君という人間の本質は最悪だ(7/5 更新)
「それでね、ユウがね。星がすっごくよく見えるアーツを持っていてね。それで星を見るとね、星に輪っかが付いているところまで見えちゃうんだ!」
両手を広げたり、輪っかを作ったりと大忙しなステラの相手をしているのは兄であるクラウ…クラウ…。しまった、人の名前は3文字までしか覚えられないんだった。クー兄様だと義理の兄っぽく聞こえるし、何より王族を茶化すのはやめておこう。
と考えたところで思い出したんだけども、ステラも一応正統な王族だった。この興奮しっぱなしな様子ではただの子供にしか見えないがな。その一応だけど王族なステラがこちらを見て口を開いた。
「そうだ、クー兄様もお城においでよ!それでみんなでご飯を食べて、星を見たいな」
「それは今度機会があればにしておこう」
クラウ王子がそういうとステラは少し落ち込んだ様子を見せた。クラウ王子の心の声でも聞いてしまったのだろうか。
「もし星に興味がなくてもね、今お城の中はすごく変わったの。今のエリューンにいるだけでは想像も付かないような凄い技術のものでたくさんあるの。だから…」
「ああ、ありがとう。しかし、当面は行くことは出来ない。俺もこの国を治める仕事をしている、何かと弊害がたくさんあってステラの城に行くのは難しい。しかし、いつかは行きたいと思っている。これは本当のことだ、ステラなら分かるだろう?」
「うん」
少し落ち着いた様子でステラは答えた。クラウ王子はそれを確認すると、目つきを変えて再度ステラに問いかける。
「彼と話したいことがある。2人だけにしてくれないか?」
「分かった。外で待ってるわ」
とステラは扉の向こう側へと行ってしまった。
「さて、聞きたいことは山ほどあるが…」
建国したこと?移民を煽ったこと?勢いでステラに好きだ!って言ったこと?心当たり多過ぎて変な汗が出てしまう。
「君は一体…誰なんだ?何を企んでいる?」
「えっと、もう一回言ってくれる?意味がよく分からないんだけども…」
「君は、ステラまで利用して、何を企んでいる?」
クラウ王子がステラに見せていた爽やか笑顔はすっかり消えていて、静かなる怒りが押し込められた疑惑の表情が僕に向けられている。ああ、僕がギロチンと斬首台の被害者になっている様子が浮かび上がる…。
「ああ、そんなに心配しなくていい。俺は何も、君をどうにかしようとかは思っていない。今のところはだがね」
今のところはね、を強調しないでくれますか?心配しかできないぞ。
「ステラも君のことを信じているようだし、ある程度は君を信じよう。もしも君が悪人だとすれば、ステラに心を見透かされて近付こうとはしないだろう。しかし私はどうも君のことが悪人に見えて仕方がない」
「悪人、だなんて買い被り過ぎだよ。僕はただステラと一緒に国を大きくしようとしているだけだよ。別にステラから富や権力略奪しようだとか、そんなことは考えていない。ただ皆を豊かにしようとしてるだけだよ」
「ユーステラ王国は実質的には君の王国だ。移民、都市開発、起業、あらゆる行動は君の決断だろう?王国と謳いつつも、実質的に国を支配しているのはステラではない、君だ。君はそういうが、ただの侵略者にしかすぎない。それに君は既に主導者ではないか」
「別に権力で支配してやろうだなんて微塵も考えてないさ。結果的にそもそも一緒に立国したのだから当たり前の話じゃないか!ブーブー」
そう"結果的に"略奪と侵略が完了してしまうだけでね。
「やはり君は思った通りの人間だ。ただし、人間的なものが決定的に欠けているがね。特に心が欠けている」
「僕にだって心ぐらい持っているさ」
「そう、"人間ならば"の話だ。君の考え方は人間的ではないと言っているのだよ。まるで相手に感情を読み取らせることを想定して逆算してから創られている」
「酷い言われようだね、まるで僕は犯罪者だ」
「そうだな、君を例えると"犯罪者"そのものだ。君の本質はそれに限りなく近しいが、違う。君は何者だ?」
「僕はただの人間だよ」
「ほう、ただの人間と言うのか君は。この短期間で王族の娘を餌に立国させて、世界一の大国の王子と宴会するまでになった君が、ただの人間だと?」
「それは僕が少し優秀すぎただけかな、この世界においてはね」
「やはり私は君が嫌いだ。しかし困ったことにステラはそうではないらしい。私はステラを自主性を尊重してやりたいのだが、それにはたまらなく君が邪魔だ」
「なるほど、王子は妹が操り人形のように扱われているようで気に食わないのだな。結果的にそう見える構図になってしまっているが、それは違うね。王子もいずれは分かるさ。」
「君が示した道が、ステラにとっても最善であり、結果的にそうしているだけだと?」
「ああ、僕はあくまでもステラの御意見番だよ。ステラの許可なしには国を動かせやしない。」
「果たしてステラが君の意見を反対するのだろうか?」
「実を言うとね。ここまで来るのだって何度か拒まれてたんだ。」
「そうか、それはさぞかし大変だったろう。ステラは一度へそを曲げるとなかなか言うことを聞かない。今回は大目に見てやろう、しかし次は首の皮が繋がっているか分からないと心しておけ。」
「王子、質問なんだが…僕は一体何を覚悟すればいい?」
