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蒼い剣士、あるいは用意された案山子。

 銃で戦うならば、狭い部屋の中より細長い廊下の方がやりやすい。


『分かるわよね。そのG-R.I.M.(グリム)にはセーフティとかハンマーとかは無いわ。ただ、銃口を標的に向けて、引鉄を引けば弾が飛ぶわ』


 ガシャン、ガシャン。足音が近づいてくる。


「照準は? どこを見れば良い?」

『着弾予想点をあなたの視界情報に直接描画する。威力もだけど、反動が結構大きいから頑張って抑えなさい』


 床に、ゲームのロックオンマーカーみたいなものが光った。右手の銃(G-R.I.M.と言うらしい)を動かすと追従して動く。これが着弾予想点とやらのようだ。


『脚を狙いなさい。動きを止めれば怖い事はないから』

「わかった」


 コウは廊下の右角を見つめ、片膝立ちでG-R.I.M.を構えた。ここから出て来たところを撃ち抜く……ッ!


『来るわよ……。3、2、1、』


 カウントゼロ。

 リベラのカウント通りに、蒼い人影が現れ、コウは引鉄を引く。

 轟音とスパークが迸り、銃身から弾丸が放たれ、蒼い人影の脇腹に直撃した。


「当たった……ッ!」


 反動で狙いが上に逸れてしまったが、命中した事に違いはない。


『馬鹿ッ! すぐに立ちなさい! 逃げるわよ!』

「あ、ああ。凄い音だったからな、聞きつけられたら……」

『そうじゃないッ! あのくらいじゃN.H.(ネュー)は倒れないの!』


 リベラの言葉を理解する前に、ガシャン、と音がして、否応なく事実を叩きつけてくる。

 蒼い人影は、左の脇腹、弾丸が命中した所から銀色の水晶を生やしていたが、それ以外は特に変わった様子も無くこちらを向いていた。


『魔銀ミスリル……特定波長の電流を流すと液化する金属よ。固体状態だと液体よりも体積が大きくなる性質があるから、N.H.は装甲の中にストックして、損傷部分を塞ぐようになってるの』


