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7 ■■■■■■■■■■■■■■■/VSフルグル・モルス







「……さて、俺はやられたことにはたっぷりと利子をつけて返す性分だ。

 あの男に仕えるイカれ野郎……フルグル・モルスだったか。

 ――テメェには随分と長いこと狭苦しい場所に閉じ込めてくれた礼を、たっぷりとしてやらないとな」



ッ、ッ!! 

 れるものならってみるといいのデスッ!

 デスがァ、半端な輝きならば、一瞬でかき消しましょう! 

 アナタは愚者デスが、面白いッ! サア、サアサア、見せるのデス、アナタの輝きを! 

 アナタの命、その全て燃やし、ワタに死を与えんと向かってくるのデス! 

 命とは、死を前にした瞬間にこそ輝くものッ! 

 であれば、これこそ至高デス、これこそが高デスッ!

 始めまョウ!  命を賭死た――――輝きのための闘争をッッッッッ!!!」




 二人の視線が重なり、殺意が炸裂した瞬間――誰が告げずとも、戦いの幕は上がる。


 ヒギリが地を蹴り駆け出す。足元が爆発し、激烈な勢いで彼を加速させた。

 《火属性》の魔術。

 彼の持つ属性だ。属性は原則一人に一つ。

 彼が扱うのは、仇敵の《氷》とは正反対の《火》。

 これまで彼を戒めていた鎖には、魔力を封じる仕掛けが施してあったが、その禁は頼りになる相棒によって解かれた。


 あとは存分に力を振るい、障害となる男を殺すのみ。


「――セアァッ!」


 鋼鉄の拳を振り抜く。

 その際、肘部を爆破し、拳を加速させる。

 駆け出しと振り抜き、二段の爆破加速を用いた肉薄からの拳打。

 爆破加速がある以上、大振りは必要なく、モーションは限りなく小さい。

 今は遠い彼方の日々の中で。


   ――――『どれだけ強い一撃を持っていようが、ただそれを当てようと躍起になるだけでは宝の持ち腐れだ』


 もはや全てが夢だったように思える日々の中でもらった教え。


 郷愁の彼方で、あの男には一度も勝ったことがなかった。

 あれから変わった。何もかもが、変わったのだ。

 心の在り方も、肉体の形も、拙かった戦い方も――全てを変革させたのだ。

 ――――ただ一つの命を、この拳を打ち砕くためだけに。


「……死死シシッ、その程度ッ!」


 ヒギリの拳は空を切り、そのまま石の壁を粉砕し、砂煙を巻き上げる。

 フルグルは、如何なる手段を用いてか、宙を舞った。

 素の身体能力ではあり得ない、魔力による肉体強化だとしても不自然な軌道で飛び上がったと思ったら宙返りして壁に張り付いている。

 壁から垂直に立ったまま、男は体を折り曲げて笑う。


ッ! 戦には相応しい装束というものがあるのデス、色直しの時間を頂きましょうか!」


 跳躍を繰り返し、先刻ノーチェが破壊したことにより出来た大穴から上層へ。



「……なんだ、あれは」

「恐らく磁力かと。あの男の属性は《雷》、壁に金属を仕込む等の細工がしてあるはずです」



 ノーチェが素早く答える。

 魔術はこの世の理を捻じ曲げるが、基本的には理に沿った改変を行う。

 倒すべき相手の対策に必要な知識は、ノーチェと共に過ごした日々の中で頭に叩き込んでいた。

 ノーチェはヒギリよりもずっと頭の出来が良い、彼女は教師としても優秀だった。


「雷か……火よりはまだ都合がいい」


 かつて殺した《四星剣》が一人ヴォルカの属性は《火》。

 同属性の対決は、純粋な力と自身の属性をどれだけ上手く使えるか。

 あの時よりも、勝利への道筋はよく見える。

 再度足元を爆破、跳躍し、壁を蹴ってまた跳躍。それを繰り返して上層に到達。

 《監獄迷宮》の名の通り、ここは入り組んだ通路が続く複雑な建物だが、関係ない。

 どういう経緯にせよ《四星剣》であるフルグルとは戦う必要があった。

 囚えられる遥か以前より、ここの地形は頭に叩き込んである。


 それに――


「……オォ、らァッ!」


 壁を殴り壊して、道を切り開く。

 仮に地形がわからずとも同じことだ、ただヤツが撒き散らす不快な魔力の方へ突き進むのみ。


 ――その時。

 気配。次いで、声。


「野蛮デスねぇー」


 監獄内にある中庭、開けた空間に出た――そこへ足を踏み入れた途端、上方から豪速で何かが飛来してくる。

 咄嗟に横っ飛びで回避、ヒギリがいた空間が一閃され、土煙が舞う。


 土煙の向こうに見える影は、巨大な魔物のように見えた。


 長い尻尾、巨大な爪、尋常な人間ならばありえない、四本の腕。

 姿を現したのは、鋼鉄の武装に身を包んだフルグルであった。


「また随分と化物へ近づいたな」


「お褒め頂き光栄デス。

