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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・秋
103/185

【ぴざ】


 絶賛快晴!

 寒い日にはやはりほくほくジャガイモのピッツァ!


「元国王、火加減はこれで大丈夫か?」

「うん。ちょっと強すぎるくらいかな……そのままで大丈夫」


 元軍人と元国王が耐火煉瓦(れんが)で組んだかまどで晴天の下ピザパーティーである。二層のかまどを煉瓦で作って、一階部分を火床(ほど)にするつくりだ。

 ピザ生地は元国王の指示のもと、ワタシと大家さんで頑張ってこねた。具材のほうはお蝶が用意したから最高にうまいピザになること間違いなし。


「はい、まず一枚目。ジャガイモと厚切りベーコンのトマトソースピザ」


 元国王がおっきなピザピール(ヘラを大きくしたようなやつ)で難なくかまどからピザを取り出して、おっきなお皿にすすりと移した。そして間髪入れず新しいピザを載せてかまどに投入。さすがはパン屋さん。パン屋にもピザじゃないけどフォカッチャ置いてあるしね。


「一度に三枚焼いているからね。どんどん食べちゃってお皿空けて~」

「十二等分でいーか」


 ピザカッターを使ってお蝶が器用にカットしていく。真っ先に社長が手を出したのを皮切りに、各々ひと切れずつ手に取っていく。巡用にもひと切れ小さなお皿に移して冷ましておいてから、ワタシもひと切れ取る。


「あっつ、あっつ……」


 生地は具材を殺さない程度に薄くパリッと締めてあって、ほくほくじゃがいもと厚切りベーコンの味がよく引き立っている。ほんの少し焦げた生地がなんとも香ばしくて、ビスケット気分でざくざく噛み締める。じゃがいもと厚切りベーコンもトマトソースとよく合っていて、かまどで焼いたからかところどころ焦げていてそれがまたいい。


「おいひい」

「ねーた! ねーた! めーも!」

「またせてごめんね。ちいさくきったから、はいどーぞ」


 幼児用椅子に座って両手をばたばたさせている巡に、大家さんが小さく切ったピザを差し出す。ぐちゃりと握り潰す勢いでピザを受け取り、口に入れた巡の顔が笑顔になるのを見てその場の全員も笑顔になる。


「ホレ元国王、喰っちまえ」

「ああありがモガァ!!」


 かまどで作業していて手を離せない元国王のためにお蝶がピザを口に運んでいった、かと思えばくるくるピザを巻いて春巻きみたいにして突っ込みおった。相変わらず色気も何もない。


「もがもが……もごぉ、つぎゅ焼き上がりゅからおしゃら空けへ」


 口いっぱいにピザを頬張ったまま元国王がそう言ったので、最後のひと切れをありがたく頂戴してお皿を空ける。間髪入れず、乗っかる新たなピザ。

 次はツナマヨコーンなすび和えピッツァ。こちらは油分の多いツナマヨを使うから生地を少し厚めにしていて、ちょっともっちりしている。でも外側は火に炙られてカリカリに焼けていてうまい。

 みんなもふた切れ目をおいしいおいしいと笑顔で頬張っていく。


「とても美味しゅうございますね。立食ぱーてぃ形式なのも新鮮で、楽しゅうございます」

「おいしいねぇ! 外で食べるピザ! しかも手作り! かまど! ぜいたくだぁ!」


 元巫女となっちゃんは女の子らしくきゃいきゃいしていて可愛い。間に爺を挟んでいるのがちょっとシュールだけど。女の子ふたりに挟まれてさぞ嬉しかろうに、爺は無言でピザを頬張っている。


「ピザを食べながら飲むコーラも最高だね! そういえば魔法少女ちゃん、ピザとピッツァの違い知っているかい?」

「え? 違うの?」

「そうなんだよ! まぁボクも知らないんだけどね」


 知らねーんなら話振るな!! だってボクイタリア生まれじゃないしぃ。

 意味のない十数秒を過ごしてしまった。ちなみに後で元国王に聞いてみたところ、主な違いは食べ方らしい。イタリアのピッツァは基本的にひとり一枚で、扇状にカットせずナイフとフォークで食べるんだそうだ。


「にーた! おいし?」

「まあまあだな」

「まーまー!」


 いつもの如く素直にならない社長に巡がうっきょうっきょと笑う。いつも思うが、何故社長に懐いた巡。暴君と魔王には通じるものがあるのか。二代目元軍人よりも二代目社長の方が嫌だぞ。


「元軍人にも社長にも似る気がするわい」

「何その悪夢」


 人外魔王爆誕なんて恐ろしいことになったら姉として責任感じるぞ! 勇者を召喚して〝ワタシの弟を……止めてください〟って聖剣授ける展開になった時のために聖剣を元王子に作らせるか……。


「ぴゃー! たべゆー!」

「はいはい、どんと食べなさい食いしん坊!」


 ツナマヨコーンは巡のお気に召したらしく、おかわりを希望してきた。さすがツナマヨコーン。子どもの心をがっちり掴む。ワタシもだけど。


「ねぇねぇ魔女ちゃん、入試って三月だったけぇ?」

「うん。三月はじめ」

「どぉ?」

「たぶん大丈夫……かなぁ。過去問いい線いけてるし、ケアレスミスに気を付ければ……」

「お前は理解力もあるし応用力も悪くない。だが理解力と応用力の高さゆえんに過程を飛ばしがちなのが欠点だ。過程を飛ばさなければ生じないミスをお前は犯しがちだ」

「ぐぬ」


 社長先生からの手痛い指摘。


「天才が解を導き出す時、凡人には過程を飛ばして直接解に辿り着いたように見えようが、逆だ。天才であればあるほど過程を飛ばさない。ただ暗算の速度が凡人には理解できないだけのこと──貴様も心しておくことだな」

「ぐぬぅ……ハイ」


 正論だ。現に、ワタシは計算問題にしても長文問題にしても飛躍した解を出して間違えがちだ。わかるからいい、じゃない。()()()()()()()、だ。

 心します。


「ははは、頑張ってるねぇ。はい次のピザ。サラミたっぷり王道ピザ」


 うひょー!

 ──いや、心する。するよ。でも今はピザ!



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