王と謁見
ステータス開示をした部屋から出て、王が待っている謁見の間へ向かう。
その道すがら、教祖様はご機嫌な様子で王我たちに話しかける。
「いやー!あなた様方のステータスは素晴らしいですな!私、この大司祭の職に就かせていただいて、修行期間も含めますと早40年になりますが、このように一度に沢山の恵まれたステータスを拝見するのは初めてですな!さすが、女神キルティカの寵愛を受けたあなた様方ですな!」
王我たちは自分たちのステータスが優れていたため機嫌がいいのか、自然と教祖様と談笑している。
あんなに緊張しきった場面から一転し、笑い声さえ聞こえる。
一方で桃花と俺は少し離れたところを歩いている。一緒についてきた黒ローブたちですら自分たちの前を歩いている。
桃花は不安そうな顔で時々こちらを見ている。
ステータスを開示した時に教祖様の歯切れの悪い説明も相まってか、泣きそうな顔にすら見える。
「どうした?」
桃花は俺の投げかけに肩をビクッと震わせた。
「・・・か、神薙さんは怖くないんですか?」
「怖い?」
「いきなり知らない世界に来て、魔法だのステータスだのよくわからないし。それに、わ、私のステータスの時だけ、すごく歯切れの悪い説明でした。・・・す、すごく怖いです。私は多分ステータスがすごく悪いから、ひ、酷い扱いを受けるんだと思います・・・。」
「そんなこと言ったら俺のステータスの説明なんかなかったぞ。」
「それはそうですけど・・・。」
「それにこれだけの判断材料だけでは、これからどう扱われるのか、どうなっていくのか分からない。そんなことで不安になっていてもしょうがないだろ。」
「・・・そうかもしれませんが・・・。」
少し桃花には厳しい言葉だったかもしれない。
でも、ここで優しい言葉は投げかけてあげることは出来ない。
何も判断する材料がない今、優しい言葉をかけても、もし仮に、今後最悪の展開が待ち受けていた時に、桃花は立ち直れなくなってしまうだろう。
その後しばらく沈黙が続き、1つの大きな扉の前で立ち止まった。
扉の両脇には甲冑を着た兵士が槍を持ち待機している。
教祖様が近づくと、槍を交差し、扉を塞ぐ。
「要件を。」
簡潔に発せられた言葉に、緊張が走る。
「私は、大司祭クラディス・エレバン。召喚者たちを連れてまいりました。王へのお目通りをお願いいたします。」
「予定は聞いている。入れ。」
2人の兵士はそう言うと、扉を開けた。
扉の向こうには豪華絢爛な大広間が広がっていた。
至る所に置かれている調度品は見事なもので揃えられ、天井には眩しいくらいの輝きを放つシャンデリアがいくつも吊り下げられていた。
扉から入って正面には赤い絨毯が敷かれ、王座へと伸びている。
その両脇には、貴族だろうか、華やかな服装の男女が数十人並んでいる。
王座が置かれている小上がりには、椅子が用意されており、王族だろう数人の男女が座っている。
「異世界からの客人よ。よく来た。我が王国キルティカの代表として歓迎しよう。我はビストル・アルバート・キルティカ。第17代キルティカ王だ。」
王座に座っている恰幅の良い立派な髭を生やした男が威厳たっぷりに言った。
「そなたらには悪いと思っている。元いた世界からいきなり呼び出してしまって。元の世界に置いてきた家族や大切な人もいただろう。本当に申し訳ない。この通りだ。許してくれ。」
そういうと、僅かではあるが、頭を下げた。
「王様!あのような者たちに謝る必要などないです!」
横で控えていた男が慌てて止めに入る。
「良いのだ。こちらの都合で勝手に呼び出している。一国の主として、誠意を見せなければならん。」
「ですが・・・。」
「くどい。我が良いと言っておる。」
「仰せのままに・・・。」
周りの貴族からは、流石我が国の王だ、王がこの国にいる限り、我が国は安泰だな、などといった言葉が聞こえてきた。