 これこそが我が戦装束、逃れ得ぬ死の具現、アナタに死を齎す者の姿……、

 《改造神装顕現フェイク・リベレイト》――《鏖殺の戦装アーマメント・ヘファイストス》」


「……死に装束にしちゃ派手すぎるな」


 背中に接続された鋼鉄の腕は、巨大な獣の爪のようだ。五指に当たる部分は全てが鋭利な爪、あれに掴まれれば人体など容易くバラバラに引き裂かれるだろう。


 右手には巨大な刃。刃は奇妙な形状をしており、一見丸みを帯びて切れ味がなさそうだが、その実は正反対。刃の側面は、鮫の歯のような小さな刃にびっしりと覆われている。

 側面の刃が高速回転し、対象を削り取るように切断する。


 ――先史時代、回転円刃チェーンソーと呼ばれるものであった。


 さらに左手には複数の筒を連ねたモノが。束ねられた銃身からは高速で弾丸が吐き出され、射線状の物を薙ぎ払う。

 こちらは先史時代、多銃身機関銃ガトリングと呼ばれていたものだ。


 これが《魔術師》が《星騎士》と名を変えた理由。

 既存の魔術とは一線を画す戦闘技法。

 フルグルの戦い方は、その中でも最も異端のものであった。


 ――《星の追憶レーヴ・エトワール》というものがある。

 それはこの星の記憶。星が生まれてから、そこで起きた全ての事象を収められた無限にも等しい思い出達。

 このを星は、一つの巨大な《想星石メモリア》なのだ。

 星の記憶。その中でも取り分け古く、強大な力をモノがある。

 人の歴史よりも遥か以前、人知及ばぬ力を持つ者達が紡いだ物語。

 それを人は――《神話》と呼ぶ。

 星に刻まれた神話から力を引き出し操る術を行使するのが、《星騎士》だ。

 先史時代よりも遥か過去――神話時代の神の力。

 《四星剣》は、神の力をその身に纏う。


 フルグルは神話の力を宿しながら、先史時代の兵器を扱うようだ。

 神と人。先史時代においては、魔術と科学と呼ばれた、本来相容れぬ力を同時に操るという異端。だが、異端であることをこの男が恐れるはずなどない。


 




「サァ、続けまョウッ! アナタの、終幕への旅路たたかいをッ!」


「いいや、テメェの幕だ……《神装顕現リベレイト》――《終炎の拳装レーヴァテイン》」


 ヒギリの鋼鉄の右手を、真紅のガントレットが覆った。




「フム……そうデスか、我らに歯向かう以上、やはりアナタも《神装》を。それに、火デスか……」


 フルグルが炎を纏うヒギリの右手を凝視した。

 推し量れる余地などないが、そこには何か執着めいたものがあった。


「世界を焼き焦がした神の力だ。テメェらまとめて焼き殺す」


 ――《神装》。

星の記憶に接続し、そこから《神格因子》と呼ばれる神話の力を引き出す武装。

 一度《神装》と契約してしまえば、後は自身の魂の中にある空間に収納し、出し入れは自由となる。

 非常に希少な存在で、各地の迷宮の奥地に封じられている場合がほとんどだ。

 《四星剣》が持っているモノは、主にザフィーアが過去に回収した物。

 ヒギリは仇敵に対抗するために、自ら危険な迷宮に潜り、その力を勝ち取った。


 そして、フルグルが先史時代の武装を操るという異端の力を持っているかと言えば――、

 《ヘファイストス》、それがフルグルの操る《神格因子》。

 ヘファイストスは、古くは雷を司り、後に鍛冶の神となる。

 フルグルは雷を操り、さらに《先史時代》の武装を模倣している。

 この時代の人間が出来るはずもない、先史時代の武装を操るという離れ業を、『武装を理解し、生み出し、操る』という能力を持つ神格によって成し遂げていた。



「輝きがないのならッ! 無様にッ! 無惨にッ! 鮮やかな臓物を散らすのデスッ!」



 フルグルは、多銃身機関銃ガトリングの銃口をヒギリへ向けた。

 束ねられた銃身が回転。魔蟲の羽音めいた低い銃声が轟く。

 横殴りに振りつける、鋼鉄の雨であった。

 射線上にある木が破片を散らし、一瞬で削り取られて倒れていく。石壁が蜂の巣になったかと思えば砕け散り、その先にいた囚人達を弾丸が穿つ。

 断末魔すらなく、人間が千切れていく。


ッ! アア、輝きなき命はなんと脆いッ! しかし悲しむことはないのデス、無価値を! 無意味を! 悲しむ必要はないのデスッ! アナタ達の死は、ワタの魂の輝き、その糧となるのデスッ!! そして、私の輝きは、ザフィーア様の糧となるのデスッッ!!」


 無関係の囚人を巻き込もうが、何人死のうが、フルグルにとっては些事に過ぎない。

 アマネセルへ語った通りだ。

 輝きなき命では、彼の魂は震えない。

 輝きなき命は無価値。輝かねばならない、命は輝かねばならないのだ――狂信的なまでにその信念のためだけに突き進むフルグルの破滅的な在り方は、どこかヒギリに似ているかもしれない。


