10話 姫奏の日常②~巨大牛討伐~
ギルドで依頼を受けて、剣も新品の様に磨き上げられ準備万端!
「天気もいいし、今日は絶好の牛日和だね♪」
雲一つない青空を見上げ、ピクニックにでも出かけるように元気よく走り続け、そのまま町外れへと向かえば、石造りの町並みは後ろへと消え、周りは木々や草花に囲まれた森へと変わっていった。
「ふふ~ん♪ うっしさん♪ うっしさん♪ どこかな~♪」
鼻歌交じりで、目撃現場へと近づくと、依頼票に記された目印の巨木があり、流石に歌うのを止めて、真剣な表情で辺りをうかがう。
(……大きな獣の気配がする)
蒼い双眸を薄暗い森の奥へ向けると、ただならぬ雰囲気を感じ、緊張を示すように猫耳風のリボンがピンと立ち上がる。
腰に下げた剣を引き抜いて武器を構える。
その途端気配の主が茂みの奥からバキバキと木の枝を踏み倒し突撃してきた。
その気迫と音に、びっくりして一瞬毛が逆立つ。
「え……っ!? 嘘っ、こんな大きいの!?」
少し前かがみに油断なく構えていた姫奏の前に現れたのは、家畜として飼育されている牛というより古代竜のトリケラトプスに近かった。
鼻息荒く瞳をぎらつかせ、姫奏を確実にロックオンしている様子で、どうやら今日のワンピースがマタドールが扱う赤いマントの様にひらひらしていて、余計に牛の興奮を煽っているようだ。
「ブゴォォォォォォォ!!!!」
「これは、ちょっと大変かも……ッ!!」
突進してくる牛を、飛び越え身体を一回転させ躱すと、目印として立っていた大木に激突し薙ぎ倒す。
ズシンと大きな音が響き、土煙が上がる。
しかし、背後を取れた今がチャンスと武器を握りしめ迷わず急所を狙い猛牛へ立ち向かう。
「いけぇっ!」
首筋から頭蓋に衝撃を与える、「フゴッッ!?」牛は唸り声を発し、一瞬よろめいたが地面を叩くように蹴り、再び姫奏に狙いを定め突進を仕掛けてくるのだった。
「!? っとぉ……、大きすぎて一撃じゃ仕留められない?」
痛みに猛り、さらに凶暴な暴れ牛と化してしまった。
こうなってはもう退くことは出来ない、後ろを見せればその鋭い角でひと思いに貫かれることだろう。
「外組偽さんの技……試してみようかな」
ここ暫くずっと一緒に行動を共にしていた武闘家の老人、閤昊外組偽。
彼の技はjobスキルと体術を織り交ぜた魔技と呼ばれる応用技だが、スキルをまだ使えない姫奏でも使える技がいくつかある、といっても理論上では……だが。
剣を鞘に戻し、少し足を広げ、腰を深く落とし、全身に“気”を張り巡らせる。
巨躯が眼前まで迫るが、技が届くギリギリまで待ち構え――放つ!
「ギャゥゥゥゥゥ!?!?」
その瞬間、ズドン! と周りの木々も揺らす程の轟音が響き、凶暴化した牛が涎を垂らしながら悶絶し倒れる。
姫奏の技は成功し、打ち込まれた拳は牛の脳天に突き刺さったのだ。
「やったぁ! わたしも崩龍できたぁ!」
武術大会で姫奏相手に防御技として見せていた崩龍の本来の使い方はカウンターであり、攻撃を拾いに行き、威力が最大になる前に強制的に崩し、バランスを崩し抜けた威力を自らの力に加算して返す。
その結果、腕力のない姫奏でも強靭な肉体をもつ猛獣に有効打となった。
「牛さん連れて帰りたいけど……重いっ……あとはギルドの人呼んで終わりにしようかな?」
引っ張ってみようにも流石に巨大過ぎて子供の力ではびくともせず、仕方なく携帯で冒険者ギルドに討伐成功の報告をし、ギルド員を呼ぶ。
その間、育成マニアの性で、何故ここまで大きく成長したのかじっくりと研究するのであった。
その後巨大牛は、ギルドに引き取られ、しばらくはウエストロッドの冒険者ギルドの食堂では牛料理が並ぶこととなったとか。
討伐者の証とし、巨大牛の角を嬉しそうに受け取る、その姿を食堂の隅のテーブル席で酒を飲みながら恨めしく見つめる目線。
(ミノ牛の角いいなぁ……)
剣術大会で今までずっとチャンピオンだったアステスは、あの日から角が折れた兜をそのままかぶり、子供に負けて以来落ちぶれて酒浸りな自堕落な生活を送ってしまっていた。
ミノタウロスは品種の名前だった。
「あ、あの時の!」
「うっ」
その視線を感じたのか、姫奏がアステスを見つけると、自分の体格以上に巨大な角を重たそうに抱えてやって来て、ゆっくりと迫ってくる姫奏にそわそわとしだすアステス、角で顔が隠れてしまうが、そのまま構わず声をかけてくる。
「この角、おじさんにあげるね、あの角、凄い大切にしてた物みたいだったのに、壊しちゃったし」
「いいの!? いや、しかし……」
勝手に対抗意識を燃やしていた姫奏の、思わぬサプライズに、戸惑い受け取っていいものか戸惑っていると……。
「もぉ、重たいから早くもらって! 落としちゃう!」
「あっ、はい! ありがとうございます! うけとります!」
半ば強制的に差し出され、新しいミノタウロスの角をひょいと持ち上げると、失った相棒が戻ってきたような気分で顔をほころばせて感謝するアステスであった。
「あー、軽くなった♪ じゃ、今度の大会でまた戦おうね! ばいばーい」
笑顔で手を振り去っていく姫奏を見送る、その場にいた別の冒険者がアステスに「よかったな!」とか「次は負けられないな!」など茶々を入れられるが当の本人はそれどころでなかった。
(女の子からプレゼントなんて生まれて始めてもらったよぉ、ほれてまうやろ~)
こうして知らないうちにファンを増やしてしまう姫奏さんであった……。




