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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【ながしそうめん】


「元軍人~、こんな感じでどう~?」

「ふむ、大丈夫だろう。次はここを手伝ってくれ」

「ボクのエクスカリハンマーがッ!! 輝くッ!!」


 とんてんかん。

 とんてんかん。


「俺は休みに来たのだが」

「じゃかしい青二才! キリキリ動かんか!」

「社長が竹を切ってるってなんかシュールだな」


 ぎこぎこ。

 ぎこぎこ。


「大家さん、おにぎり作るの手伝いますよぉ」

「ありがとうなっちゃん。さけとこんぶとおかかがあるから、かわりばんこにいれていってね」

「ワタシも作る~」


 ころりんころりん。

 ころりんころりん。


「よし完成したぞ。元国王、水を流してくれ」

「はいよ~」


 そうして蛇口がひねられるのと同時にざばりと水が半分に切られた竹の上を流れていく。いくつかの左折を経て水は無事たらいの中に落ちた。成功である。


 そう、流しそうめんである。夏の風物詩である。今日は珍しく社長もいて、ほぼ全員が揃っている。


「よ~し、じゃあ今度はそうめんを流す番だね~。でもその前に、大家さん~元巫女さんは~?」

「ううん。やっぱりこないって」


 ここにいないのは、さいはて荘の中から極力出ようとしない元巫女ただひとりだけ。

 大家さんは誘ったみたいだけれど、やはり出てこなかったらしい。元巫女はいつも何かを懺悔するように畳の間で正座している。ただひたすら。いつまでも。


 ……いつか、話を聞いてみようかな。


「いっくよ~」


 竹樋の上流から元国王がそう声掛けてくると同時にそうめんが投入される。ワタシは右手に箸を、左手に器を構えてそうめんが流れてくるのを待つ。透明な水が竹樋をゆるゆる流れているのをじっと見据えて、待つ。

 そしてちゅるり、と水の中を泳ぐように白いものが流れてきたのを視界に入れた瞬間ワタシは箸を伸ばし──華麗にすくい上げた。


 ワタシ愛用の赤い箸に輝く一本の──白い錦糸。


「……ん?」


 一本?

 すくい損ねたかと視線を下流に向けるが、何も流れていないし誰もすくっていない。……ん?

 今度は視線を上流の方に向ける。元王子が箸いっぱいそうめんをすくい上げて盛大に器にぶち込んでいた。よし、後で呪う。


「ちょっと元王子! 下流にも人いるんだからすくう量考えなさいよ!」


「ん? ──あぁっそうか、ごめん! ボクとしたことがピュアハートを汚してしまうような真似をしてしまった! ああクリスタルの女神よ、お許しください」


 意味の分からないことを言いつつも元王子はそれ以降そうめんをすくう量に気を付けるようになり、下流にいるワタシたちもそうめんにありつけるようになった。


「普通のそうめんなのになんかおいしい」


 ちるちる。

 ちるちる。


 水が竹樋を流れる音に混じってみんながそうめんを啜る音が響く。その音を聞いているとなんだか笑えてきてしまって、それがいけなかったのかそうめんが気管に入り込んでむせてしまう。


「何をしてる」


 隣から社長が呆れたようなまなざしで見下ろしてきた。むきー!


「何だその目は。目上に向ける目じゃないだろう」

「うっさい。何様よ」

「俺様だ」


 ッハ、と鼻で笑いながら高圧的に見下してきた社長にかちーんとくる。コイツは何でいつもこう、上から目線なのよ!! 呪うわよ!!


「しゃちょうさん、おにぎりどうですか?」

「いただきます。ああ、大家さん結構。自分で取りに行くので」

「…………」


 大家さんの前でのコイツの猫かぶり具合は異常だ。元軍人は猫を被ってるとかじゃなくて単に大家さんにめろめろどっきゅーんだからなだけだけど、コイツは違う。大家さんの前では全力で猫を被っている。何なんだコイツ。


「猫かぶり」

「フン。敬服するに値する人間を選別するだけだ」


 コイツ最悪だ!

 選民意識バリバリだこいつ! それを悪いとも思ってない!


「安心しろ魔女。この俺様が貴様らのさいはて荘入居を認めたのだからそれなりに価値ある人間だと驕ってもいいぞ」

「それ喜んでいいことなの?」

「この俺様に認められたのだぞ? 喜ぶがいい」


 喜べねぇ。


「……?」


 不思議そうな顔をするな!!

 ったく、これだから社長は……ああ、そうめんおいしい。ちるちる。



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