「オヤァ……すばしっこいデスね、《凶手》殿。流石デス、隠れ潜んで隙を伺うばかりデスか?」


 鏖殺の雨から逃れたヒギリの姿が消えていた。

 辺りには、撒き散らされた破壊の痕跡と、人間だったモノの赤色アカイロの残骸が転がっているのみ。

 

 ◇


「……滅茶苦茶だな、アイツ……」


 ヒギリはフルグルから死角となる壁を背に隠れ、小さな声で呟いた。

 不快ではあるが厳然たる事実として、あの多銃身機関銃ガトリングは厄介にも程がある。ヒギリは先史時代の『銃器』とやらについての知識を持っている。それを知った時の感想は――あんなものがあるのなら、大抵の魔術は無用の長物と化すだろうというものだった。

 騎士学校における魔術の扱いについての評価項目、その中に《精密性》というものがある。

 例えば火球を打ち出す魔術があるとして、火球を一度に大量に出す、連射速度を高めるという方向に自身の力を伸ばすのなら、気が遠くなるような努力の果てに《精密性》を高める――つまり、魔力の細やかな制御に関する鍛錬を積まねばならない。

 だが――そんなものは魔導加工した弾丸を込めた機関銃マシンガンがあれば済む話だ。そちらの方が余程殺傷性が高い。

 扱いについても、魔術よりもずっと楽だ。


 そして、フルグルが持つあの銃器。

 多銃身機関銃ガトリング――機関銃よりも遥かに過剰な威力。射程、連射性、弾速――どこを取ってもやっかいだ。幸いなのは、馬鹿でかい分取り回しは良くないだろう。懐に入ってしまえば御しようはいくらでもあるが、そうなれば今度は残り三本の腕が襲い来る。

 あの腕に掴まれて、至近距離で弾雨を叩き込まれるなど、最悪のパターンだ。


「――ヒギリ様」


 気がつけば、目の前にはノーチェの姿が。

 彼女もここの地形は頭に入れてあるだろう、ヒギリよりもずっと正確に。フルグルの視界に入らずにここまで来るのも容易かったはずだ。

 尤も、このまま戦いを続けていれば瞬く間に全て更地にされて、地形を調べた努力も無に帰すが――その前に、こんな戦いは終わらせる。

 彼女が来たということは、そのための策を持ってきたという可能性が高い。


「……あれ、どうにか出来るか?」

「――ええ、こちらを」


 ノーチェが差し出してきたモノを見て、ヒギリは僅かに目を見開いた。


「……ああ、なるほど――なら、これで終いだな」


 ノーチェの意図を察して、勝利を確信するヒギリ。

 その時だった。




「――フルグル様ッ! 貴方は一体なにをしているのですか、この惨状はなんですかッ!?」


 全身を凶器で包み、命を無価値に散らしていく男へ、少女が怒りを顕にして向かっていった。



 ◇



「おやおや……どうされたのデスか、アマネセル様」

「どうもこうも……私達は、災厄から人々を守るために剣を取るはずです。その私達が、災厄そのものになるなど、あってはならないはずでしょうッ!?」


 アマネセルは、剣を引き抜いてフルグルへと突きつけた。

 彼女も《四星剣》である以上、その剣もまた《神装》。


 物陰から、ヒギリはその様子を伺う。


「……仲間割れか?」


 だとすれば都合がいい。

 《四星剣》が潰し合って減ってくれる、願ってもない展開だ。

 だが……。

 少女の顔へ視線を向ける。最愛と同じ顔。年齢も、彼女が亡くなった時とちょうど同じくらいに見える。

 感傷で彼女を助けるなど、あり得ない。

 もしもそんな感傷もので復讐が頓挫するならば、それは抱いた憎悪への冒涜だ。

 今の自分にとって譲れぬもの憎悪のみ、それを汚せば、もはや自分に生きる意味はない。

 それでも――、




「フム……そうデスか。なら殺し合いまョウ。アナタとワタ、どちらの魂がより鮮烈に輝くか比べましょう……デスが、アア……今は先約がありますので、引っ込んでいてもらうのデス」


 束ねられた漆黒の銃口が、アマネセルへ向けられ――



「……チッ、クソったれ」

「ヒギリ様、なにを――っ!?」


 舌打ちと共に駆け出すヒギリを見て、ノーチェは目を剥いた。

 今出ていけば、あの少女諸共に弾雨の餌食となる。そもそも、今のヒギリが誰かを助けるということなどあり得えない。

 なのに、どうして。

 

 爆破加速と併用して、足元から火炎を吹き出し自身の体を弾丸の如く撃ち出す。

 鏖殺弾雨がアマネセルを薙ぎ払う直前、ヒギリが少女の体を拐って抱え込み、勢いそのまま地面を十数メートル転がった。


「……か、はっ、けほ……貴方、一体どうして」


 咳き込みながら、少女は疑問を呈する。


「何を勝手に犬死しようとしてやがる」

「ですから、なぜ、貴方にそんなこと……!」

「フルグルは殺す。その後、お前から他の《四星剣》の情報を引き出す。だから死なれると困るんだよ、引っ込んでろ」

「なにを勝手な……! それでは、罪のない……いいえ、罪を抱えていても、それでもただ殺されていはずのない人々を守れません!」

「……なら、俺があいつをブッ飛ばしている間、囚人の避難誘導でもしてろ。お前が下らない偽善に浸るのは勝手だが、俺の邪魔にならないところでやれ」

「……、勝手なことを……ッ!」

「勝手なのはテメェだ! テメェはアイツに勝てんのか!? 勝てねえならさっさと失せろッ!」


 好き勝手に言うだけ言って、ヒギリは再びフルグルへ向かっていく。


 取り残された少女は、拳を握りしめた。


「……私は……ッ」


 ――私がしたいことはなんだ? 