 装甲は抜けたが、致命的なダメージは与えられていないという事か。


『だから脚を狙えって言ったのよ。胴体より細いから装甲も薄いし、とりあえず動きを封じられるから』

「だったら……ッ!」


 コウはもう一度、今度こそ蒼いN.H.の脚に照準を合わせ、リボルバーを回し、引鉄を引く。

 再び放たれた弾丸は今度こそその膝を撃ち抜く軌道を描き、しかし命中する事はなく、光の壁に弾かれた。


「な、なんでッ!?」

光波障壁(シェルター)よ。攻撃が見えてれば対処もされるわ……ちょっと身体を借りるわね!』

「えっ」


 言うや否や、コウの身体が勝手に動き出す。意思と動作の齟齬に気持ち悪さを感じる間に、蒼のN.H.が右手に剣を構え、こちらに走り出した。

 瞬く間に距離を詰められ、無造作に振られた剣が、先程よりも随分と暗い光の壁に衝突する。

 コウは、この光波障壁(シェルター)が自分の身体から出ている事が分かった。

 衝撃をそのまま自分の身で受けたコウは、堪らず後方へ吹き飛ばされる。


『悪いわね、間に合いそうになかったから勝手に使わせてもらったわ』

「ケホ……い、今のって……」

光波障壁(シェルター)はR.I.M.に備わってる防御機構の1つ。当然このG-R.I.M.でも使えるわ。使い方は、今ので分かったわよね』

「あ、ああ、分かったけど……」

『私が動かそうとすると、結構な反発があるみたいだから……』


 最初に銃を手に取った時ほどでは無かったが、あの気分の悪さはできれば御免こうむりたい。


『頑張って』

「丸投げかよ!!!」


 蒼いN.H.が迫ってくる。コウも焦って立ち上がり、踵を返して走り出した。


『逃げるの?』

「真っ正面から撃ったら防がれるんだろ……だけど、一発目は当たった! つまり、気付かれない所から撃てば良いって事だろ!」


 走って角を曲がり、すぐに止まる。


『待ち伏せって事ね』

「また、カウントダウンを頼めるか?」

『ええ。良いわよ』


 カウントゼロと共に引鉄を引く。その瞬間に現れた蒼い脚を撃ち抜く。


「やった!」

『気を抜かない! 一度離れて!』

「え……うわ!」


 膝を付いた蒼いN.H.が、腕を振りかぶって剣を投擲してきた。

 咄嗟に銃をかざし、気付いて光波障壁を張る。

 飛来した剣が、光波障壁にぶつかり、砕き、衝撃で脇に逸れた。


「あ、危なかった」

『すぐに使いこなすなんて、あなた結構要領良いのね』


 片足を欠いたとはいえ、未だ蒼いN.H.は健在だ。


「痛みとかも、感じないのか」

『一定量を超えた触覚情報は遮断される設定なのよ。さっきお腹を撃った時も動じてなかったでしょ』

「設定? いや、それも後で、だな」

『そうね。機動力を奪ったとはいえ、それ以外はぴんぴんしてるし』


 コウがG-R.I.M.を構えて蒼いN.H.に向けると、すかさず光波障壁(シェルター)が張られた。


「あの光の壁、無制限に出していられるってワケじゃないよな……?」

『さすがに無限には出せないでしょうけど、とはいえ解除されるまで待ってられるほどエネルギー消費が激しいわけでもないわ』

「じゃあ、突破するしかないわけか」


 言って、蒼いN.H.に向かって歩み寄るコウ。光の壁に銃口を重ね、引鉄を引く。

 轟音と共に、壁の向こうの蒼いN.H.の腕から魔銀ミスリルが噴出し、そのまま硬化した。


「零距離なら突破できるのか」

『みたいね。じゃあ、今度は胸を狙って……』


 リベラが言い終わる前に、突如コウが吹き飛ばされた。


「痛、たた、なんだ?」


 10mほど吹き飛ばされ、腰を打ったコウ。痛みを堪えて立ち上がると、わずかながら後ろに引かれるような感覚を覚えた。


斥力場(リパルサー)……迂闊だったわ、そうか、軽いんだから吹き飛ばされもするわね』

「りぱ……?」

『斥力……引力の逆よ。これもR.I.M.に搭載された防御機構の1つ。いちばん防御力が低いから、考慮してなかった』


 後ろに引かれているのではなく、前から押されているのか。


「いちばん弱いって、僕吹き飛ばされたんだけど!」

『言ったでしょ、あなたの身体が軽っちいせいよ。想定の10%くらいしかないんだもの』

「そんな重たい人間がいるかよ……」

『悪かったわよ。だからいつまでもボヤいてないで、さっさと次を試すわよ』

「次?」

回転式弾倉(リボルバー)を回して弾種(バレット)をチェンジするの。このG-R.I.M.の弾丸も、基本的に魔銀ミスリルを使っているわ。ストック部分に液状でプールされてる魔銀ミスリルを、回転式弾倉(リボルバー)内部で、いわば鋳造する形で弾丸が構築される。今は通常弾が造られるようになってるけど、穴が6つある通り、あと5種類の弾種(バレット)が使えるのよ。貫通弾を使うわ、右に1つ回してちょうだい』


 弾倉を右に回す、と言われて一瞬戸惑ったコウだったが、その戸惑いの間にG-R.I.M.が勝手に回転式弾倉(リボルバー)を1つ右にズラしていた。

 思っただけで動いてくれる事もあるらしい。


『さっき2発目以降を撃つ時、特にリロードの事考えてなかったけどちゃんと弾があったでしょ。ある程度は汲み取ってやってくれるようになってるのよ』

「それはありがたい。あとは照準を合わせてトリガーを引くだけって事か」

『あとは、想像するの。その弾丸が、あの障壁(シェル)を、そしてあの鋼の肉体を貫く様を』


 蒼いN.H.はまだ暴れている。腕も脚も砕いたのに、まだしぶとく動いている。リベラは胸を狙えと言った。

 おそらくそこに、このN.H.の核のようなものがあるのだろう。

 貫通弾。あの障壁を越え、分厚い装甲も打ち砕いて、その中の核を壊す、銃弾。

 障壁が邪魔でよく狙えないが、それだけの威力があるのなら、胴体ならどこに当たったって……ッ!


 轟音。閃光。


『え……?』


 光のまばゆさから立ち直ったコウが見たものは、石畳に刻まれたクレーターと、その周囲に散らばる蒼い手足、電磁波から解放されて結晶化した魔銀ミスリルだった。


「倒した……?」

『貫通弾って、爆発を起こすようなものだとは思わなかったのだけれど……』

「僕も、こんなトンデモキャノンを撃つとは思ってなかったんだけど……」


 リベラに不思議そうにされてしまっては、コウとしては尋ねられる相手が居ない。


『……まぁ、いいわ。ミスリルを回収しましょう』

「回収?」

『さっきも言ったけれど、このG-R.I.M.が撃ちだしている銃弾は魔銀ミスリルで出来ている。液状でストックに保管してあるとも言ったわよね?』

「ああ、聞いた。特殊な電磁波を浴びせている限り液体で、固体状態より体積が減る、んだったか?」

『よくできました。まぁ、だから、とうぜん撃ちだしたものは減るから、ちょうどそのへんに落ちてるやつを回収してしまいましょうって話よ』


 その辺に落ちてる、魔銀ミスリル。

 それは、クレーターのそばで結晶化しているものに他ならない。


「こいつらを液体に変えて、中に入れるのか?」

『その通り。接触しないと回収できないから、近づいてちょうだい』


 言われたとおりに結晶ミスリルに歩み寄り、G-R.I.M.を接触させる。


『今回は私がやるから、障壁(シェル)の時みたいにその感覚を身体で覚えなさい』

「えっ、またあの気持ち悪いのをやるのか?」

『不快感を感じるのは、あなたが拒むからよ。私に身体を委ねて、すべて受け入れればいいのに』

「受け入れる……」


 リベラに、身体の支配権を渡す。最初のように、無理やりではなく、こちらから明け渡す。コウにはそれがなぜか、酷く恐ろしい事のように思えた。


「なぁ、リベラ。そういえばまだ聞いてない事があったんだ」

『何よ、急に改まって』

「このG-R.I.M.って武器は、そもそも"敵"の持ち物だったんだよな?」

『ええ』


 肯定する。


「そして君は、この武器に潜んでいた」

『……そうね』


 肯定する。


「……つまり、君自身はもともと、"敵"側なんじゃないのか?」

『まぁ……そういうことに、なるわね』


 否定、しない。


「それで、僕が君を信用する、その理由がどこにあるっていうんだよ……ッ!」

『……さっきのN.H.を倒したのだけじゃ、信用に足る実績とは言えないかしら?』


 確かに、彼女はこの蒼いN.H.の撃破に多大な貢献をしてくれた。


「けれど、そこさえも、僕にはおかしく感じてしまえるんだよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()こと自体が、君を信用させるための罠だったんじゃないのかって!」


 あまりに、簡単に。彼女の言う通りにするだけで、コウは、人生初めての戦闘を生き抜いてしまった。


「なぁ、リベラ、教えてくれよ。さっき、追々話してくれるって言っただろ。なんで君は、僕の味方をしてるんだ……」

『……いいわ。手短にだけど、私の話をするわ』

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