パリン、と窓ガラスが割れる音がした。部屋の中には手のひらサイズの石が転がっている。誰かが投石したようだ。宮殿の外が騒がしい。宮殿に悍ましい量の人々が押し寄せてきていた。暴動なのか、クーデターなのか、ただのデモなのか。僕には分からないが、とにかく異常な光景が王子の目に映っていることには間違いない。
「君は一体何を…」
「言ったはずだよ、僕はただの人間であると。歯止めをしなきゃいけない相手を間違っている。さて王子にはこの資本主義社会の歯車をとめることはできるのかな?」
無論、動き出した歯車はもう止まりやしない。
「では、王子。くだらない話はもうやめにして、ビジネスの話をしよう」
「ハッハッハッ!なるほど。君という人間の本質は最悪だ。2度も同じことを思わせたのは君が初めてだよ」
「王子の初めてを頂き、誠に光栄極まりない。僕の要求は一つだけだ、僕が新しく発行する通貨、をこの国に黙認しろ」
「本当にそれだけか?その為だけに、君のような人間がこれだけのリスクを犯して王子たる私を脅迫しにきたとは到底思えない」
「いいや、それだけでいい。強いて言うならば、率先して流通して欲しいが、その必要はない。いずれ王子自信の判断でそれをすることになるからね。これはこの国にとっても王子にとっても都合の良い話だからね」
「なるほど、君の言っていたステラの自主性とはこれを言っていたのだな。後に君がこの国の通貨システムを、経済を支配することを黙認することがこの国にとっての最善の手であるのだと。そう言いたいのだな」
「僕は極めて公正な判断を下すし、エリューンが一方的に不利益を被るようなことをしない。不正や不平等を働くよりも、その方がはるかに利益になるからね。僕ですらシステムの一部に過ぎない」
ただ他にシステムになりうる人が他に誰もいないから、実質的に僕一人が権力を握ることになるのだが。
「しかし、君は思っていたより愚かであったな、そうであるのならば黙認すべきは、通貨ではなく君の生存だったな、そうだとは思わないか?」
紅蓮の宝玉で宝飾された剣が僕の喉元に当てられている、ただそれだけで皮膚が切れて軽く血が滲んでいる。飾りの剣とは思えない鋭利さだ。
「そうは思わないね。僕を死ぬことで生じるデメリットがメリットをはるかに上回っている」
「人間がいつも合理的であると思うな、私とて王子である前に人間だ。感情的になれば人の命を断つことも容易だ」
「それは感情的になればという仮定の話さ、王子は感情的になっているのかい?クラウ王子、君は僕と同類のはずだよ。同じことをしているから、僕の本質を理解できたのだろう?クラウ王子は極めて理性的で、冷酷なまでに合理的な思考の持ち主なのだろう。まさしく理想的な王子だ」
外が騒がしい。王子は紅蓮の剣を鞘に納め、宮殿の周囲には飴に群がるアリの大群のように押し寄せる民衆を確認している。そこには僕がこの宮殿に来た時に顔を見合わせた門番の兵士達が晒し首にされていた。
「しかし、君の国民は些か野蛮が過ぎるな。理想的な主君であることを理解できない愚かな民だ」
「これは君が先導したのだろう?」
「それは誤解だよ。僕はステラの許可なしでは動けないと言っただろう?それにこのままクラウ王子に王政を続けてもらった方が、僕にとってもプラスだからね」
「では、これは何だ?」
「さぁ、さっぱり分からない。まったく見当もつかないね。この国の内政に詳しい訳ではないかね」
というとクラウ王子の眉がピクついたのを確認して、急いで口を開いた。もう剣を突き出されるのはゴメンだからね。あれ、意外と痛いんだ。
「一つ言えるとしたら、民衆が大半が愚かだからだよ。民衆が求めているのは理想的な王子ではなく"自分たちにとって"理想的な王子、つまり都合のいい人間である事だからかな。最善手を続ける主君よりも、甘い言葉で惑わされて幸せごっこをさせてくれる主君を望んでいる。違うかな」
「なるほど、同類であるなら考え方までも同じだな。君とはイイお友達になれそうだ」
「その内、家族になるかもしれないよ」
「君がか?それだけは勘弁願うこととしよう」
話はこれで終了だ。"それ以外"の了承は得たのだ。そしてガチャっとドアが開く音がした。扉の隙間からステラがちょこんと覗いている。
「もう時間みたいだ。僕はこれで失礼するよ。しっかりと黙認してくれ」
「君のシナリオ通りなら正式な公認になるまでだがな」
僕はクラウ王子に背を向け部屋を後にしようとした時、クラウ王子がわざとらしく大きな声で話しかけて来た。
「好きな異性がいる時、人間とは無意識のうちに名前を会話で使いたがるものというが…もしかして君はステラのことが好きなのかい?」
「それは王子のことを言っているのかい?」
そんな冗談めいた話し方で国の未来を大きく左右する密談は終了した。僕はステラに連れられて客室に向かった。ステラはベッドに腰を掛けている。
「ねぇ、ユウは兄様とどんな話をしていたの?」
「ステラのことを頼んだ!やったぜ!って話をしていたよ」
「すぐそうやって話をはぐらかす。ほぼ密室の中で2人で何してたのか教えてよー」
「その言い方は意味深すぎるよ!」
でも王子の初めてもらっちゃったりしてたな、そういえば。あっ、変なことを考えるな俺のバカ!
