい、こんな美女を捕まえておっさんだの加齢臭だのよく言えたもんだなァ? フルーティな香りしかしねぇぞおら」

「その言い草が既におっさん」

「同意」

「……オレも同感」「うちもぉ」


 うんうん頷くワタシたちにお蝶が失礼な、とぷりぷり怒りながらキッチンに戻っていった。


「……話には聞いていたけど、ほんとに仲いいんだねぇ」

「まーね。さいはて荘にはもっと濃ゆいの、いるわよ?」


 元王子とか元王子とか元王子とか。


「あ、レオンさんいるんだ? やった」


 うむ。濃ゆいのと聞いて元王子を連想する程度には、ゆゆたちのなかでも十分濃ゆい。


「レオンさんって……確か、とんでもないイケメン、だったけ」

「そそ! ほんっと王子様みたいなんだからぁ! もう、モロうちの好み~」


 中身がああでなけりゃな、とぼそり付け加えられた低い声に、いっちゃがそこはかとなく頬を引き攣らせる。


「お蝶、お味噌汁おかわり~」

「あーいよー」


 今日、ワタシたちが注文したのは日替わりスペシャル定食。日替わり定食よりも割高なんだけれどそのぶん豪華っていう定食である。今日のメニューは焼きさんまに出汁巻きたまご、さつまいもの味噌汁に栗ごはん。最高の夕食である。


「あ、あの。栗ごはんって、おかわりは……」

「自由だぜ~残り少ないから元国王は禁止な」

「えぇっ、そんなぁ」


 がーん、とショックを受ける元国王をよそに、ワタシたちも栗ごはんのおかわりをリクエストする。最後に大王がおかわりしたので栗ごはんは完全になくなったらしく、日替わり定食メニューのスペシャル定食に横線を引いた。


「うん、ほんと、おいしいです」

「うはは! そう言ってもらえると嬉しいねぇ」


 おいしそうにもふもふ食べているいっちゃはかわいい。真面目な子なんだけれど、とても素直で裏表のない子だなぁとも思う。ゆゆや大王とはまた違うタイプで、一緒にいてほっとする友だちだ。

 真面目だからこそ変なところで頑張りすぎちゃうところとか、みんなのためにあれこれやろうとして空振りしちゃうところとか、役に立とうと思っていろいろ引き受けちゃうところとか、放っておけない。

 友だちを作り、絆を深めていく前に転校する、というのを繰り返してきたいっちゃはどこか、他人行儀なところがある。どこまで距離を詰めていいのか、いっちゃにはわからないんだと思う。だったらワタシたちから距離を詰めて、引っ張っていくしかないでしょ?

 さいはて荘のみんなが、ワタシにしてくれたように。

 豹南中学校でみんなが、ワタシにしてくれたように。

 距離さえ詰めれば、距離の取り方はおいおい覚えていくものである。と、偉ぶってみるけれどワタシだってまだまだだ。綾松高校でもそこそこ、色んな人と話すようにはなったけれどやはり、どこか一線を引いてしまう。

 豹南中学校の時のように、〝魔女〟を前面に出せない。ハンドメイドショップ〝SAIHATE〟のことだって、つい最近いっちゃにようやく伝えられたばかりだ。あとは、担任と主任くらいにしか話してない。それだって、大家さん同伴の三者面談の時に大家さんが伝えただけだしね。


 人との関わり方は、難しい。


「あっ……そうだ、さんまで思い出したんだけど……黒錆さんのハンドメイドショップ、インターネットで見たの」

「あ、そうなんだ。最近は買ってくれる人も出てきて、新作楽しみにしてるってコメントももらえたんだよね。この調子でやっていくつもり」

「うん。どれも、とっても素敵だった。それで、あのね。お魚のキーホルダー、あったよね? あれ、すごくかわいくて買いたかったんだけど……品切れで」

「あ~、ペンギンウオのぬいぐるみキーホルダーね。じゃ、作るからあげるよ」

「え!? だ、だめ! お金はちゃんと払うから……!」

「いーのいーの。ゆゆと大王にだってあげたもん」


 ほら、とゆゆと大王の鞄を指差す。そこにあるのは、たぬきとキツネのキーホルダー。そう、豹南中学校時代に呪うために作ったヤツである。卒業式の日に、みんなにあげたのだ。ワタシじゃないと呪えないから、ゆゆたちが持っててもそれはただのぬいぐるみキーホルダー。


「だからいっちゃにもあげる。〝友だち〟のあかしってことで。もちろん、それ以外であのショップにあるものが欲しい場合はお買い求めくださ~い、ってね」

「……とも、だち」


 ともだち、といっちゃは囁いてじっとゆゆや大王の鞄からぶら下がっているキーホルダーを眺める。

 もしかしたら、友だちとこういう〝おそろい〟をしたこと、なかったのかな。


「なるほどねぇ、いっちゃはペンギンか。ピッタリだ」

「うくくっ、確かにペンギンみたいに間が抜けてるもんねぇ」

「えぇっ!?」


 ああ、確かにペンギンっぽい。いっちゃが欲しがったペンギンウオってのはペンギンの人魚っていうキワモノなんだけど、顔はかわいいから作った三個、全部売れたんだよね~。

 いっちゃ仕様に三つ編みもつけようかな。


 うん、そういうワケで綾松高校でもいっちゃという友だちを得るなど、そこそこやっていけているのであった。



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