1話 剣術大会
「さぁ――――!! いよいよ決勝戦を始めます!! 不敗の剣王アステスに挑むのは、大会始まって以来の最年少、job職にもついてない5歳の少女、八祇間姫奏選手です!!」
アナウンサーが今大会決勝戦の選手達を呼ぶと、会場は一気に熱を帯び始めた。
現れたのは、無骨な戦士が集う闘技場の舞台に不相応な幼い少女、腰まで伸びた長くウェーブした金髪に、子供用の簡素な銀色の鎧を着け、下は動きやすさを重視した短いスカート姿、どう見ても幼稚園のお遊戯会レベルの軽装。
対するは、大会開始以来負け知らず、挑むもの全てを加減知らずの怪力で、確実に病院送りにし、剣王とまで呼ばれ、ミノタウロスの角を兜に着けた頑強な鎧を纏う筋骨隆々の大男。
会場に来ていた観客たちは、普段は野次馬で挑戦者には罵声を投げる専門だったが、可愛らしい少女の登場に和み姫奏に対する声援とチャンピオンに対しては「加減してやれよ!」といった、馴れ合いムードになっていた。
だが、アナウンサーの男が、姫奏について語り始めると会場にはどよめきの声が起こり始める。
「怒涛の勢いで勝ち進んできた姫奏選手ですが、強いわけです! 彼女はあのマニア城で生まれ育ち、彼女もまた育成マニアとして自ら剣術を磨き上げた生粋のマニア少女なのです――!!」
「うそだろ……」「あのけてマニアの……強いわけだ」「これチャンピオン応援したほうがいいんじゃねーか?」
注目を浴びる少女を面白くない表情で睨みつける剣王アステス。
(俺は、剣修練を限界まで上げている、多少腕に自身があるようだが、所詮はjob職にもついてない素人、剣で俺が負ける訳がないのだ)
そう心で思って、武器を構える、それは並の人間ならば両手で扱う巨大な大剣だが、男は軽々と片手に構えている。
「ぐふぅ、これまたちっこい娘っ子が来たもんだ……、すぐに壊れちまいそうだな……」
対する姫奏も、鞘から銀色の剣を抜き構える。
「わたしは、そう簡単に負けないよ!」
短めのスカートに、白い太股をだし幼い少女がいっちょまえに見せる気丈で可愛らしい姿。
その顔をよく見ると、双眸の色が僅かに違うことに気がつく、“蒼と碧”と表す程度の一見して違いがわからない程ではあるのだが、まだ幼女でありながら、彼女の強く美しい銀河の様な瞳の輝きに、観客たちはもうメロメロになっていた。
だが同じ舞台に立っている剣王には別の感情が湧いていく。
(一発殴ってはいオシマイ。あとは……)
「果たして今大会勝者はアステス選手か!! 姫奏選手か!! 決勝戦始めーーーっ!!」
司会者の開始の合図と同時に、アステスの肩の筋肉が大きく躍動し、巨大な剣をもった腕が振り上げられた、かなりの重量があるはずだがナイフを扱うように軽々と持ち上げ、まずは小手調べ――と言った具合に直接姫奏に切りつけず、直ぐ側に叩きつける形で、振り落とされた。
「うわっ――! 凄い力だね!」
間近に振り落とされた剣を、身軽な身体でくるりと後ろに宙返りして、その場を離れ避ける。
その際に短いスカートがめくれ男性観客のファンを作り出していた事など、まだ幼い姫奏は気づかず、地面に足がつけば、素早くタタタと駆け出し、そのすばしっこい動きで相手を撹乱しつつ、鋭い剣でアステスの胴体に一撃を入れる。
「ぐぉっ? ちびガキは、さすがにすばしっこいな……」
分厚い鎧に、少女の一撃は軽くそれ程のダメージを与えることはなかったが、フェイクの攻撃だったとはいえ、手加減なしの地面への衝撃は普通の人間相手ならば衝撃で竦み上がり隙を生じさせるという算段だったのが、それを軽々と避けられ、攻撃に転じる様は、今まで対決したどの戦士より手強い相手かもしれないと焦り始める。
「力任せの剣術じゃ、わたしを捕らえられないよ」
「おっ、このっ! いでっ! こ、こいつ……」
一度捕まえてしまえばこっちのものと、腕を振るうが、姫奏の素早い動きに完全に翻弄され、空を切るのみ。
その隙に、弱くも鋭い剣閃は鎧を貫通し厚い皮を切り裂き始め、確実にダメージを蓄積していくのであった。
「俺は、剣修練のレベルが高いんだ! その俺が剣で負けるはずがない!」
「おじさんスキルに頼りすぎ、自分の力で強くならなきゃ! ねっ!」
「ぐ、うぅぅ、お、おのれぇ~~!!」
焦りの色が出始め、アステスの動きが大雑把になってきた時、それを好機と姫奏の一閃が煌めき、アステスの巨大な剣が真っ二つに切れ、ついでにアステス自慢のミノタウロスの角も切り落とされてしまった。
「うわぁぁぁぁ、俺の勲章がーーっ!」
「えへへ、ごめんね♪」
ショックで膝を突いて男泣きするアステスに姫奏が可愛く舌を出して謝ると、今大会の勝者が決まった。
「おおおーーっと、アステス選手戦意喪失で戦闘不能! 勝者姫奏選手ーーーーっ!!!!」
「わーーー! 新チャンピオンの誕生だーー!!」
「わーい! ありがとー! ふくべえさんみてるー?」
勝利にはしゃぐ姿は子供そのもので、大男をあっさり倒してしまった少女にはとても見えなかった。
お読みいただきありがとうございます!
シリーズの軸となる主人公姫奏ちゃん(5歳)のストーリーです。
不定期更新になると思いますが、長く親しんでいただけるような物語にしていきたいと思いますので、よろしくお願いします!