 ――私がすべきことはなんだ?


 アマネセルはヒギリの言葉に反論したい部分が山程あったが、今はそんな場合ではない。


 少しでも多くの命を、あの狂人の魔手から救わねばならない。

 命を救うために。

 命を奪うために。

 正反対の方向へ、二人は駆け出していく。


 ◇ 


「逃げろォ! あんなもん食らったら一溜まりもねえ!」

「フルグル、あの野郎、とうとうとことんイカれやがったか……っ!」


 叫びながら逃げ惑う囚人達。

 監獄内は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 フルグルの放つ鏖殺弾雨は、流れ弾であろうと容易に命を散らせていく。


「うう……どうして、こんな……母さん……」

 

 足に傷を負い、大量に出血している少年。

 彼がまだ人体の形を保っている以上、弾雨にまともにさらされた訳ではないだろう。

 跳弾か、弾丸が砕いた破片に当たったのか。

 歩くこともままならないようだが、それでも。

 彼の周囲に散らばる、赤色の肉片ひとだったものとは異なり、彼はまだ助かる見込みがあった。


「……大丈夫ですか!?」


 アマネセルは少年に駆け寄り、彼をを担ぎ上げ安全な場所へ運ぶ。


「僕……悪いこと、したのかな……したよねえ……したから、こうなってるんだよね……」

 

 この監獄には、罪の大小を問わず様々な者が収監されている。

 彼は物取りを繰り返して捕まったらしい。

 父は魔物に殺され、母との貧しい暮らしを耐えかね、母を食べさせるために罪を犯した。

 どんな理由でも罪は罪。だから、こうなることもしかたないことなのだろう。

 アマネセルが止血の処置をしている時に、彼は切れ切れの声でそう語った。


「……そんなはず、ありません! 貴方の罪と、今の貴方の苦しみは、なんの関係もないッ! 貴方がこんな目に合う必要なんて、どこにもないのに……っ!」

「おねえさん……優しいね……僕なんかのために、そんなに、泣いて……」


 アマネセルは拳を握りしめた。

 確かに泣いていた。彼の姿を見たせいもあるが、なによりも自分の不甲斐なさが悔しくて、泣いていた。

 十三のアマネセルよりもさらに幼い少年が、こんなに苦しんでいる。

 守ることができなかった。自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはなっていなかったはずだ。


「僕、アグノスって言います……。いつか、ここを出られたら……おねえさんにお礼がしたいな。でも、無理かなあ……」

「大丈夫……大丈夫です。一先ずの処置はしました。……お母様と再会するのでしょう? こんなところで諦めてはいけません……っ!」

「おねえさん、本当に……優しいなあ……」


 少年の手を強く握り、そう告げた後に周囲の安全を確認。

 そして再び、アマネセルはまだ救える命を探して戦場を駆けた。


 ◇


 再び相対したヒギリを見るなり、漆黒の長髪を振り乱して男は嗤った。


ッッッ!! アア、可笑死いデスねッ! なんデスか今の茶番は? アナタは殺す者であっても、救う者ではないでしょう、凶手殿」

「ああ、その通りだな」

「だというのにッ! アナタは救った! アア、魂の在り方が揺らいでしまいますよ、それではワタのような、輝きに、夢に、死に一途な者には敵わないのデスッ!」

「下らねえ勘違いだ、俺はなんにもブレちゃいねえよ」


 ヒギリが肉薄のために踏み出す直前――フルグルが突きつけていた銃口から、弾雨が吐き出されて、標的を挽肉へ変える、

 ――はずだった。


「オヤァ?」


 ヒギリの姿が揺らぎ、消えた。


「……熱……アア、なるほど」


 陽炎のごとく揺らめく大気。熱により光を屈折させたのか。

 力任せなタイプに見えて、存外細やかな手も使えるようだ。

 しかし――


「甘いデスッ!」


 背後から飛びかかってきたヒギリを、フルグルは振り返りもせずに、背中から伸びる三本目の腕で掴んだ。


「……どうかな」


 拘束されたヒギリに、回転円刃チェーンソーが絶叫を軋ませながら迫る。

 断続的に響く銃声の如き、耳を聾する轟音。高速回転する致命の歯列は、防御不可能の斬撃だ。全魔力を集中させて防御しても、その魔力を全て削り取って、刃を肉に届かせるであろうそれを前に、ヒギリは左手を差し出した。

