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二人だけの王国

「ねぇ、起きて。起きてってば!」


 眩い朝の陽ざしと共にステラの綺麗な声が聞こえた。


「あともうちょっとだけ…。」


「ダメだってば!恥ずかしいから早くして!ほら、みんな見てるから!」


 みんな見てるから?見てるって、誰が何を見てるかって?


「この城には他に人なんていないんだし、何を今更そんなこと…。」


 と寝ぼけざまに周りを見渡すと、なんと周りには10匹ほどのオオカミ達が「ガルル」とお腹を空かせたような唸り声を出していた。


「ほら、早く手を離して!」


 そう言われてから気付いたが、いつの間にか僕の腕はステラの体を巻き付けていた。夜はその逆だったのに。


「ご、ごめん。そのわざとじゃないんだ…。」


 彼女は顔を真っ赤に火照らせ、そっぽを向いている。自分の家で寝るときに抱き枕を使っているからか、やらかしてしまったようだ。


「いいの。嫌だったとか、そんなんじゃないから。みんなお腹空かせているみたいだから私、朝ごはん作ってくる」


「それなら僕も手伝うよ」


「いいのよ、あなたは私のお客様なのだかり。そのかわりこのお返しはあなたのお家でしっかりと頂くから」


「ああ、そんなことも言ってたけな」


 こっちを振り向かずに足早に、とことこと部屋を去っていった。狼たちもそれの後ろへと続いて部屋を出て行った。


 最後尾のオオカミだけがすこし足を止め、何か言いたげな表情でこちらを見たが、やはり何も言わずにはやを後にした。


そんなこんなで朝ごはんを食べた後に、さっそく僕の居た世界へと戻る準備をした。あの後からステラとはなんとなく顔を合わせ辛くなっていた。あんなことを仕出かしたんだから、それはそれは気まずくなるもので。城の住人、もとい動物たちに数日分の食料と水を用意し、そして出発した。


 さてさて元の場所に戻り、戻る…って、どうやって戻るんだ?ここは一体…どこなんだ?


一面に広がる雪原、目印となるような物はこの子のお城以外に何もない。足跡を辿ればいいや、なんて考えていたが迂闊すぎた。風で雪が均され、足跡なんて何一つ残っていなかった。


「もしかして、私のせい?」


 ステラは申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「いや、そういうわけじゃないんだ。一応マッピングはしていたんだけど、どうもこの冷たい気温の中で電池が壊れてしまったみたいで…」


 夜の気温がリチウムイオン電池の許容する温度よりも低くなっていたことが原因であると考えられる。そのせいで電源が起動しなくなっていたのだった。


「それなら帰れるようになるまで私のお家に住ませてあげてもいいのだけれど。」


「えっともしかしたら永遠に帰れないかもよ?」


「それじゃあ、私の王国の国民第一号ね」


 今まで前例のない国民、他の誰もいない未知の世界。1人で国を支えるほどの重税を課せられちゃうんです?


「僕頑張るよ…、頑張るからお手柔らかに…」


「頑張るって何を?そんなことよりも、私の国民第一号のユウに見せたい景色があるの!」


 そうしてステラは僕の服の袖を引っ張り、僕をどこかに連れて行こうと前に歩き出した。


 ただ落ち込んでいたってしょうがない、次の一歩を考えることにしよう。何せ、ここは"異"世界なんだ、著作権法でも特許法もない何もない無法地帯、なんでもパクりたい放題ってわけさ!これを活かさない手はないだろう!ところで特許や商法のデータベースにアクセスするためにはどうすればいいのかな?結局それをするには一旦帰らなきゃいけないんだよね。はぁ。


 僕はステラに連れてかれるがままに、城の屋外テラスへと行った。そこから見えるのは決して凍り付かない深青色の湖と遠くの方に見える小さな太陽。そこから放たれる光が湖へと反射してキラキラと光っている。


