第2王女との食事
ここら辺からは少しずつ文字数が多くなっていきます。
「う〜む……おばちゃん、日替わり1つ」
食堂へとやってきた迅は、悩んだ末に日替わり定食を頼んだ。
迅から代金の銅貨5枚を受け取ったおばちゃんは、すぐに準備に取りかかった。
「はいよ、おまち!」
ある程度は作って準備してたのだろうか、迅は意外に速く出された定食を持って、空いている四角い6人テーブル席の角に座り食事を始めた。
「……おぉ、これは中々美味しいな」
今日の日替わり定食は肉野菜炒めのようで、それはご飯が欲しくなる、丁度いいしょっぱさの味付けだった。
味を楽しみつつ黙々と食べていると、とある4人組が声をかけてきた。
「すいません、相席させてもらってもいいですか?他が空いてなくて……」
申し訳なさそうに話しかけてきたのは、同じクラスで勇者組の1人である梶谷 凛であった。
そして、その後ろには九条 繭と、知らない2人の女の子が立っていた。
ちなみに2人のことを知ってたのは、同じFクラスで自己紹介を済ませていたからである。
「……誰か待ってる訳でもないから、好きに使ってくれ」
「ありがとうございます!」
凛は断られなかった事にホッとして、お礼を言って席に座った。
そして、他の3人もお礼を言いながら座って、それぞれが食事を始めた。
迅もとくに話すことは無いので、黙々と食事を再開した。
「……ねぇ、ジン君って私たちと同じクラスだよね?」
「あぁ、そうだけど?」
食べてる途中で突然、確認するかのように繭が尋ねてきた。
(……なんだろう、嫌な予感しかしない)
「お願いがあるんだけど、私たちBクラスの人と試合をしてくれる人を探してて、それでジン君、やってくれないかな?」
(やっぱりかぁ〜)
予想通りの話に、迅は思わず下を向いてしまう。
迅としては勇者たちに介入するのはまだまだ先が良かったのだが、〝他の奴が誰も使えない以上は仕方ないか″と考え直し、条件付きで戦うことにした。
「はぁ……分かったよ。他が見つからないんだったらやってやるが条件がある。俺は巻き込まれた側だから、Bクラスの連中が言ってた何でも言うことを聞くっていうのを、俺には守る必要が無いようにしといてくれ」
「ん、分かった。そこはしっかりやっておく。受けてくれてありがとう」
迅が条件付き、とはいってもほぼ自分のための条件で受けてくれた事に、普段は無表情に近い繭が、柔らかな笑顔を浮かべながらお礼を言った。
ちなみに、迅がこの条件を付けた理由は、迅が確実に勝てても他の2人がダメだと意味が無いからである。
一応、勇者としてのスペックがあるとはいえ、戦うのは昨日の模擬戦が初めてで、しかも特訓は1日やっただけなのだから、初等部から鍛え続けてきたバルゴ達に勝つのは厳しいはずである。
(本当は見学するだけだったんだがなぁ)
迅が思い通りにいかないことに辟易としていると―――
「マユさん、その人は本当に大丈夫なんですの?私から見ても全然強そうに見えないのですけど」
突然割り込んできたのは、繭たちと一緒にいた女の子だった。
その女の子は薄い緑色の髪を肩まで伸ばしていて、翡翠色の瞳を細めて迅の方を見ていた。
「……初対面のくせに失礼な奴だな。少なくともお前よりは強いぞ」
「あら、中等部とはいえ、あまり舐めてもらっては困りますね。私の実力は今でもAクラスになれる程なんですよ」
「学院という枠組みの中でしかないもので威張られてもな……まぁ仕方ないか、態度くらいしか大きくできないもんな?でも大丈夫だ、小さいのが好きって奴も世の中にはいるからな」
「失礼な!私は成長が遅いだけで……って何を言わせるんですか!この変態!」
「シ、シルフィアちゃん、落ち着いて!」
小生意気なことを言ってくれたので軽く煽り返してやったら、さっきまでの冷静な態度はどこにも無く、迅に殴りかかろうとしているのを同じ中等部の娘に止められていた。
「離してくださいカンナ!こんなデリカシーのかけらもない害虫は抹殺してやるのです!」
「食事中だぞ、静かにしろよ」
「キィ〜〜〜ッ!」
「ジンさん!これ以上シルフィアちゃんをからかうのはやめてください!」
なんとなく面白かったので続けてイジってやったら、シルフィアは涙目で睨みながら唸り、もう1人のカンナという女の子は必死にシルフィアを止めていた。
ちなみに繭と凛は、一連の流れに目をパチパチとさせていた。
「悪かったよ。で、お前ら2人は誰なんだ?」
「ふ、ふん!人に尋ねる前にまずは自分の名前を名乗るべきではありませんの?」
「ふむ、なるほど……じゃあいいや」
「……え?」
まだ張り合ってくるシルフィアに対して迅は、〝これ以上関わることはないな″と考えて、名前を聞くのをやめて食事の続きに戻った。
「ちょ、ちょっと!私たちの名前を知りたいんじゃなかったんですの⁉︎」
