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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
学院編
8/77

第2王女との食事

ここら辺からは少しずつ文字数が多くなっていきます。

「う〜む……おばちゃん、日替わり1つ」


 食堂へとやってきた迅は、悩んだ末に日替わり定食を頼んだ。

迅から代金の銅貨5枚を受け取ったおばちゃんは、すぐに準備に取りかかった。


「はいよ、おまち!」


 ある程度は作って準備してたのだろうか、迅は意外に速く出された定食を持って、空いている四角い6人テーブル席の角に座り食事を始めた。


「……おぉ、これは中々美味しいな」


 今日の日替わり定食は肉野菜炒めのようで、それはご飯が欲しくなる、丁度いいしょっぱさの味付けだった。

味を楽しみつつ黙々と食べていると、とある4人組が声をかけてきた。


「すいません、相席させてもらってもいいですか?他が空いてなくて……」


 申し訳なさそうに話しかけてきたのは、同じクラスで勇者組の1人である梶谷 凛であった。

そして、その後ろには九条 繭と、知らない2人の女の子が立っていた。

ちなみに2人のことを知ってたのは、同じFクラスで自己紹介を済ませていたからである。


「……誰か待ってる訳でもないから、好きに使ってくれ」


「ありがとうございます!」


 凛は断られなかった事にホッとして、お礼を言って席に座った。

そして、他の3人もお礼を言いながら座って、それぞれが食事を始めた。

迅もとくに話すことは無いので、黙々と食事を再開した。


「……ねぇ、ジン君って私たちと同じクラスだよね?」


「あぁ、そうだけど?」


 食べてる途中で突然、確認するかのように繭が尋ねてきた。


(……なんだろう、嫌な予感しかしない)


「お願いがあるんだけど、私たちBクラスの人と試合をしてくれる人を探してて、それでジン君、やってくれないかな?」


(やっぱりかぁ〜)


 予想通りの話に、迅は思わず下を向いてしまう。

迅としては勇者たちに介入するのはまだまだ先が良かったのだが、〝他の奴が誰も使えない以上は仕方ないか″と考え直し、条件付きで戦うことにした。


「はぁ……分かったよ。他が見つからないんだったらやってやるが条件がある。俺は巻き込まれた側だから、Bクラスの連中が言ってた何でも言うことを聞くっていうのを、俺には守る必要が無いようにしといてくれ」


「ん、分かった。そこはしっかりやっておく。受けてくれてありがとう」


 迅が条件付き、とはいってもほぼ自分のための条件で受けてくれた事に、普段は無表情に近い繭が、柔らかな笑顔を浮かべながらお礼を言った。

ちなみに、迅がこの条件を付けた理由は、迅が確実に勝てても他の2人がダメだと意味が無いからである。


 一応、勇者としてのスペックがあるとはいえ、戦うのは昨日の模擬戦が初めてで、しかも特訓は1日やっただけなのだから、初等部から鍛え続けてきたバルゴ達に勝つのは厳しいはずである。


(本当は見学するだけだったんだがなぁ)


 迅が思い通りにいかないことに辟易(へきえき)としていると―――


「マユさん、その人は本当に大丈夫なんですの?(わたくし)から見ても全然強そうに見えないのですけど」


 突然割り込んできたのは、繭たちと一緒にいた女の子だった。

その女の子は薄い緑色の髪を肩まで伸ばしていて、翡翠(ひすい)色の瞳を細めて迅の方を見ていた。


「……初対面のくせに失礼な奴だな。少なくともお前よりは強いぞ」


「あら、中等部とはいえ、あまり舐めてもらっては困りますね。私の実力は今でもAクラスになれる程なんですよ」


「学院という枠組みの中でしかないもので威張られてもな……まぁ仕方ないか、態度くらいしか大きくできないもんな?でも大丈夫だ、小さいのが好きって奴も世の中にはいるからな」