しかし真桜は見逃さなかった。
周りの貴族が王を褒め称え始めた時、一瞬であったが唇が僅かに上がったのだ。
真桜はこのような人間には幼少の時から何度も見てきた。
そう、真桜を引き取ろうとしてきた大人みたいに、打算でしか物事を考えていない人間の顔であった。
真桜はそれを見た瞬間にこいつは信用してはいけないと悟った。
「異世界の客人たちよ。再度謝ろう。申し訳なかった。こちらの世界に呼んだのは、他でもない。魔王復活の兆候が現れ始めたからだ。」
“魔王”という単語に貴族たち含めて周りがざわつく。
貴族たちも魔王復活の兆候があったなど知らされていなかったのだろう。
「静まれ。まだいつ復活するなどは分かっておらん。我が国が誇る学者たち曰く数年は大丈夫だろうとのことだ。そこで、異世界の客人たちを呼んだのだ。その数年の間に、異世界の客人たちには鍛えてもらい、その魔王を討伐してもらいたいのだ。」
一方的に話され、当の本人たちは呆けている。
それはそうだろう。
いきなり異世界に呼ばれ、魔王を討伐してくれなんか言われても普通の人なら頭がついていかないだろう。
唯一王我だけは、どうせそんなことだろうと分かっていたのか平然としている。
「ちょっと待ってよ!!」
弥園が叫んだ。
「私たちは、そんな魔王とか分けわからない者と戦わされるために呼ばれたってこと!?」
「うむ、そういうことになる。」
「ふざけないでよ!!私たちはこれからどうなるの!?これからお家・・日本には帰るの!?」
「ニホン・・・というのは分からないが、客人たちの世界の呼称なのだろう。異世界へ渡る術は魔王のみが知るという。魔王を討伐した暁には自身の世界へ帰れるだろう。」
「そんな・・・・。」
「異世界の客人には迷惑をかける。それまでの間の家、設備、資金提供は惜しまないつもりだ。大抵の願いなら叶えてやることができるであろう。」
「まぁ・・・とりあえずその魔王って奴を倒せばいいんだろ?」
王我が静かに尋ねる。
「そうだ。魔王を倒せば必ずや帰る術を知ることが出来るだろう。」
「弥園、何もやらなければ、日本に帰れない。とりあえず、やるだけやろう。俺らのステータスはこの世界でも優れているみたいだから大丈夫だ。」
「王我・・・。王我がいうなら。」
王我は周りには冷たいように見えるが、自身の仲間に対しては情に熱く面倒見がいい。
王我に諭された弥園は意思のこもった目で前を向く。
それを見た一生と莉子もしょうがないなという顔で顔を見合わせ、前を向く。
「その魔王討伐とやらをやってやろう。」
「おお!やってくれるか!」
「その間の衣食住の保証はしてくれるんだろ?」
「もちろんである。」
「大概の願いを叶えるという言葉に嘘はないな。」
「王に二言はない。我が国キルティカに誓って叶えよう。」
「分かった。」
「それでは、色々あり疲れているだろう。部屋を用意したので、ゆるりと休むが良い。明日の夜に歓迎の宴を用意する。それまでは各人に専属のメイドをつけるので、何かあれば何なりと申してくれ。」
いつの間にか後ろにメイドさんが4人控えていた。
4人?俺ら6人いるけど。
「さて、そこの二人。」
俺と桃花のことか。
「私たちでしょうか。」
「そうだ。2人はここに残れ。他は退出するのだ。あぁ、大司祭も残ってくれ。」
「畏まりました。」
王の言葉に、まずはメイドさんたちに先導された王我たちが退出した。
次に王座の周りに座っている、王族たちが退出し、それに続き、王座の近くに立っていた貴族たちから順に退出していった。
キルティカ王が、全員退出するのを見届けて俺たちに言葉を向ける。
あれ?なんか2人だけはぶられちゃいましたね。
さぁここからどうなるのでしょうか。
評価等していただけると泣いて喜びます!
なるべく見返してはいますが、
誤字等あればご指摘いただけると幸いです。