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12話 艦愈血鬼移さん②  船着場幽霊事件

「朝だ、朝だ朝ごはんは、ぱんぱかぱ~ん♪ あっ!」


 夜が明けた港のある小さな村、潮風の匂いを含んだ朝霧が立ち込める中からパンを頬張り何とも調子外れな歌と共にやって来た少女、冒険者ギルドの依頼を受けて来たのだろう、まだ事情も全く掴めていない様子で、視線の先に見知った男を見つけ大声で呼びかける。


「けっきーさんだぁ!」


 こちらは昨夜から神経を張り詰めていたところ、脳天気な大声で名前を呼ばれビクッと肩が跳ねるくらいびっくりして飛び上がる。ざっと、手近な家の壁を背に身構えるが、少女の姿を見てほへっと気が抜け、胸をなでおろした。


「っ……と、なんだ、姫奏さんじゃないですか……驚かせないで下さい」


「ごめんなさい……血鬼移さんもギルドの依頼できたの?」


 朝ごはんも途中なところを見ると、茎放美競刃から嫌いなおかずでも出され逃げ出して来たのだろう、など勘ぐりながら、姫奏の今日の装備を見ると、危険な調査とは全く思ってい無さそうな、虫捕りに来た園児みたいな軽装である。


「僕は、役所の仕事として来ましたよ。姫奏さんもこの村の妙な事件を調べに来られたのですか?」


「お化けが出るって聞いて、面白そうだから、けど朝だと出ないのかな?」


「お化け……は、どうでしょうね、一応妙な出来事の原因は突き止めたのですが、おっかないお兄さん方が周りを固めていて……」


「そういうことなら、わたしが付いて行ってあげるよ?」


「いえ……さすがに……いや」


(姫奏さんなら、村の子供と思われて警戒されずに済むかもしれない、それにあの倉庫の中に捕らわれているかもしれない子供、僕が救出に行ったらまた怖がられてしまうかも……)


「手を貸して頂けますか?」


「任せといてよ! わたしで良ければいつでも手を貸すよ!」


 頼もしく、そう宣言し、姫奏を加えて再び例の倉庫へと引き返していく。

 暇そうな親子?が虫取り遊びでもしている風に近づけば相手もそれ程警戒しないだろう。

 倉庫に向かいながら、一日掛けて地道に聞き込みをし調べた成果を姫奏にも伝えておく。


「この村で起きている妙な出来事……、恐らく人の目に見えない“何か”の仕返しだと思われます。その仲間がこれから行く場所に閉じ込められているようで、助けを求め泣き叫ぶ声に、小さな子供が無意識に感応して怖い夢をみてしまう、だと思われます」


「なるほどね、さすが血鬼移さんだよね、そこまで調べ終わってるなんて凄い」


 姫奏に褒められて、自慢げに笑ったと思えばぐったり肩を落とし情けない声をだす。


「ふふふ、そうでしょう? ほんと、大変だったんですよー……子供に怯えられ泣かれてしまって……」


 しかしすぐに真面目な声に戻し。


「あの倉庫の中から聞こえたのです、『助けて』とちっぽけな声がいくつも……。さぞ怖い思いをしているのでしょう……彼等を救出することが我々のミッションとなります」


 マニア城ではあまり見ることがない真剣な血鬼移の姿に、黙って頷く。

 港に近づくに連れ、空気に混じる海の匂いが濃くなる。濃い霧に包まれながら、船着き場を通り過ぎ、倉庫の建ち並ぶ一角へ。

 先ほどとは異なり、今度は裏手から近づくことにした。


「先程ここに近づいたときは、すぐに物騒な連中に囲まれたのですが、今は大丈夫そうですね、こっそり開けて忍び込みましょうか?」


 倉庫には一度に人が通れる程度のドアが一つ、今は見張りの姿は見えないが、扉には小さな覗き窓がついている、外に誰が来るかはすぐわかるだろう。


「わたしが囮になるよ、子供だから相手の人は油断するだろうし、その間に血鬼移さんがパーってやっちゃうのは?」


 そう提案する姫奏に対して。


「僕も、そう思ったのですが、やはり今になって姫奏さんを危険に晒すのは、どうなのかと、迷いが……」


 元々の気の弱い性格からか、土壇場で気の迷いを見せる、見た目だけは屈強な騎士。


「ええっ……大丈夫だよ、最近外組偽さんと組手したりして鍛えてるから!」


「は、はい……。何かあったらすぐに行きますから、姫奏さんの腕を見込んでお任せします。この中に囚われている方を救いたい、お願いします!」


「任せて! じゃ、いってくるねー!」


 姫奏が、タタタ……と軽快に扉に近づいていく姿を見送る。

 すると、すぐに覗き窓の向こうから人の気配がし、更に近づけばガタンと、扉が開いて人相の悪い屈強な男が二人現れた。


(う、さっきの怖い人達だ……姫奏さん大丈夫かな?)