 刃が迫り、

 異形の左手へ食い込み、肉を削り、骨を抉り、神経を引き裂くような痛みが走り――、


「ぐ、ギぃ、がァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッッッッッ!!!!」


 天を衝かんばかりの絶叫が轟く。

 天を衝かんばかりに鮮血が迸る。


 左腕は異形のモノと化しているが、神経は通っており、痛覚もある。鋼鉄となっている他の四肢よりも、その感覚はずっと鋭敏だ。


ッ! ッ! アア、甘美な悲鳴デス! 死が! 死が迫っているのではないデスか!? 見えますか、死が! 死の輝きを見ているのデスかッ!? アナタの死は、輝いているのデスかッッッ!?」


 苦痛に顔を歪ませ絶叫するヒギリの顔を見て、フルグルは狂気に満ちた哄笑を上げる。

 彼の痛みの全てを脳髄に刻むように、その様を目を見開いて観察し、狂乱する。


 ――痛い、痛い、痛い、いたい、イタイ、痛イ、


 脳を埋め尽くす激痛。

 回転する刃が、異形の腕を削り続ける。

 削るそばから、異形は再生、血飛沫、肉片、骨の欠片、飛び散り続け、

 びちゃびちゃ、ばちゃばちゃ――ぐちゃぐちゃに降る、真紅の驟雨スプラッタ


 激痛、再生、激痛、再生、激痛、再生、激痛、再生、激痛、再生、激痛、再生、激痛、再生、激痛、激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛――、

 無限の切断。

 無限の再生。


 余人が目にすればそれだけで気が狂いそうな鬩ぎ合いは、攻め手に天秤が傾いていた。

 だが――意識が千切れそうな痛みの中、ヒギリは右手を伸ばしていた。


「……ハハ……馬鹿が、はしゃぐには早すぎたな」


 ヒギリの右手は、先刻までの彼が装着していた物とは異なっていた。

 一見すると女性的な細腕。だが、黒いラインが幾重にも走る鋼鉄の義腕。

 それは、ノーチェの右腕だったはずのモノ。

 

 先程の物陰でのやり取り。ヒギリは、ノーチェから彼女の腕を受け取り、付け替えていたのだ。それが何を意味しているのか――




「――――こいつは先史時代でいう、ハッキングとやらに近いらしい」 



 

 ノーチェが調べ上げ、身につけた技能の一つ。

 彼女の腕が触れた武装は、ノーチェの魔力に侵食され、制御を奪い取られる。

 本来、ノーチェ固有の技能であるそれは、彼女にしか扱うことはできない。

 だが《遅延起動ディレイブート》で、発動のトリガーを、相手の術式に触れた時にセット。これにより、あとはヒギリでも、フルグルの術式に触れるだけで、《侵食》が発動する。

 