「アーっ!って何?」
濁りのない、純粋なコバルトブルーの瞳が僕の心を覗こうとしている。それだけはやめてください、何でもしますから。
「あっ、今度こそは何でもするって言った!何でもするって言った!」
ああ、しまった。つい勢いで…。
「って、僕は一言もそんなこと言ってないよ!」
「心ではそう言ってたもーん」
「そ、そんなのってないよ…酷すぎるよ…」
「そう、私は人の心を弄ぶ惨忍な氷の女王なんだから。ええっと、それじゃあ…何からしてもらおうかしら」
「え?何からしてもらうかって?」
1個だけじゃないの?それはまずい、期限すら設定されてないんですがそれは。
「そうよ私は氷の女王なのだから、1個だけでは満足できないのよ。それに約束を守れない男の子は嫌いなのです」
「ふふん、僕を甘く見るではない。僕がどれだけ多くの人達に忌み嫌われてきたか…。それが1人増えたところで動じる僕ではないぞ!」
「私になら嫌われてもイイって言うんだ?」
「嘘です。全然動じます」
僕はステラの願いを何でも叶える妖精さんになりましたとさ。めでたしめでたし。って違うよ!
「では、その妖精の割に図体の大きい妖精さん。さっそく願いを叶えて欲しいのだけれど」
「はい、あなたの願いを何でも叶えてあげましょう。」
「10年前に戻りたい」
「僕にできる範囲なら何ならね!」
「嘘吐き。何でも叶えるって言ったじゃない」
「まず妖精さんというところから嘘なんだけど」
「そんなこと知ってるわよ」
ステラは僕の胸のあたりに頭を埋めてしまった。彼女の頭を撫でると、蒼みを帯びた銀髪は手のひらをするりと抜けていく。摩擦が一切生じないほどのさらさらの髪からはあまい花の香りがした。
「10年前に戻れたとしたら、何を変えるつもりだったの?タイムリープはできなくとも、解決できるかもしれない」
「今の私は兄様が信用できない」
「どうして?あんなに慕っていたじゃないか」
「それは兄様が優しいから…私の目の前ではいつも兄様は優しい。でも、その優しさが違うの」
”優しさ”の種類が違う、か。何となく想像できる気がする。そしてどうしていいか分からない、と。いや僕にも分からないけどさ。
「良く分からないけど、とりあえず僕は君とずっと一緒にいるよ」
「でも、嘘何でしょ?」
「そうだね、嘘だ。ずっとは無理だ。死んだら一緒にはいられない。永遠にはできない」
「そういうことを聞いてるんじゃないの。いつも何かズレた返答ばかりで誤魔化してばかり」
「じゃあ、本当のことを言っていいの?」
「そういうところがズルいのよ」
クラウ王子はステラを捨てた、永久凍土の上に城を建てて隔離した。ステラは少なくともそう思っている。でも、不自然だ。あのシスコン王子の狙いはもっと別にある気がしてならない。何せシスコンだ、シスコンがかわいい妹を手元から離すわけがない。何せシスコンだからな!
「それでね、妖精さんもう一つお願い」
「僕にできる範囲内でなら、何なりと」
「もう少しこうしていてもいいかな?」
「君の願いを叶えよう」
王子は表向きの顔ではステラを"アレ"呼ばわりする理由は分からない。僕たちだけに見せていた方の顔こそが偽りの仮面かもしれない。そんなことは彼自身にしか分からないし、僕らは知る由もない。ただ根本的な解決をしようとせず、現実逃避をするだけしかできなかった。