9話 姫奏の日常①~ウエストロッドの表通り~
雲ひとつない晴れ渡った昼下がりのウエストロッド。
この国にも、託児所や幼稚園の様な施設はあり、親が働きに出ている間子供たちはそこで過ごすのが一般的だが、姫奏はいつも一人でマニア城の中で遊んだり、町中で珍しいものを捜したりして過ごしていた。
基本的に町の外へ出るには大人と同伴しなければならないので、亡魔獣狩りは行えないが、町の中でも結構仕事の手伝いを求める声は多く集まる。
そんな雑多な仕事の依頼を斡旋する場所、冒険者ギルドに今日は来ていた。
「今日は面白そうな依頼はいってないかなー」
ちなみに今日の姫奏の服装は、ふわふわのフリルがついたカチューシャに猫耳のような赤い大きなリボンが頭の上でピンと伸びていて、同じ白色のフリルがついたピンクのワンピース姿。
同居しているマニアの中に、手作り衣装を作るのが趣味のマニアがいて、唯一の女の子である姫奏は格好の試着相手にされている、専ら本人も気に入っているみたいでWin-Winである。
「薬草探しはこの前やったし、どれにしようかな~」
昼間は、食堂もやっていてそれなりの多くの人で賑わっている、厳つい冒険者にまぎれて、赤いリボンをピコピコ揺らしながら依頼を吟味する姿は目立つが、この辺に立ち寄る者にとっても見慣れた姿で戦いに疲れた大人達の癒やしとなっているとかいないとか。
「あ、これなら一人で出来るかも! マスター、これにするね」
依頼票をもって、お菓子でも買うようにギルドのカウンターにいるマスターに差し出す。
そこには『巨大化獰猛牛、討伐依頼』と物騒なことが書かれていた。亡魔獣とは違い、町の中で養殖していた牛が何らかの突然変異で巨大化してしまったらしく暴れているそうだ。
「姫奏ちゃん、大丈夫かい? 結構でかいぞ~」
苦笑いを浮かべながらそう言うと。
「大丈夫! それに育成マニアとして、牛さんがどうして大きくなっちゃったのか調べないといけないからねっ!」
そう、鼻息荒く答えると、「しゃうがねぇなぁ」といった感じで依頼受理のハンコを押してもらい、お礼を言って「いってきまーす!」と元気にマスターに手を振ってギルドを後にする。その姿はその場にいた冒険者も見ていて、皆から見送られる。
ギルドを飛び出した後、能天気に適当な歌を歌いながら歩いていく。
「うしさん♪ うしさん♪ 笑い声もうっしっし♪」
ご機嫌な足取りで町のメインストリートを進めば、賑やかな商店街に近づく。
「そうだ、ソラノさんのところに寄っていこー」
その奥の、主要施設から外れた一角にある小さな建物へ向かう。
そこで、剣術大会のとき使用した剣の研ぎ直しを頼んでいたのだ、緩い階段を上り、辿り着いた一軒家には、『鍛冶屋SORANO』という看板が軒に申し訳程度に掛けられていた。
ここは、高台の区画の端に立てられていて、午後の日当たりは良く、居住地としてならば立地の良い場所だが、客商売には如何せん不向きな場所、しかも鉄火場にスペースを取られてしまい、一際狭くなった店内で、ため息を吐いて客を待つ鍛冶師の女性がいた。
「こんにちは~、武器できてますか?」
「姫奏ちゃんかい、ああ、できてるよ、ちょっと待ってな」
カウンター奥に注文していた武器を取りに立ち上がる、動きに合わせて揺れる首の後で一纏めにした黒髪を見送る。
武器を持ってきて、ドンと台の上に武器を置く。
「姫奏ちゃんは今日も可愛いねー……」
おしゃれに着飾り訪れた金髪の少女と自身を見比べれば、黒髪に、飾り気のないブラウスと作業ズボン姿に目を落とし、またため息が一つ溢れる。
どこかに嫁に行ければ、こんな苦労も無かっただろうが、貰い手がつくはずもないと自重する。
「どうしたの? ため息ばかりついて、ため息を吐くと幸せが逃げるんだよ」
「ふっ……、果たしてどうだろうか、逃げたから吐くのではないだろうか……」
「?」
「そんなこと、卵が先か、鶏が先かといった無意味なことさ……、いや……ね、余りにも客が来なくて、退屈していてね……」
ウエストロッドの主要部で需要が高いはずの鍛冶屋だが、危険を冒して亡魔獣狩りをするよりは内政で働くほうが人気があるようで、年々客足は遠のき、今では閑古鳥が鳴いていた。
狭い店内を見渡せば、慎ましやかに飾られた武具の数々も薄利しか生まず、現状の売上の9割は大手への卸で買い叩かれている状態。
「場所も悪いのだろうか……」
「わたしはここの店好きだけどね、景色もいいし、ソラノさんのファンの人もちゃんといるから大丈夫だよ」
「それは私のファンなのだろうか、先代からの常連が顔を出してくれているだけでは……いや、そうかもしれないな、頑張るよ」
(こんな二回り近く年下の少女に人生相談し励まされるとは、自堕落無気力のままではいかんな……)
「うん、美競刃が、ソラノさんはおじさんよりセンスがいいって褒めてたよ」
「ほんとかい? 刀剣マニアに認められたら少しいい方向に向かえる気がするよ」
「うん! ソラノさんの剣で今から悪い牛さん退治にいってくるからね! ほんと凄い仕上がりだよね、いつもありがとうございます!」
実際には、子供用のおもちゃの剣ではあるが、見事に磨き上げられ、白刃の刃が輝き姫奏の顔を照らす。
「気をつけていってらっしゃい、亡魔獣じゃなくても、危ないと思ったら深追いしたらだめよ」
ギルドの依頼に行くと聞いて、親のように優しげな言葉を渡す。
「はぁい、気をつけるね、ありがとう! じゃあ、いってきま~す♪」
姫奏は赤いリボンをぴょこぴょこさせながら、元気よく手を振り回し、お店を飛び出していった。
「先代の分まで、私も頑張らないとな……」
気を改めやる気を出していると、居住スペースからおやっさんがヌッと現れてツッコミを入れる。
「俺が死んだみたいに言うなよ……」
親子で切り盛りしている、鍛冶屋SOLANOは今日も潰れず客を待っています。
ということで、この町には腕のいい鍛冶屋の店があるという話。
外伝の、スギボウの大冒険ではおやっさんしか出なかったのですが、男女比が偏っているのでお姉さんを急ごしらえで追加してしまいました、結構行き当たりばったりな追加キャラなので、今後どうなるか怖いです。




