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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第1章:6人を繋ぐもの-1
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No.2「物質界と精神界」

「うっわ、どのチャンネルもこのニュースばっかりだ。ネットニュースも他の枠削ってまでテロリストと対峙した少年少女の所属が判明とか、人外対策局の事ばっかだ! すげーな、ワクワクする!」


 信太がテレビの前で子供のようにピョンピョン跳ねていた。

 人外対策局の存在と共に明かされた少年少女の正体は、瞬く間に全世界を駆け巡った。ネットではその事ばかりで、あの日からトレンド入りしたままである。検索ワードランキングトップ十は、全て関連のワードだけで埋め尽くされていた。


「けどよ、勝手に学校を転校させられるのは納得いかねぇな。……特に思い入れはなかったけど」


「しょうがないでしょ。全員が全員東京在住なわけじゃないし。それに思い入れがないならいいんじゃないの?」


「いや、友達に挨拶とかさ」


「あんたに友達なんていたの?」


 愛花が夜斗の心をグサリと刺す。


「たしかに仲良かった友達にくらいには会って挨拶したかったなぁ。メールやら電話やらもうすごい数だよ」


「テロリスト騒動以来、全く返せてないから今更返すのも……うーん、タイミングを逃した感じかなぁ」


 アルとティア、そして自分達の格差に愛花も夜斗も重力が重くなったかのように感じられた。


「今気づいたよ、幼馴染からの電話とメール。あははっ、誤字ばっかだ。心配かけて悪かったなぁ」


 友達が少ない仲間だと思っていた佐久兎には、彼を心から思ってくれる人が一人でもいる事が分かり、二人の背景は梅雨の空気以上にジメジメしていた。信太は常に友達に囲まれているイメージだが、果たしてどうだろうか。自然と視線を集めた。


「オレ? オレはスマホを事件現場でもみくちゃにされて、落としたみたいで連絡取れないんだよ。おかげで来てるかも分かんないや」


 その言葉に友達いない組の二人の目が鋭く光り、ものすごい勢いで信太に詰め寄る。


「そんな強がんなって信太。本当は友達なんていないんだろ?」


「そうよ信太、人間正直が一番よ!」


「お前らが友達いないからって妬むなよ!」


 信太の正直な言葉が二人のガラスのハートを粉砕する。容赦のない中学生だ。


「哀れむな、哀れみの目を向けるな! 俺は友達ができないんじゃない、作らないんだ。群れるのは苦手だからな」


「とりあえずそれ友達がいないって事だよな?」


 一人涙を流して床に倒れ、


「あたしだって友達ができないんじゃないわよ! 友達を作らないんだけなんだから」


「だからさ、それって友達ができないんだろ」


 また一人涙を流して床に倒れこむ。


「うわあ……信太の正直さは罪だね〜!」


 アルは言葉とは裏腹にヘラヘラ笑い、ティアは倒れた二人が生きているかを突ついて確認した。


「二人は友達いないって言うけど、私達は友達じゃないの?」


 その言葉に二人がいきなり生気を取り戻す。その顔はパァっと嵐が過ぎ去ったかのような、雲ひとつない晴天のような表情だった。


「そうよ、ティアもアルも信太もあたしの友達よね!」


「何言ってんだ。ティアもアルも信太も俺の友達だ」


 いがみ合う二人に更に信太は溜息をついた。


「そんなだから友達ができねぇんだよ」


 再び二人は撃沈され、床に顔面を打った。勢い余り床にめり込んでいる。


「信太ストップ。これ以上は生命維持に関わる……」


 ティアが信太の口を塞いだ。


「ティアとアルと信太だけじゃなくて、僕もいるんだけど……影が薄いのかな、ははは」


 今にも泣き出しそうな佐久兎を、アルがよしよしと猫でもあやす様に撫でた。


「で、でもお前らだってほら! 今までと違う学校に転校するんだから、性格がいくら悪くても一人くらい友達ができるかもだろ?!」


 二人を撃沈させた張本人の信太の新たな言葉に再び息を吹き返す。台風直撃時の荒波のような感情の起伏だ。


「ああそうね! 別に頑張らなくてもできるし?!」


「俺だって友達百人できるしな!」


「お前らガキかよ……」


「ガキに言われたくねぇえええっ!!」


 夜斗と愛花の声が重なる。とことん二人の気持ちをかき乱す信太だった。






 *






「転入する前に、この世界の事について説明するね。この世界の事を対策局の人間は『物質界』と呼んでいるんだ。しかしこの物質界には二種類の生命体がいる。それは肉体を持っているか、持っていないかの違い。本来、人外とあらゆるものに宿っている魂っていうのは『精神界』に存在しているんだ」


 対策局本部の講習室では、まず世界の分け方から右京が説明していた。難しい話にげっそりとした顔を早くも見せる信太。片言の日本語を話す外国人のようなイントネーションで、右京の言葉を繰り返す。しかしやはり復唱したところで理解できるものではなかった。


「だから全ての生命体は物質界と魂を繋ぐ肉体を失った場合は、死者として精神界に還る事になっている。それでも何らかの理由で精神界の住人なのに物質界にとどまっているのが、世間で言う幽霊だね。霊も良いのだけじゃなくて、悪霊ってのもいる。妖怪も悪魔も同じだ。無害なのは見守るだけだけど、有害なものは退治しなきゃいけない。これが俺の理念だ」


