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3話 茎放美競刃さん②

 マニア城の入り口まで来た所で美競刃が思い出したように言う。


「俺はもう少し夜の店回ってくるから、お前は先に家に帰って、みんなに今夜は適当に食べててくれって伝えてきてくれないか?」


「夜の店?」


「ああ、子供はもう外出禁止の時間だろ? だから絶対ついてくるなよ」


「エッチな店に行こうとしてるの?」


「違う!!」


 姫奏を家に置いて、素早く町に戻ると、先程の野菜の露天商を探す。


「……チェイスウォーク!!」


 美競刃のjob職業は暗殺者(アサシン)、チェイスウォークは、暗殺者のjobスキルの一つであり、人を追跡するのに使われる。

 美競刃の気配が消え、捜し求めている人物の居所を突き止める。

 どうやらまだ国内にいるようだ。


(あの野菜……禁止農薬で漬けられた違法野菜だった……それも飛び抜けて危険な!)


 暗殺者のjobは毒を扱うスキルを多く所有しており、料理を通して生活毒物にやたらと詳しくなっていたのだった。


(アイツの言う通り、やっぱ俺って料理マニアなのかもしれん……)


 違法農薬:ケルダリン、殺菌剤・防菌剤として使われる農薬で、野菜の外観を新鮮に保つ効果があるとし開発されたが、動物実験の段階でその毒性は発見された。

 投与されたラットの胚・胎児に異常な細胞分裂が発生し、その全てが奇形となる。

 母体機能にも影響を及ぼし、妊娠中の突然死、出産後の致死率は90%であった。


 この危険農薬は即座に製造を中止し、10年前違法毒物として厳格にその全てが破棄されたはずだった。


(あの親父、産地を言うのを渋っていたが噂で聞いたことがある、イーストエッグのある工場で、この農薬の副作用を利用し、奇形児を大量に作り蒐集家に販売していると!)


 この世界の裏の部分を煮詰めたような国、イーストエッグ。

 4大陸で一番小さな大陸で、イーストエッグ島とも呼ばれている、狭い国内に、文化が集約した事で、この世界最大の発展を遂げるとともに、情報の発信地として、この国には夢見る若者や他国から多くの人種が集う。

 人の坩堝は何者の流入も拒まない代わりに浮浪者や犯罪者も多く、危険なドラッグの密売や殺人窃盗強姦など凶悪犯罪事件が後を絶たない。

「まだ幼い姫奏をこんな国に近づける訳にはいかない」と美競刃は思った。


 追跡を続けていくと、野菜露天商の親父が転送屋から国外へ移動しようとしているのを見つけた。

 転送屋とは、この世界の移動手段の一つである聖職者のjobスキルワーリングフレームを用いて登録された移動地点へ人々を転送すること。


 野菜商人の後を追い、ワーリングフレームの中に入ると、そこはもう異国の地。

 時差はそれほど無いが、肌で感じる湿度差、夜風の清浄さをもってしても流しきれない淀んだ空気。


(ここは、相変わらず変わらないな……)


 闇色に包み込まれた空、今すぐにでも雨が降ってきそうだった。

 夜色の密度が増すにつれて煌々しく眩しいネオンは、行き交う人々の影を消していく。

 この街は、昼間より夜の方が明るいのだ。


(チェイスウォークは影のある場所でしか使えない制限がある、仕方ない……)


 チェイスウォークのスキルを解除し、人々に溶け込みながら移動しよう、とした時。


「美競刃みつけたー、イーストエッグって凄いね、こんな大きな建物とか、光る看板とか、初めて見たよー」


 何故か、マニア城に置いてきたはずの、姫奏がいた。


「……なぜいる」


「わたしもイーストエッグに来たかったんだもん!」


「観光に来たんじゃねーよ!」


(くっ……、どうする? このまま奴を逃すわけにはいかないし)


 深い溜め息を履きながら、頭を抱え、姫奏の身を考え、追跡をやめて連れて帰るか、天秤にかけるが、ここまで自分に気づかれずに着いてこれた事をふと思う。


「そういえば、お前ずっとついて来てたのか? チェイスウォークも使わずに……尾行なんてどこで覚えたんだ?」


「マニア城の皆で、隠れんぼとかして遊んでたときかな? けどわたしが隠れたら誰も見つけてくれないの」


「なるほどね、うちの連中相手にそれなら大丈夫か……、そのとき便(ベン)さんもいたんだろ?」


「うん!」


「よし……、着いてこい。けどここは危険な街なんだ、やばくなったらすぐ連れて帰るからな」


「はーい♪」


 迷路のような路地裏を二人で行く。

 野菜露天商の親父は時折周囲を気にしているが、二人の追跡には気がついていない様子だ。


「そう言えばね、イーストエッグの名物のブラッドコーラ飲んでみたいな」


「なんだよその気持ち悪い名前のコーラ、お前って結構変な飲み物好きだよな」


 その名の通り、血のように赤い色をした強炭酸飲料で、冒険者に馴染みのポーションより元気になれるとかなれないとか、その赤色は一体何を入れて出した色なのか、製法が全くわからない謎の飲み物、それがイーストエッグ名物ブラッドコーラ、お求めはファーストフード店で!


「えへへ、ありがとうー、お口の中真っ赤になっちゃった♪」


 緊張の追跡のはずが、姫奏のお陰ですっかり観光になってしまった。


「……ここか」


 やがて行き着いた先、そこはビルの谷間のゴミ捨て場であった。

 男は、ゴミを漁るようにしてゴミ袋をいくつか避けると、そこには地下へ続く秘密の入り口が隠されてあり周囲を警戒し、入っていった。


「よし……、ここからは流石にスキルが無いと無理だ、お前はここで待機してろ」


「うん」


 再びチェイスウォークを発動し、野菜商人が入っていった地下通路を降りていく美競刃。

 奥へ進んでいくに連れて、ゴミ捨て場の匂いから、薄っすらと漂い始めた鉄錆の異臭。

 背筋にゾッとする寒気が襲う、入り口にゴミ捨て場を選んだ理由は、この匂いを隠すためだったのだ。


(く――っ、この街は、どうなってやがるんだっ!)


 薄汚れた地下のオフィスフロアの室内、そこには一面胎児の異形死体がビニールシートの上に乱雑に並べられていた。


 喉の奥から酸っぱいものが込み上げてくるのを耐えながら、美競刃は野菜商人が誰かと話し始めるのを見た。

 物陰に隠れ、片膝を立てた状態でしゃがみ込み男の会話を聞く。


(……電話か?)


「ええ、ええ、球体関節の女児、あります、まだ新鮮ですよ、いや、死んでます、え? 生きているの? いやぁ、だいたいすぐ死んでしまいますんで、生きてる状態では……、あ! 今日もしかしたら生まれるのがあるんで、あ、はい、わかりました、なんとか頑張ってみますわ、はい」


(今日生まれる……だと? まだここに生きている人間がいるのか?)


 およそ同じ人間と思えない残虐で非道な行為が今もなお続けられている。

 吐き気を催す血生臭さのなか、眉間に皺を寄せ、怒りで今すぐにでも男を締め上げたい衝動にかられながら、グッと手の甲に力を込める、男が通話をやめた瞬間飛びかかろうとして。


「じゃあ、新しい苗床が見つかればまた送って下さい~、でわぁ……。……ひぃふぅ……、忙しくなってくるなぁ……」


(いまだっ――!)

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