情報と学院
まだしばらくは説明などが多めになります。
ギルドの中に入ると、中は結構な人数が入りそうな広さだったが、朝一で出たのがほとんどなのか、何人かの冒険者とギルドの職員しかいなかった。
「この街では通行料等は取ってないが、その代わりに何か身分証を提示してもらうことになっている。その1つが冒険者登録証だから、買い取りついでに作ってもらおう。心配しなくてもそれで何か義務が発生する訳ではないから安心してくれ」
(へぇ、これはラッキーだな。強制招集とかされないなら、めんどくさくなくていいな)
良心的な待遇であることに気分を良くしつつ、受付の方まで歩いていくと、衛兵が受付の女性に声をかけた。
「すまない、こいつの買い取りとこの青年の冒険者登録をお願いしたいんだが」
「分かりました、先に魔物の方を引き取らせていただきます。こちらは少し時間がかかりますので、その間に登録の方をしてしまいましょう。まずはお名前と年齢を教えていただけますか?」
受付はこの大きさの魔物に特に驚くこともなく、テキパキとガタイの良い職員を呼び、登録の準備に入った。
「名前は迅、年は16だ」
本当は24歳なのだが肉体は不老状態なので、止まった時の年齢を言っておく迅。
「お前16歳だったのか……こんなデカいのを狩るからもっと上かと思ってたよ」
「そうですね、私も少しびっくりしました。その若さで魔物を相手にする人はあまりいないですから」
(そういうものなのか……)
衛兵と受付嬢が驚いている理由は、この街、というよりもこの国に学院制度があるからだ。
200年程前からこの国では、10歳になった者は学院で学ぶことができるようになっていて、初等部・中等部・高等部の計9年間の学習ができるようになっている。
お金に関しては食費と生活費以外は国が負担をしているし、初等部から習うものの中に薬学がある為、ちょっとした小遣い稼ぎ等も出来るのであまり家の負担にならないのと、戦闘訓練も学ぶ事ができるからと学院に通わせる親がほとんどなのである。
そのために冒険者等になるのは、20歳くらいになってからが多いので、受付嬢も驚いてしまったという訳である。
ちなみに国が学院制度を作った理由は優秀な人材確保のためで、国は学院に通っている学生の情報を見れるので、優秀な人材には積極的に声を掛ける事ができるために、しっかりとした補助をしているという訳だ。
「何かまずかったりするのか?」
「いえ、大丈夫ですよ。いつだって優秀な人材は大歓迎ですから。それではこのカードに血を一滴垂らして下さい。このカードに認識魔法がありまして、冒険者ギルドが発行を許した者はギルドが身分を保証している事になります」
「これだけで大丈夫なのか?」
針を受け取って指から血を垂らしつつ、少しおかしく思ったので聞いてみる。
「はい、大丈夫ですよ。本当はその人の性格等を知る為に簡単な質疑応答があるのですが、ここまでの対応を見る限り問題ないと判断しました。私って人を見る目はあるんですよ」
「ふーん、まぁそっちが大丈夫ならいいか」
「それでは、これで冒険者登録は完了です。最初はランク1からなのですが、いくつかのクエストをこなすとランクアップ出来ますので頑張って下さい。それとギルドが身分を保証すると言っても、他所へ行くとランクのみでの判断になってしまいますので、低いままだと信用を得られなかったりするので、ある程度はランクを上げることをオススメします」
「まぁ、ランクは気が向いたらにするさ」
「それじゃ帳簿に記録しといたから、これで街の中を自由に歩いても大丈夫だぞ」
「こちらも今査定が終わったので、ボアの報酬をお渡ししますね」
迅は買い取りの金貨2枚、銀貨5枚、銅貨25枚を受け取り、衛兵からもOKをもらったので今日のところは何もクエストを受けずにその場を後にした。
「さてと、まずは目印を見つけなきゃいけないんだが……やっぱり王都に向かうのが1番かな?」
迅の目的を叶えるために必ず見つけて近くにいなくてはならないのだが、何もヒントが無いためにどうしようか決めかねてしまう。
迅が探しているのは、この世界での主人公である。
理由は単純なもので、この世界を見極めるためにトラブルホイホイである主人公を見つければ、あとは待てばいいだけなのである。
迅は今までいくつもの世界を渡ってきたが、どの世界でも必ず主人公と呼べるような人物が中心になっていた。
だからこそ探さなくてはいけないのだが、こればっかりは苦労してしまう。
迅はひとまず宿を確保しようと歩きだした。
奥の方を歩いていくと、いくつもの店が並んでいた。
どういった物があるのかを見ながら歩いていると、気になる話しが聞こえてきた。
「この間の光の正体は勇者様が召喚されたらしいぜ。昨日飲み仲間の奴と話したら、その勇者様が学院に通うって話しになってるみたいで、教えるのに緊張するとかって愚痴っててよぅ」
(へぇ、いい事聞いたぜ)
今回は歩き回らなくて済みそうだと思い、ご機嫌になりながら宿を見つけて中に入っていった。
翌朝、宿の従業員から学院の話を聞いてみた。
学院では優秀な人材を多く確保する為に、年齢さえ適していればいつでも誰でも入学検査を受けられるらしい。
更にそこでは全員が何かしらの能力を手に入れられて、望む人は本格的に訓練を受けられるし、望まない人でも多少の自衛が出来るほどには訓練を受けている。
「勇者の他にも何人か受けるようだし都合がいいな。俺もその中に混じって受けに行くかな。……そういえば学院の事とかは全然頭の中に情報が無かったな。テオトルの奴め……今回は一般常識で苦労しそうだな」
今更ながらに気付いた事であったが、今はどうする事も出来ないので地道に情報を集めていくことにした迅であった。
宿を出て噴水広場から東の方に向かうと学院があるそうなので、迅はそこに向かうことにした。
少し歩くと割と大きい建物が見えてきて、学生服を着た子供がちらほらと歩いていた。
学院の近くにもいくつかの店があるようで、お昼の仕込みをしているのかいい匂いが漂っている。
昼は何にしようか物色しながら歩いていると校門が見えてきた。
校門の前には豪華な馬車が3台止まっており、周りには鎧を身につけた男達が10人ほどと、学院の関係者であろう人が数人いた。
校門の脇の方には机と椅子があり、どうやらそこで受付をしているようで、今も2人が座って何かを記入していた。
(あれが勇者御一行の馬車かな?……挨拶か何かで時間掛かってるみたいだし、今のうちに俺も受付を済ませて中に入るか)
すぐに受付を済ませて、門の中に入る前に馬車から降りてきた一行を見ると、やはり予想通りにこの世界では浮いてしまう服装をしてる者がいた。
(……この世界では複数人のグループ召喚か)
迅は少し厄介そうだと思いつつ門の中に入っていった。
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