 そう言いきる隊長に、隊員達は力強く頷く。夜斗は暇そうに窓の外を眺めながらテーブルに足を乗せているが、咎める事もなく説明は続く。


「しかし物質的な肉体を持たない精神界の住人、いわゆる人外には物理的な攻撃が効かない。イメージとしては、ホログラムに攻撃をしたところですり抜けてしまうでしょ? そんな感じ。だから俺達が制御装置(リミッター)を使って、あちらの次元レベルに合わせるんだ。一見何も変わらなく見えるけど、強制的に精神界レベルの体にする装置なんだよ。霊体に近いかな。その状態で触れている物も、一時的に精神界レベルの物になる。だから物理的な攻撃や武器を使っての攻撃が可能になるんだ」


「じゃあ今からは制御装置(リミッター)を使って訓練するのか?!」


 右京の難しい説明が終わった途端に信太が元気になる。


「ま、そゆこと!」


「やりぃ!」


 目を輝かせる信太に、尻尾でも生えていればブンブンと振っていそうだなと夜斗は思った。やっとそれらしい活動ができる事に高揚感を覚えずにはいられず、自然と笑みがこぼれた。


「そして人外対策局の担当の事件はほとんどが人ではなく、人外だと説明したね。しかし今まで見えなかった人外が何故見えるようになるのか。それは、人外が存在している世界と俺達が存在している世界は本来違うからだね。一番分かりやすい説明は多分これだろうなぁ……」


 誰もが右京の次の言葉を持つ。


「生者と死者は住む世界が違う。それでも見えるのは、制御装置(リミッター)で強制的に霊感なるものを開くからだね。もっと詳しく言うと、自分自身が肉体を持ちながらも精神界に近づいちゃうようにできてるから、干渉がしやすくなるんだ」


 アルとティアは意味深に笑顔のまま固まり、愛花と夜斗と佐久兎は明らかに不審者を見る目で右京を直視し、信太は目を輝かせた。そんな反応を見せる中、最初はそんなものだと言って右京は軽く受け流す。


「霊とか誰にも見えるわけじゃないし、妖怪も悪魔も同じくだね。でもなんで視える人と視えない人がいるのか。それは本来俺達は、生者しか目視できないようになっているから。人外っていうのは、魂が存在しても物質的な体が存在しない。霊感は才能だから、視える人の中でもどの程度視えるかは個人差がある。精神界に触れれば触れた分だけ霊力が強くなっていくけどね」


「オレ、全っ然分かんねぇ」


 信太がいつも通りの難しい説明に頭を抱える。


「人外と俺達の違いは、魂の入れ物である肉体が存在するかどうかなんだよ。精神的な世界に存在する肉体を持たない生命体は、俺達肉体を持つ物質界よりも次元が高いところに存在している。どういう事かちょっとは分かった?」


「うーん、普通の人間には肉体に宿ってる『魂』自体を視る事ができないのと同じって事ですよね? 物質界に精神を存在させるためには、または生物にその存在を認知してもらうためには、物質として存在する肉体がないといけない。気持ちがあっても口がなきゃ伝えられないのと同じだろ」


「夜斗君の言うとおり! しかしこれは何度も言うけど、肉体を持たない生命(じんがい)達全てが悪さをするわけではないんだ。だから、悪い事をする人外だけぶっ倒すって事! これが俺のセオリー!」


「おお、なんとなく分かった! とりあえず、悪い人外ぶっとばすって事だな!」


 右京がそこまで説明下手だというわけではない。説明しなければならない事が極端に難しすぎ、そして信太の理解力が極端に低すぎるだけである。


「まあそういう感じで武器の事なんだけど、制御装置(リミッター)さえあれば何ででも戦えるから難しく考えなくてオーケー! ちなみに人外対策局には戦闘員の種類が大きく分けて二つ」


 指でピースサインを作り、二つある事を表す。


「隊で任務に就くから普段はあまり気にならないかもしれないけど、近距離戦闘員と中長距離戦闘員ってのがある。二隊以上合同の戦闘になる時、作戦によってはこの役割通りに動く事になる。まあそうそう無いけどね」


 重要度が増していく説明に聞きいる六人。無駄口を叩く者など一人もいなかった。


「近距離戦闘員は主に刃物で戦う。もちろん銃の扱いも覚えてもらうし、戦闘でも扱う事になるだろう。このタイプに必要なのは敵を目の前にしても動じない心と冷静さ、様々な能力の高さや純粋に、強さだ。目の前で仲間を失ったショックにいつまでも囚われていると、自分まで死ぬ事になる。瞬時の判断が明暗を別けるから、頭はキレッキレの方が生存率が高くなるね」


 血生臭くなっていく内容に顔は強張るばかりだ。日常生活ではあまり意識しない『死』が、とても身近に感じられた。


「中長距離戦闘員は主に仲間の銃での援護が仕事。近距離戦闘員も命を懸けて仲間の命を守っているが、大規模な戦闘では長距離戦闘員は安全性と引き換えに仲間の命も背負う事になるかな。このタイプは冷静さと広い視野はもちろん、仲間との連携が鍵になる。今自分に何を求められているのかが分からないといけない。ある意味では、命というプレッシャーにも負けないメンタルの強さも必要。どっちにも優しさと強さが大事だ。もちろんそれだけでは駄目だけれどね」


 少々脅しすぎただろうかとも思ったが、右京は不敵な笑みを浮かべる。


「次の体力測定の時に決めてもらうから、それまでにしっかり考えておいてね」

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