「失礼な!私は成長が遅いだけで……って何を言わせるんですか!この変態!」


「シ、シルフィアちゃん、落ち着いて!」


 小生意気なことを言ってくれたので軽く煽り返してやったら、さっきまでの冷静な態度はどこにも無く、迅に殴りかかろうとしているのを同じ中等部の()に止められていた。


「離してくださいカンナ!こんなデリカシーのかけらもない害虫は抹殺してやるのです!」


「食事中だぞ、静かにしろよ」


「キィ〜〜〜ッ!」


「ジンさん!これ以上シルフィアちゃんをからかうのはやめてください!」


 なんとなく面白かったので続けてイジってやったら、シルフィアは涙目で睨みながら唸り、もう1人のカンナという女の子は必死にシルフィアを止めていた。

ちなみに繭と凛は、一連の流れに目をパチパチとさせていた。


「悪かったよ。で、お前ら2人は誰なんだ?」


「ふ、ふん!人に尋ねる前にまずは自分の名前を名乗るべきではありませんの?」


「ふむ、なるほど……じゃあいいや」


「……え?」


 まだ張り合ってくるシルフィアに対して迅は、〝これ以上関わることはないな″と考えて、名前を聞くのをやめて食事の続きに戻った。


「ちょ、ちょっと!私たちの名前を知りたいんじゃなかったんですの⁉︎」


「よくよく考えれば別に知る必要はないな」


「…………」


 迅の淡々とした、予想もしなかった言葉にシルフィアは絶句してしまった。

そこで、このままではいけないと思ったのか、繭が紹介を始めた。


「ジン君、この子はシルフィア・ミロード・セントレアちゃん。この国の第2王女様だよ。もう1人は私たちと一緒にいた木原 麗奈ちゃんの妹の柑奈ちゃんだよ」


「へぇー、王女様と勇者様なのか。俺は迅だ、よろしく」


「木原 柑奈です。あの、勇者といっても私は戦ったこともなくて全然普通なので、勇者様じゃなくて柑奈と呼んでください」


「分かった、よろしくな」


「……シルフィアですわ。でも私は殿方とよろしくするつもりはありませんので!」


「はいよ、とくに関わりはないだろうから安心しろよ」


 つっけんどんになりつつも自己紹介を済ませた迅たちは、食事を再開した。


「で?本当にあなたは大丈夫なんですの?」


「戦いのことなら心配すんなよ。ヤワな鍛え方はしてないからな」


「べ、別にあなたの事が心配な訳ではありませんわ。私が心配しているのは、あなた方が負けることでお姉様に迷惑が掛かることです。お姉様はこの国の第1皇女、たとえ小さいことでも、他人に見下される要素があってはいけないのです」


 念を押して確認してくるシルフィアに返答すると、何か気がかりな事でもあるのか、下を向きながら説明してくる。


「まぁ、本当にやばい時は言ってくれればその時は―――」


 〝力になってやる″と言おうとした所で、横から聞き覚えのある声に遮られてしまった。


「これはこれはシルフィア殿下、こんな所でお会いしたのも何かの縁、私どももお食事をご一緒してよろしいでしょうか?」


 声がした方を見てみると、バルゴが胡散臭(うさんくさ)い笑みを浮かべながら一礼していた。

そして、後ろには今朝の取り巻きも一緒にいた。


「いえ、申し訳ありませんが、席が残っていませんのでお引き取りください」


 シルフィアは声を掛けられた瞬間に、悲しそうな表情を王女としての顔つきに変えて、失礼にならない程度にバルゴに返答した。


「……おい、そこの3人」


 バルゴが柑奈と繭と迅に向けて指をさす。


「俺たちは殿下に用があるんだ。とっととそこをどきな。もう1人は俺たちの接待をしろ」


 相当むちゃくちゃな事を言ってきた。

そして、凛を残したのはやはり胸が理由なのか。


「聞こえませんでしたか?私は彼女たちと食事をしているのです。あなた達とは食べませんのでここから去りなさい」


「シルフィア殿下、あなたはこんなFクラスのゴミ連中と一緒にいてはいけないんですよ。こんな奴らよりも私たち上位クラスの方が相応しいのです」


 カチンときたのか、シルフィアが強めに拒絶したのだが、バルゴたちは全然引く気がなかった。


「ほぅ?ではあなたのクラスは何なのですか?」


「……私どもはBクラスですが」


 シルフィアに問われ、少し躊躇(ためら)いながらバルゴが自分のクラスを告げた。


「私が選んだ方ならともかく、貴族でもAクラスでもないのに寄って来ないで下さい。酷く迷惑ですし、時間の無駄です」


 すぐさま迅たちのフォローをしつつ、バルゴたちにバッサリと言い切った。


「ぐっ!」


 シルフィアににべもなく断られ、かなり怒っているのか、全員の顔を睨みつけてくるバルゴ。


(流石は王族だな。だがこれは……こいつ後で来るだろうな)


 すぐさま相手の弱点を見つけて突くのはいいのだが、後の事を考えてないところはまだ子供故なのか、それとも緊張でもしてしまっているのか。

ひとまずこの場は帰ってくれそうなのだが、このままだとシルフィア以外が報復されるかもしれないので、迅は自分に矛先を向けさせるためにバルゴに話しかけた。


「早く()せろよ、飯が不味くなるだろ?」


「……何だと、貴様!」


「この距離で聴こえないのかよ。もう一度言ってやる、早く失せろ」


「調子に乗るなよ、Fクラスの分際で!」


 ついに我慢できなくなったバルゴが、迅に向かって殴りかかってきた。

迅は左横から飛んでくる拳を座ったまま左手ではたき落とし、右手に持ってたフォークをバルゴの目の前に突き出した。


 バルゴはなんとか踏みとどまったが、目の前のフォークに対して目を見開き、1つゴクリと喉を鳴らす。


「まだやるんならこのまま続けるが、さぁどうする?」


「くっ、クソがっ!覚えていろよ!」


 最後にそう吐き捨てて、バルゴたちは去っていった。


「ったく、ほんとあの手の人種はめんどくせぇな」


「……あなた、本当に強かったんですのね。私には手を撫でるように出したのしか分かりませんでしたわ」


「信じてもらえたようでなによりだ」


 一件落着したところで、迅たちは残っていた食事を再開して、放課後の模擬戦について話し合いをした。

ちなみに、迅は勇者たちと熱心に関わることはしないだけで、全く関わらない訳ではありません。


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