 《侵食》の術式により、フルグルが自身の武装に魔力を通し操っている術式、その制御権を奪う。


 ――回転円刃チェーンソーの絶叫が止んだ。

 次の瞬間、再び動き出した刃が、ヒギリを拘束していた巨大腕を引き裂いた。

 自由を得ると同時、ヒギリは足を振り上げ、フルグルが回転円刃チェーンソーを握っていた手を蹴飛ばした。

 宙を舞って落ちてくるソレを右手で掴み取る。

 ボロボロになった左腕を切り離すパージ、バランスは悪くなるが、軽量化により敏捷性は増す。

 この戦法を選択肢に組み込めるように、片腕での戦いにも慣れている。


「――さて、反撃といくか」


 トリガーを引く。歯列が回転し、悲鳴めいた甲高い音を叫ぶ。


「アア、なんてこと……ワタの輝きが……。それはワタが死を与えるためのモノ、アナタの薄汚れた手で触れていいものでは……」

「知るか。俺とテメェに、違いなんてねえ。どっちも人殺しのクズだ」

「ええ、ええ、デスが……ワタは、死を与え、理想に近づき、輝かねばならないッ!」


 残った巨大腕をが振り下ろされる。脳天から垂直に、真っ二つに引き裂く軌道。


「ごちゃごちゃうるせえよ」


 巨大腕の軌道に完璧に合わせて、回転円刃チェーンソーを振り上げた。

 敵の攻撃がこちらへ触れるよりも先に、高速回転する刃が巨大腕を断割。


「――まだァッ、デスッッ!」


 束ねられた銃口が突きつけられた刹那――


「いいや、もう終いだ」


 火花が散る。鋼鉄が叫ぶ。

 銃身が、それを持つ腕が、バラバラに引き裂かれて飛び散った。


……アア、死が……死が、ワタの死が、ワタに死が、迫る、迫る、死が、死が……」

「よかったな、大好きな死が近えぞ」


 回転円刃チェーンソーは奪われ、

 背中から伸びる二本の巨大腕はどちらも切断され、

 多銃身機関銃ガトリングは破壊され、左腕が切断された。

 残ったのは、右腕と――そして、


「死が近いのは、アナタも同じことデスッ!」

「――チィッ、しつけえな……ッ!」


 ――鋼鉄の尻尾。

 これまでは地面に突き刺して、射撃の反動を抑え、姿勢を制御するのに使われていたそれは、磁力により加速し、刹那に伸びてヒギリの右手に巻き付いた。

 切断しようと刃を当てるも、先んじて尾が動力部を締め上げて、回転円刃チェーンソーが破壊された。元々は相手の武器だ、破壊する方法もわかりきっていたのだろう。


 ヒギリは用済みとばかりに奪った刃を手放し、右手に火の魔力を叩き込む。

 巻き付いた尾を高熱で溶解させて、戒めから逃れるも、ノーチェの腕は耐熱性を備えておらず、こちらも両腕を失った。


 フルグルは武装を全て失ったが、まだ右手が残っている。


「どうやら、一手足りていないようデスね、……ワタの勝ちデス」


 こちらは両腕を喪失――相手には右腕が残っている。

 あまりにも単純な理屈。

 確かに、文字通りこちらが一手足りていない。


「……仕方ねえな、使うか」


 溶け落ちた右腕を切断パージ


 そして、失われた右腕、その継ぎ目へ魔力――ではなく、《想力》を送り込む。

 彼の胸元にある《想星石メモリア》が輝いた。


 心の中で、二つの想いを燃やす。

 仇敵への憎悪――そして、最愛への想いを。



「アア、可笑死い、アア、楽死い……アナタの命は、輝いています。アナタは愚かデス、ザフィーア様の理想を理解できない愚者デス。しかしィ、有象無象とは違う……研鑽を積み、夢のために、目的のために邁進する、素晴らしい命だ……それを摘み取れるか、ワタの輝かしき命が摘み取られるのか……生死混ざり合う極限の境界……美しい、素晴らい……ッ、死ッ! 命の輝きのぶつかり合い、最高デスッ! 死が、死が輝く! アア、ワタはたどり着けるのかもれないッ! 最高の生ィッ! 最高の死ィッ! 最高の、輝きにィッ!」



「だから……ごちゃごちゃうるせえんだよ、テメェは……」



 拳を握る――いいや、もう右手はない。

 だから握るのは、幻の拳だ。

 頭の中でイメージを組み立て、そこへ力を送り込む。


 送り込む力の源は――、


 ◇


「もう、お兄ちゃん……また怪我したの?」


 追憶するのは、いつかの優しい日々。

 いつものようにボロボロになった兄を見て、アザミは大げさにため息をついた。


「座って。ああ、包帯ぐちゃぐちゃ……ほら、傷薬塗るから、動かないで」

「いづ、いでっ、馬鹿お前、もっと優しくできないのかよ」

「馬鹿はお兄ちゃんでしょ!?」

「……しょうがねえだろ。俺はお前を守らないといけないんだ」


 両親のいない二人が食べていくためには、ヒギリが危険な魔物討伐へ身を投じて稼ぎを得るしかないのだ。


「でも……お兄ちゃんが死んじゃったら、ダメだよ……そんなの、意味ないよ」

「……悪い、心配かけて」

「ううん……ごめん、滅茶苦茶なこと言って。でも、怪我しないで、なるべく危ないことしないでって思うのをやめるのは、無理だよ」

「……わかった。もっと強くなって、どんな魔物も無傷でぶっ飛ばす」

「あはは……お兄ちゃんも滅茶苦茶だ」


 ◇


 怪我をした時は、いつだってアザミに叱られて。ボロボロのヒギリを、悲しそうな目で見つめて。だが、傷ついてでも、生きる糧を得なければならず、ヒギリの体に傷は絶えず。

 そんな彼を、アザミは優しい手つきで治療してくれた。


 永遠に失われた優しい日々の記憶。


 優しい日々は失われても、《想星石メモリア》に保存しておけば、記憶だけは永遠なのに。


 それを――――焼却する。



「ごめん、アザミ……俺は弱いから、無傷では何も勝ち取れないんだ」



 消えていく。

 最愛との日々の一ページが、燃えていく。

 彼女を失った以上、もう絶対にその記憶だけは手放さないと誓っていたはずだったのに。


 記憶は焼却され――《想力》となって、ヒギリに力を与える。


 ぐちゅり――瑞々しく、右腕の切断面が蠢いた。

 瞬間、切断面が弾けると、右腕は瘡蓋のような赤黒い異形となって再生していた。

 記憶の代償にした《想力》。

 そして、異形は憎悪に感応し、その力を発動する。

 最愛と憎悪、二つを同時に行使して、肉体の再生を果たした。


「アア、輝きだァ……命の、魂の輝き……サア、サアサア、ぶつけましょう、ワタの輝きと、アナタの輝きをッ!」


「上等だ……かき消してやるよ、テメェの淡い光なんざ」


 磁力により自身を弾き飛ばすフルグル。

 爆発により自身を吹き飛ばすヒギリ。


 激烈な勢いで進む二人は――――、

 ――――同時に右拳を振り上げ、


 さらにヒギリは右肘部を炸裂させて加速。

 フルグルもまた、磁力によって拳を弾き出し――、

 