「ここはね、夜になると星空がキラキラとしてもっと綺麗な景色が見えるのよ。」


「へぇー。それは是非見てみたいね。ここに天体望遠鏡だとかカメラを持ってこればよかった。」


 観光が目的のつもりで来ていなかったから、そんなこと考えもしていなかった。お金に執着して失っていた感性が呼び起される気分だった。


「てんたいぼうえんきょう?かめら?」


 ステラは不思議そうな顔を浮かべている。


「天体望遠鏡を通して夜空を見るとね、星がすごく綺麗に見えるんだ。カメラでこの一瞬の景色を永遠に残すこともできる」


「それはとても素敵な話ね。まるで魔法みたい。」


「魔法か、確かにそうかもしれない。」


 魔法もきっと何かしらの物理法則に従っているだけの物理現象、なのかもしれない。地球の先端技術もこちらの世界の人達から見れば魔法のように見えるのだから。


「一度でいいから、それを見てみたいわ。」


「いいよ。約束しよう。もしも無事に帰ることができたら、天体望遠鏡をこの城まで持って来てさ、一緒に星を見よう」


「うん、約束だからね。」


 そんな約束を交わしながら、それと同時に別のことも考えていた。星の観察をすればこの星が宇宙のどこに存在していて、どこの星なのか分かるかもしれない。この地球とは一体何万光年離れているのだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これは金儲けのストーリーだ。この物語は異世界での日常を描いた物語ではない。そろそろ投資の話の一つでもしたいのだが、もう少しだけ待ってほしい、僕はこの惑星について情報を持っていなさすぎる。


 今の時点で分かっているのは、文明レベルが中世であることととんでもなく物が不足しているということだ。だからせめて歯ブラシと歯磨き粉、それと暖かい水の出るお風呂ぐらいは欲しい。それには飛躍的な技術革新と経済発展が必要だ。それも僕が生きているうちに、できるだけ速やかにこの段階は終わらせたい。僕は衛生的で文化的な、人間らしい生活を送りたいからね。冷たいシャワーを浴びる為に何時間も待ってはいられない。


 普通は何世紀もかかってしまうような出来事だ。しかし、僕にはそれを可能にする知識がある。何せここでは僕は未来人のようなものだ。正確には異世界人なのだがそんなことは些細な問題だ。あらゆる不可能を可能にできてしまうと言っても過言でない。


「ステラ、大事な話がある。」


 僕はさっそくステラを呼び出した。言い方が悪かったのか、恋の告白でもされるようなそんなソワソワした態度をしている。


「僕は国民第一号として君に提言する。この国を発展させよう。」


「え?国を発展させる?」


「ここには圧倒的に人手と物に不足している。食料だって毎日ネズミと魚、それと木の実が少しあるぐらいだ。」


「人手はなくても、動物たちが手伝ってくれているわよ。」


「そんなに難しいことは考えなくていいんだよ、たくさん人が増えてと食べ物もおいしくなって、豊かな生活ができる。それだけさ。」


「でも、どうやって発展させるつもりなの?人を増やすってどうやって?」


「仕事を与えれば、人はやってくる。移民を受け入れるんだ。」


「でも、こんな雪しかない辺境に人は来るのかしら。」


「だからこそだよ、ここでは雪がそんなに珍しくない。でも、他の地域に住んでいる人からしたらどうだろうか?初めて見る雪ははしゃいでしまうものなんだ。これは立派な観光資源だ。それに。」


 ステラは雪を自由に降らせられるかのようなことを口にしていた。つまり、人工的に積雪させる機械が不必要ということ。雪道さえ整備してしまえば、運用コストはほぼ0コストだ。その雪道もステラの能力でどうにかなりそうだ。


「ついでに僕の家までの帰路も探索できるってわけさ。それができれば、もう無敵さ。この国は世界で最も豊かな国に生まれ変わる。」


「人がたくさんいて、物がたくさんあって豊かな国、きっと楽しい国になりそうね。」


「そうだよ、だからやろうよ!一緒にさ!君一人でも僕一人でもできない、だから一緒にやろうよ!」


「でも、ここは本当は私の国じゃないの。私しか住んでいないから勝手に周りの人が勝手に氷の国と言ってるだけで」


 氷の国に一人暮らしの氷の女王という分かりやすい構図、人間はどこにいても考えることは同じなのだな。


「国でないのなら、創ってしまえばいいじゃない、ホトトギス。ってね、僕と君で二人だけの王国を始めよう」


 1+1=2じゃない、0から1が生まれ、新たな可能性が想像される。不可能と思われていたことが実現させてゆき、そうやっていくうちに国は形成されて成長するんだ。


 そうして僕らは真に初めての国を創った。国の創立記念日は祝日にしたいところだが、こちらの暦は分からないし、そもそも1年が何日なのかさえ良く分からない。それと僕らはこの国をユーステラ王国と命名した。お互いの名前を合わせた国名にしてしまうなんて短絡的な考えだったが、二人だけの王国なのだから文句を言う国民はどこにもいなかった。


「でも、人が増やしてしまうのだから、二人だけの王国は一瞬だけね。なんだか寂しいね」

 

 ステラは僕には聞こえない小さな声でぽつりと独り言を呟いた。

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