7話 閤昊外組偽さん②~マニア城の新しい入居者さん~
「今度迷惑行為したら退去って話し、聞いてますよね」
「申し訳ありません……外組偽さんもあやまって下さい!」
事務室で、対面に座っている女性が苛立った様子で言うと、西洋の兜をフルフェイスでかぶったスーツ姿の男が謝っている。
兜の見た目はいかついが、声はおとなしく真面目そうな人物である。
隣には、武闘大会に出場した閤昊外組偽がぼけーっと腑抜けた表情で座っている。
「儂、なんかしたかのぉ?」
イラッ!というオノマトペが室内を埋めた気がする……。
「うちは、普通の認知症の施設なんです、入居者も高レベルの元冒険者さまもいらっしゃいますが、さすがにマニア様を管理できることはもう出来ません……うぅっ……」
「はい……」
武闘大会は結局、途中で中止となった。
というのも、外組偽は正式に参加したわけではなかったらしいのだ、大会側は飛び入り参加者と勘違いしていたが、実は不手際で、認知症の施設から徘徊し抜け出していた行方不明の老人が勝手に参加してしまっただけだったのだ。
泣き出しながら訴えるこの女性は、ウエストロッドにある老人ホームのスタッフで、格闘マニアとして、この世界で最強の格闘家、閤昊外組偽を保護管理する能力が及ばずついには音を上げてしまったのだ……。
そう、最強の格闘家も老化には勝てず、認知症になってしまったのだった!
「うちのスタッフの中にも、力自慢の若い男性スタッフはいますが、誰一人外組偽さんが暴れた時押さえつけることが出来ず、怖くてみんなやめていってしまいます……」
「本当に申し訳ありません……」
しかし、最強故にその力が暴走した時にセーブする相手がこの世にはいなかった。
「しかも、今回は幼い女の子を巻き込むことになってしまうなんて……あなた、怪我はなかったの……?」
「わたしなら大丈夫だったよ、おじいちゃんも手加減してくれていたみたいだし、半分は血鬼移さんが防いでくれたしね!」
心配そうに話しかける女性に、姫奏はけろっとしていて、腕をぐっと畳んだ仕草で元気アピールして女性を励ました。
西洋風の兜の男は、艦愈血鬼移という名でマニア城の住人であり、ウエストロッドの市役所に務めており、女性が働く老人ホームに入居を進めた本人でキーパーソン的役割で訪れていた。
「まさか、姫奏さんが今日の大会に参加していたとは驚きました。けど、あの技……外組偽さん! 私は同じマニアとして怒ってますよ! 姫奏さんはお強いですが、まだjob職にもついてない子供です! そんな少女に魔技を使うなんて、取り返しのつかない事態になっていてもおかしくなかったのですよ!」
「まさか、マニア城の姫様じゃったとはのぉ……」
(あの技、余波でも岩を削るくらいえげつない技なんじゃが……、無事とかしゅごい……まさか……)
「わたし名前が姫奏だけどお姫様じゃないよ?」
「いや……お主は姫様じゃ……儂の……姫様じゃ……」
「外組偽さ~ん、色ボケはやめてくださいね~」
ただならぬ雰囲気で姫奏を見つめる老人に呆れ気味に声をかける血鬼移であった。
「とにかく、外組偽さんはもうウチでは見れません」
「う~ん……困ったなぁ……」
身寄りの居ない外組偽の引取先をどうするのか、次の入居先をどうするのか大人たちが悩み唸っていると、姫奏が言う。
「おじいちゃん行くとこないなら、うちに来ればいいんじゃないの? ふくべぇさんならどうにかしてくれるよ!」
「おお、けてマニアがいる館か、儂も行ってみたいぞ!」
「外組偽さん、目が輝いてますけど……確かにけてマニアならば、外組偽さんと唯一まともに相手ができるかもしれないですが、彼が居ない時どうすれば……」
戦える相手がいると聞けば、急に意識がシャキッとしだすバトルジャンキー爺さん。
「わたしなら一日中いるから、おじいちゃんの相手できるよ!」
「おお! やはりあなた様は姫様じゃ……」
更に目が輝く爺さん。その色は少しピンク色をしていた。
「外組偽さ~ん、色ボケしたら、ウチでも即退去ですからね~……はぁ……もうそれしか無いのか……気が重いなぁ……」
他にもう選択肢もなく、半ば諦め気味に、外組偽はマニア城に入居することが決まったのであった。
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「今日からこのマニア城に入居することになった、格闘マニアの閤昊外組偽さんです、皆さんよろしくお願いしますね」
けてマニアが、新しいマニア城の入居者を他のマニア達に紹介する。
「ふーん、格闘マニアねー、爺さん食えねーもんはねーのか? ってうわ」
「お主も強そうじゃのぉ……うぇっへっへ……」
「えぇ……」
いきなり絡まれて困惑する美競刃。
炊事班として好き嫌いの有無をすかさず確認する料理人の鑑だ。
「外組偽さんは、強そうな人を見かければ誰かれ構わず挑んでしまい……それが迷惑行為としてこれまでの施設を転々と渡ってこられました、迷惑をかけると思いますが、すみません……!」
血鬼移が申し訳なさげに謝るが、周りのマニア達は「それがマニアってもんだし仕方ないよー」と言った具合で特段に嫌な顔はせず受け入れている様子である。
特殊なマニアというと、世間の風当たりは冷たく、心当たりがある人物もそれなりにいるみたいだ。
「わたしはおじいちゃん好きだよ」
「姫奏さんもよくなつかれている様子ですね、よかったです」
「そうですね……」
(これで、認知の進行が抑えられるならいいのかもしれないですね……)
祖父と孫が仲良く戯れているようで、他のマニア達も微笑ましく和んだ。
外組偽も、格闘をしている間は比較的冴えていて、連れてきた血鬼移も一安心で見ていた。
この世界の平均寿命は比較的若いので、認知症への対応はあまり進んでいないが、血鬼移は世間から浮いている印象の強いマニアという人種を少しでも社会から孤立しないよう、認知症になってしまったマニアの外組偽を通じて、地域社会を結ぶ架け橋になれればと努力していた。
「儂も姫様の事が好きじゃ!」
「外組偽さん! 色ボケ案件は即退去ですよ!」
「このじいさん、ボケているのかマジなのかわからんな……」
血鬼移の苦悩は続く。
※この世界の認知症と現実の認知症の認識はかなり違います。
わかりやすい造語を作っていつか差し替えるかもしれません。