「よくよく考えれば別に知る必要はないな」
「…………」
迅の淡々とした、予想もしなかった言葉にシルフィアは絶句してしまった。
そこで、このままではいけないと思ったのか、繭が紹介を始めた。
「ジン君、この子はシルフィア・ミロード・セントレアちゃん。この国の第2王女様だよ。もう1人は私たちと一緒にいた木原 麗奈ちゃんの妹の柑奈ちゃんだよ」
「へぇー、王女様と勇者様なのか。俺は迅だ、よろしく」
「木原 柑奈です。あの、勇者といっても私は戦ったこともなくて全然普通なので、勇者様じゃなくて柑奈と呼んでください」
「分かった、よろしくな」
「……シルフィアですわ。でも私は殿方とよろしくするつもりはありませんので!」
「はいよ、とくに関わりはないだろうから安心しろよ」
つっけんどんになりつつも自己紹介を済ませた迅たちは、食事を再開した。
「で?本当にあなたは大丈夫なんですの?」
「戦いのことなら心配すんなよ。ヤワな鍛え方はしてないからな」
「べ、別にあなたの事が心配な訳ではありませんわ。私が心配しているのは、あなた方が負けることでお姉様に迷惑が掛かることです。お姉様はこの国の第1皇女、たとえ小さいことでも、他人に見下される要素があってはいけないのです」
念を押して確認してくるシルフィアに返答すると、何か気がかりな事でもあるのか、下を向きながら説明してくる。
「まぁ、本当にやばい時は言ってくれればその時は―――」
〝力になってやる″と言おうとした所で、横から聞き覚えのある声に遮られてしまった。
「これはこれはシルフィア殿下、こんな所でお会いしたのも何かの縁、私どももお食事をご一緒してよろしいでしょうか?」
声がした方を見てみると、バルゴが胡散臭い笑みを浮かべながら一礼していた。
そして、後ろには今朝の取り巻きも一緒にいた。
「いえ、申し訳ありませんが、席が残っていませんのでお引き取りください」
シルフィアは声を掛けられた瞬間に、悲しそうな表情を王女としての顔つきに変えて、失礼にならない程度にバルゴに返答した。
「……おい、そこの3人」
バルゴが柑奈と繭と迅に向けて指をさす。
「俺たちは殿下に用があるんだ。とっととそこをどきな。もう1人は俺たちの接待をしろ」
相当むちゃくちゃな事を言ってきた。
そして、凛を残したのはやはり胸が理由なのか。
「聞こえませんでしたか?私は彼女たちと食事をしているのです。あなた達とは食べませんのでここから去りなさい」
「シルフィア殿下、あなたはこんなFクラスのゴミ連中と一緒にいてはいけないんですよ。こんな奴らよりも私たち上位クラスの方が相応しいのです」
カチンときたのか、シルフィアが強めに拒絶したのだが、バルゴたちは全然引く気がなかった。
「ほぅ?ではあなたのクラスは何なのですか?」
「……私どもはBクラスですが」
シルフィアに問われ、少し躊躇いながらバルゴが自分のクラスを告げた。
「私が選んだ方ならともかく、貴族でもAクラスでもないのに寄って来ないで下さい。酷く迷惑ですし、時間の無駄です」
すぐさま迅たちのフォローをしつつ、バルゴたちにバッサリと言い切った。
「ぐっ!」
シルフィアににべもなく断られ、かなり怒っているのか、全員の顔を睨みつけてくるバルゴ。
(流石は王族だな。だがこれは……こいつ後で来るだろうな)
すぐさま相手の弱点を見つけて突くのはいいのだが、後の事を考えてないところはまだ子供故なのか、それとも緊張でもしてしまっているのか。
ひとまずこの場は帰ってくれそうなのだが、このままだとシルフィア以外が報復されるかもしれないので、迅は自分に矛先を向けさせるためにバルゴに話しかけた。
「早く失せろよ、飯が不味くなるだろ?」
「……何だと、貴様!」
「この距離で聴こえないのかよ。もう一度言ってやる、早く失せろ」
「調子に乗るなよ、Fクラスの分際で!」
ついに我慢できなくなったバルゴが、迅に向かって殴りかかってきた。
迅は左横から飛んでくる拳を座ったまま左手ではたき落とし、右手に持ってたフォークをバルゴの目の前に突き出した。
バルゴはなんとか踏みとどまったが、目の前のフォークに対して目を見開き、1つゴクリと喉を鳴らす。
「まだやるんならこのまま続けるが、さぁどうする?」
「くっ、クソがっ!覚えていろよ!」
最後にそう吐き捨てて、バルゴたちは去っていった。
「ったく、ほんとあの手の人種はめんどくせぇな」
「……あなた、本当に強かったんですのね。私には手を撫でるように出したのしか分かりませんでしたわ」
「信じてもらえたようでなによりだ」
一件落着したところで、迅たちは残っていた食事を再開して、放課後の模擬戦について話し合いをした。
ちなみに、迅は勇者たちと熱心に関わることはしないだけで、全く関わらない訳ではありません。
感想やレビューをお待ちしています。