 しかし、血鬼移の心配から予想打にしない反応を見せつける男たち。


「どうしたのかなぁ、お嬢ちゃん、何かご用かな?」


「この辺りはお化けが出るんだよ、早くおうちに帰らないと、連れて行かれちゃうぞぉー」


 なんだか、子供扱い、というよりは、鼻の下を伸ばしながら相手をしている風に見える。

 こういう辺境の地では、女に飢えている男が多いと聞くが、まさか幼女相手にそれはないだろうと自らの常識的価値観と照らし合わせ見守る血鬼移であった。


「わたしも、そのお化けが気になって来たんだよ、最近そのお化けが助けを求めているって、おじさん知ってる?」


 上目遣いで普通に尋ねる姫奏だが、相手はデレデレと頬をほころばせながら受け答えしている。


「そーっかぁ、お化けは怖いよぉ? この辺りは出るかもねぇー」


「てゆうか、それはお化けじゃなくて……げふっ!?」


「こらっ! そうだ、お嬢ちゃん、お化けならこの中に出るかもしれないし、入ってみないかい?」


 何か口を滑らせかけた男を裏拳で口止めし、もう一人の男が姫奏の腕を掴んで倉庫に連れ去ろうと身を乗り出し、手を伸ばした瞬間――。


「な……に……?」


 その腕を払われ、体勢が崩れると、そのまま脳を揺さぶる衝撃を与えられ、気絶する。

 男にとっては何が起きたのかわからないまま地に伏せることになったであろう。


「あれは外組偽さんの……、凄いね……崩龍をマスターしちゃったんだ……」


「うん、早く中に行こっ!」


 見張りの二人は気絶、その間に新手が来る前に侵入する。

 そこは、小さな細長い部屋、恐らくは見張りの控え室、その奥にもう一つ扉があり開けてみると、その先は倉庫まるごと使った巨大な空間が広がっていた。

 漆喰とタールで隙間は完全に埋め尽くされ光は一切漏れない暗黒の空間……ではあるが、倉庫内は明るかった。

 天井から、巨大な鳥カゴがぶら下がっていて、その中で、何かが小さな太陽のごとく光を放っており、倉庫を照らしていたからだ。

 そして、床一面には植木鉢が並んでいて、破れた傘のような円心系で、荒いギザギザの縁いわゆる重鋸歯の形をした奇妙な植物が植えられていた。


「血鬼移さん……! あの鳥カゴの中、妖精が閉じ込められているよ!」


 鳥カゴの中で発光するモノの正体、それはこの世界でも珍しい妖精、それも子供のようで、『お母さん、助けて!』『怖いよ』『帰りたいよ!』と泣き叫んでいた。だが、その声は、人間の耳には届くことはない。


 低い声で唸り、ギリッと歯を食いしばる血鬼移。


(村の子供たちが聞いたのは、この声だったんだ、聴覚に頼らず心で感じなければあの声は聞こえない!)


「あの鳥カゴ、どうやら普通の鳥カゴじゃ無さそうですね、妖精が逃げ出せないように呪術がかけられているみたいです!」


 目の前の光景に呆気にとられて呆然と立ち尽くしていると、植物の世話をしていた男たちが武器を持って集まってきた、その数は6人。武器の形状は短い反りのある刃の剣、カトラスだ。


「この人達、この草を育てるためだけに、あの子達を閉じ込めていたの……? 許せない!」


「はい……! しかも、この草は国内で栽培が禁止にされている植物のようですね……だから、こんな人目の付かない場所でひっそり育てていたのでしょう」


 煙草のように吸うと、夢心地になって一度吸えば魂まで差し出すようになるまで堕ちる、要するに麻薬。


「見られたからには生かしちゃおけねーな! 死んでもらうぜ!」


 4人が血鬼移に、2人が姫奏に向かってくる。

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