【てんどん】
楽しい楽しい家族旅行も過ぎて、夏も過ぎ、秋に染まりつつあるこの頃。
元王子が第一回さいはて荘家族旅行のアルバムとVTRを完成させたとかで、さいはて荘のみんなで管理人室に集まっていた。
「きょうはてんどん! おっきなあなごがあったから、あなごてんにしたの」
今夜の献立は天丼。天丼。天丼……?
「天丼ってか……昇天ペガサスMAX盛り丼?」
「何年前のネタだよ。何で知ってんだおめー」
こう、でっかいあなご天やえび天が縦向きに盛りつけられていてソフトクリームみたいになっている。横向きにしたら盛大にはみ出るし、切るのももったいないからってこうしたらしい。
でんっと眼前に置かれると、これまたすごい迫力だ。こう、ずももって感じ。天丼が上からワタシを見下ろしている。
「てんつゆはここにおいておくから、たりなかったらかけてね」
「かーたん、めーもー」
「うんうん、ちょっとまってね。めぐるくんもかぶりついてみたいよね~」
それから全員が席に着くのを待って、手を合わせていただきますの挨拶をする。
「わたくし、先ほどからよだれが止まらなくて」
「でっかくておいしい食べ物に目がないよね、元巫女」
「はい!」
と、それはそれはいい笑顔であなご天に頭からかぶりついた元巫女に倣って、ワタシもあなご天をがぶりとあたまからいく。揚げたてのさっくりした衣にとろっとかかった天つゆ。それに、うなぎよりもずっと軽やかで優しい味わいのあなご。うん、美味である。
「ん~ま~」
巡も三分の一ほどに切り分けられたあなご天を手に、思いっきりかぶりついて楽しそうに咀嚼している。
「VTR上映会、スタートさ!!」
天丼に舌鼓を打っている中、元王子が何やらテレビ台でごそごそし出したかと思ったら、〝さいはて荘異世界冒険記① KOCHI〟なるタイトルがでんっと表示された。そうしてさいはて荘家族旅行のVTRが出発前の車に乗り込むところから流れ始める。ナレーション付きで。
『おい魔女、その菓子寄越せ』
『自分で取りなさいよ』
『俺様は忙しい』
『素直に〝食べさせて❤〟と言えない社長なのであった』
みたいな感じで、いちいち余計な茶々ナレーションが入る。社長が元王子を折檻し始めたけれど自業自得なので放っておく。
と、そこで気付いた。
違和感キャンセラーがかけられている。
テレビなんかによくあるモザイク処理、あれよりもずっと荒くて、もっと不明瞭な加工が施されていた。
〝何に〟かは、言わずもがな。
「おお~、これでだいじょぶなんだ?」
「ああ。奴に確認も取った。安心しろ」
「もちろん元データは完全に抹消してあるよっ。編集済みのデータしかないから安心したまえっ」
そして当然のように、誰も気にしない。
「改めて見返すと、ほんとに楽しかったねぇ」
「うむ。騒がしくも退屈しなく、賑やかながらも心落ち着くいい旅行であった」
「もきゅん。不思議だよね。みんな結構好き勝手動いてたのにさあ、バラバラって感じがしなくてさ」
黒錆一家での家族旅行とはまた違う。
とか言って、豹南中学校にいた時の修学旅行ともまた違う。
まとまりがないようでまとまっていて、傍若無人なようで気遣いにあふれていて、やかましい集団のようで何よりも心安らぐ家族で。
「天丼」
「うん?」
「黒錆一家の家族旅行は〝ごはん〟、ゆゆや大王たちとの旅行は〝天ぷら〟、そしてさいはて荘の家族旅行は〝天丼〟」
意味がわからない? 安心しろ、ワタシもだ。直感で言っただけである。
「実に魔女さまらしい喩えにございますね。ごはんは特別なものではございませんが、欠けてはならないもの。天ぷらは滅多にいただけない特別なもの。そして、天丼は特別とかけがえのないものが合わさったたったひとつだけのもの」
おお……ワタシでもわかっていなかったことを元巫女がわかりやすく解説してくれた。うん、言われてみると確かにそんな感じがする。
「うはは! そんで、喰いすぎると胸やけする、ってな!!」
あー、確かに。もうええっちゅうねんってなるヤツね。さいはて荘でもみんなで集まるの、時々だもんね。毎日だったら確かに胸やけしそう。主に元王子のせいで。
「さいはて荘は天丼、か。魔法少女ちゃんもうまいことを言うねっ」
「さいはてんどん!」
「OH! ファンタスティックだラストエンペラー!! さいはてんどん!」
「秋限定のメニューによさげだな、さいはてんどん。この天丼をそのままさいはてんどんって名前で」
「昇天ペガサスMAX盛り丼よりいいねぇ」
「それをやるなら別に、秋限定の天ぷら定食も作れ。具材が無駄にならなくて済む」
「……さっきも思ったんじゃがの。ペガサス、角ないじゃろ。角、あるのユニコーンじゃろ」
「あっ、そういえば……ほんとですね。きづきませんでした」
「語感とインパクトで肝心なところがすっぽ抜けちゃうやつぅ~」
わやわや。
VTRの中でも、ワタシたちがわやわや。
──うん、やっぱりさいはて荘は特別で、そしてかけがえのないものだ。




