くものいと
僕は雲。ふわふわ、ふわふわ。いつも空を漂っている。ふよふよ、ふよふよ。いつも形を変えて、空をのんびり飛んでいる。
空からは、地面のみんなが見える。駆け回って遊んでいる子供たち。お母さんと買い物に行く男の子。ブンブン道路を走る車。凄い速さで駆け抜けていく新幹線……全部、全部。
さっき、僕は雲って言ったけど、雲には一杯種類がある。僕はその中では嫌われ者。レジャーには邪魔になるし、みんな僕のことは好きじゃない。
乱層雲。それが僕。通称雨雲。雨を降らせる黒い雲。それが僕。
地上のみんなは僕が出ているのを見ると、途端に顔をしかめる。僕をにらんだり、ティッシュペーパーで変な坊主頭の人形を作ったり。みんなそういう反応をする。
僕はいつも嫌われ者。でも、たまには好かれることもある。
地面は日照り、というのになっていた。水が足りなくて、稲が育たなくて、みんな困っている。僕は友達の乱層雲や入道雲と言われる積乱雲を呼んで、力いっぱい雨を降らせた。降った雨は、川を流れて、田んぼに入って、稲に吸収された。それで田んぼは潤って、稲はしっかり育った。僕らは田んぼのおじさんたちにお礼を言われた。
山に赤い光が灯っていた。山火事だ、山火事だ、と声がする。山の動物が火から離れようと逃げていた。その時周りに友達はいなかったけど、僕は一つで頑張った。力を振り絞って雨をたくさん降らせた。僕の身体が半分ぐらい雨になったとき、火は何とか消えた。僕は山の動物たちからお礼を言われた。
僕が雨を降らせる前には、ツバメが低く飛んだり、ウシが干し草を食べたりする。それでみんなは、傘を持ったり、坊主人形を作ったりする。
僕はいつも地上を見てる。雨が欲しい時は降らせる。でも欲しくない時も降らせてしまう。僕はよく嫌われるけど、たまにはお礼を言って貰えることもある。だったら僕は、雨雲でいいや。そう思えた。
僕は、欲しい時だけ雨を降らせて、みんなを豊かに出来るような存在になりたい。でも、そうはなれない。それでも、そうなりたい。
みんなが、雨が降っても笑顔になれる、そうなってくれればいいな、と思ってる。そう思いながら、僕は今日もどこかで雨を降らせる。この雨が、人の役に立つように。
雨は確かに嫌かもしれない。でも、僕は決してみんなを不幸にしたい訳じゃない。雨が無かったら、地球は水が無くなっちゃう。そうしたら、水が足りなくて、ずっと喉が渇いていることになる。
そんなのはもっと嫌だろう? だから僕は、雨を降らせる。人の役に立つ雨を。
僕が雨を降らせるのは、みんなの為でもあるんだ。みんな、僕の想い、分かってくれたかな?
今まで言ったこと、それが、僕の、雲の意図。