 拳を、届かせたのは――――、


「ぐ、ファ、……アア……どうてでョウ……このワタが……ザフィーア様の理想成就を目にすることなく……死ぬ、など……」


「…………そいつはな、」


 最後の瞬間。

 拳は僅かに、フルグルの方が早かった。しかし、その拳には力が伴っていなかった。

 磁力は、熱に弱い。ヒギリは最後の瞬間、フルグルの右腕を熱して磁力を弱めた。

 そして、あえてフルグルよりも後に拳を撃ち出して、彼の拳を砕き、そのまま進み――、

 フルグルの胸を、ヒギリの拳が貫いていた。


「…………俺が、アザミとの……、この星よりもずっと重い最愛との記憶を使ったからだ。こいつを出した以上……最愛に賭けて、絶対に負けられないんでな」


死死シシッ、これは可笑死い……復讐のために、その動機を捨てるなど……」


「ああ……だから、使い切るより先に、お前らを殺すよ」


「そうデスか……アア……妹さん……本当に、よく似ているのデスね……。おもろいデス……アナタがザフィーア様の輝きに届くのか……あの御方の輝きとアナタの輝きがぶつかる時、その輝きは、きっと、とても美しい……ワタは、その輝きの、礎に……」


 そう言って、フルグルは事切れた。

 右手を男の胸から引き抜く。

 よく似ていると――彼はそう言った。《想力》を使った際に起こる現承で、《想力》に触れることで、そこに宿る記憶を見てしまうことがある。

 フルグルはアザミとヒギリの思い出を見て、アマネセルとアザミが似ていることを理解したのだろう。


 そして――ヒギリもまた、彼の込めた《想力》から、彼の記憶を見ていた。


 ◇


 フルグル・モルスは《四星剣》であり、監獄長であり、研究者であり、拷問官であり、医者であった。

 複数の肩書を持っているが、彼の最初の肩書は医者だった。


 命を救い、命を失う日々。救える命と失われる命、何が違うのか。

 満足な死と、怠惰な生。

 魔物が溢れると、この世界は残酷な死で溢れた。フルグルはずっと考えていた。

 命の価値とは、なんなのだろうかと。人はどう生きるべきなのかと。

 人は死を恐れる。死は怖い、死は未知だ。


 ――――だが、死に怯え、ただ部屋の片隅で震えているような人生は、死体と何が違うのだろうか?

 若くして満足に死ぬのと、ただただベッドの上で老いていくのは、どちらが幸せなのだろうか?


 フルグルは大量の死を観察し、気づいた。

 輝きだ。

 命が輝いているものは、死を恐れない。夢を持ち、研鑽を積み、死に向かって駆け抜けるような、稲光の如く輝く者。


 フルグルは、この悲劇に満ちた世界で命を向き合い続けた結果、ゆっくりと壊れていった。

 

 そして、輝きに取り憑かれていく。

 輝きを求めて、彼は殺人を繰り返した。

 死を前にすれば、人は輝くはず。そんな妄執に囚われて、人を拷問し、殺害する。


 巷で噂になる殺人鬼の噂。

 ――――そこへ、《英雄》がやって来る。


 ザフィーアと対峙し、敗北するフルグル。

 だが、彼に落胆はない。

 むしろその真逆――彼は、希望を見つけた。


 ――ザフィーアという男の命は、輝いていた。

 彼の真実を知った。

 彼は目的のために己の全てを、世界の全て供物する。彼にはその資格がある。

 彼程の輝きを持つ男ならば、それが許される。

 輝きなき怠惰な命は全て、彼の供物となるべきだと、フルグルは確信した。


 ある時――友が死んだ。

 ヴォルカ・パシオンという女だ。

 直情的で、正義感に溢れ、世界を救うと息巻いている、馬鹿な女だった。

 女のくせに戦いを好み、女であるから侮られることを嫌う、下らない女だった。


「キサマがフルグルか……随分と陰気だな。それで《四星剣》が務まるの?」

「私を愚弄するか……試してみるか、女」


 女らしさの欠片もない乱暴で、不愉快な女だった。


「フルグル、次の任務は私と一緒だ。光栄に思えよ、キサマのような陰気な男に私が付き合ってやるのだから。キサマは性格は暗くてつまらないが、強いところは好ましい」

「……お前は……どうにも一言、いや一言どころではないな。余計なことを加えすぎる……」


 戦う最中に楽しげに笑っているくせに、平和を愛する、矛盾した女だった。

 戦うのが好きなのではなく、戦いで平和を勝ち取るのが好きだと言った。

 笑顔のために戦うのだから――――戦いの最中にも笑うのだと、彼女は言っていた。


「稽古をつけてやるフルグル! 《神装》はなしだが、全力で来いッ!」

「どうして私がそんなことを……」


 何度も背中を預けた。

 何度も刃を交えた。

 フルグルの方が、ずっと強かった。一度だって、負けたことはない。

 負ける度、彼女は同じことを言う。


「次の任務が終わったら再戦だ! 逃げたら許さんぞ!」

「ああ……約束してやる、だから……」


 逃げる必要はない。彼女よりもフルグルはずっと強いのだから。

 だが――彼女の輝きには、勝てないと思った。

 ザフィーアと同じように、理想に向かって走り続けてる、美しい命だと思った。


 そして――ヴォルカはヒギリに殺された。


 フルグルは、彼女の《想星石メモリア》を回収した。

 そこには、フルグルへのメッセージが込められていた。

 死の直前に、想いを込めたものだろう。



『……ごめんなさい、フルグル。約束……守れないみたい。私はここで死ぬが……、それでも……キサマはザフィーア様の理想を叶えてくれ……。必ず、この世界を……この無意味な死が溢れる世界を変えて……世界を、救って…………』



 ――――彼女の死は、無意味だったのだろうか。


 いいや、否。絶対に無意味ではない。

 彼女の死は、命は、輝いていた。

 輝いていた……はずなのだ。


 その輝きを、その価値を、絶対に失う訳にはいかない。

 輝きだ、輝きを求めるのだ。


 死は怖くない。

 恐ろしいのは、輝きなき命、輝きなき死、無意味な死、無価値な命。

 自分は無価値にはならない、輝くのだ。

 死を積み上げ、命を食らい、生き延びて、生き延びて、夢に手を伸ばし続け、理想を叶えて、輝くのだ。




 散っていった全ての無価値な命達も、理想を成就すれば、意味があったのだと、価値があったのだと……輝いてないなど、間違いだったのだと、証明できるのだから。




 笑顔のために、戦うと言っていた。

 だから、笑って戦うのだと、言っていた。





死死シシッ……アア、可笑死い……」



 だから笑おう。

 彼女の死を、無駄になんてしてやらない。





 …………ああ、ザフィーア様、申し訳ないのデス……理想の前に、ワタは、死を……。



 ……ヴォルカ……アナタの最期は、輝いていたのデスか……。


 ……約束の続きは、いずれ地獄で果たしましょう。


 ……ワタは……私の死は……。



 ――どこまでも眩い、星のような――いいや……。

 ■■のような……輝かしい魂を見た。

 あの男は《炎獄の凶手》は。ヒギリ・シラヌイの魂は――輝いていた。

 彼の輝きと、ザフィーアの輝き――いずれ二つは必ずぶつかる。

 宿命果たされる瞬間。その輝き、その眩さを想い、フルグルは……。





 ――――人は死ぬと星になるという。

 であれば、自分の星は、輝いているだろうか?




 

 結局……ワタは…………私は……なにをしたかったのだろうか?

 どうして笑っていたのだろうか?

 


 もう、ずっと昔から壊れていて、なにをしたいのかがわからなくて、なにをしているのかがわからなくて、それでも、胸の中に確かな想いがあって……。



 ――医者であった時代、命を取りこぼし続けた。


 ――殺人鬼であった時代、命を奪い続け、輝きを探した。


 ――ザフィーアに出会い、理想を知って、彼のために戦おうと思った。


 ――ヴォルカに出会い、彼女を失い、彼女の分まで笑わなくてはならないと思った。






 願わくば――全ての星が輝かんことを。






 最初の想いは……そう、全ての命に、価値があって欲しかった




 全ての命が、輝いていて、欲しかった。


 誰しもが輝くべきだと考えながら、フルグルは人の命を摘み取り続けた。


 ずっと忘れていた、最初の願い。


 彼もまた、ヒギリと同じく誰かを失い、決定的に変わった。

 狂気に沈み、最初の願いと正反対のことを繰り返していた。





 今宵。 

 星の流れていない夜に。

 叶わない、矛盾した願いを胸に。


 一人の男が――順当に、当然の結末として、命を散らした。 






 ……素晴らしい輝きを見ました。

 ……いずれその輝きは、私を救ってくれた理想とぶつかる。

 ……あの光の礎となれたのなら……。


 ……ヴォルカ、私は世界を救えず、ザフィーア様の理想を叶えられませんでしたが……。


 …………それでも、私の死も、悪いものではなかったはずです……。




 ◇



 ヒギリは、頭に流れてくる映像の奔流から解放され、フルグルの躯へ視線を落とす。


「最後までムカつくヤツだ……あれだけ滅茶苦茶しておいて、満足して死んでんじゃねえよ」


 頭蓋を踏み潰し、脳漿をぶちまけてやろうかと思ったが、やめておいた。


 もう死んでいる。これ以上、彼にかかずらう時間は一秒でも無駄だ。


 ヒギリは自身の全てを、たった一人の死に捧げておきながら。

 一人の死を、絶対に忘れないというのに。

 それ以外の他者が死んだ瞬間に、そこを明確な区切りとして、忘れ去って次へ進む。


 どこまでも最愛のための在り方を示しながら、ヒギリは躯に背を向けて歩みだした。




 ◇



 ■■■■■■■■■■■■■■■/VSフルグル・モルス



 ◇


 第一章  


 どうか全ての星が輝きますように/VSフルグル・モルス 了







************************************************









    レイン様……私は、一体どうすれば……。私が信じてきたものは、真実は、正義は……






 ――「また出たらしいぞ、『血雨の亡霊レイニーゴースト』」






「――見せてやるよ、正義ヅラしてるお前にな。……どれだけこの世界がイカれてるかを」





      「関係ねえよ。あいつが何をしようが、俺はあいつを許さねえし、お前らのやることも認めねえ」








「…………そ、んな……レイン様……あなたは……」












 次章  


 第二章 この世界の悲劇あめを晴らすまでに必要な涙の数/VSレイン・トラジェディ






 



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