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退魔師はただいま青春中です  作者: 花厳 憂(佐々木)
第1章:6人を繋ぐもの-1
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No.0「始まりの日」

第一話は次回からです。

 ――誰もが日常という日々を、毎日毎日過ごしている。


「きゃあああああッ!」


 屋根の無い美術品の展示ブースに複数の銃声が鳴り、直後に耳が張り裂けんばかりの悲鳴が上がる。ただの威嚇射撃であったが、その場にいた数百人に恐怖を与えるには充分だった。


「動くなよ」


 随分とドスの効いた声だ。怒鳴る男の右手には拳銃が握られている。平和ボケした日本人の誰がこの男に立ち向かおうと思うだろう。先程まで大規模なイベントで賑わっていた場所は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。



 ――物語の中心になるような高校生も、正義を語るヒーローも、有名人だって今日も日常に生きている。



 テレビ中継中のカメラマンの後ろには、仲間とみられる男が銃を突きつけながら立っていた。「このまま続けろ」と生かす代わりの条件を提示しながら、リーダーの動きを見守っていた。


「うわぁあああっ、は、離せ! お前誰に銃を向けているのか分かってるのか?! 国会議員だぞ!」


「わぁってるよ、うるさいジジイだな。ボディガードはお飾りかぁ?」


 熟れているのか、かなり怠そうに人質のこめかみを拳銃でトントンと軽く二回小突く。


「ひ、ひぃいっ殺さないでくれ! かっ金か、金なら払うから助けてくれぇ……!!」


「お前のちゃっちー金じゃ払えねぇよ。聞こえてるな、三十億だ!! 一時間以内に用意しろ。間に合わなかったら人質全員殺すからなぁ!」


 どこにそんな金を用意できる根拠があるのかは定かでは無いが、確信に満ちた顔は不思議と説得力がある。情けなく命乞いをする国会議員の姿と、男の怒鳴り声がテレビを介して全国に響いた。



 ――どんな非日常的な環境だろうと、その環境に身を置き続ければそれがその人の日常になるのだ。



「うわぁ、これがテロってやつかぁ。ボク、こんなの初体験〜」


「初は当たり前だろ! こんなん人生で何回も体験してたまるか」


「ちょっとあんた達。気色悪い事言ってないで、人質なんだから人質らしくしてなさいよ!」


 声を潜めて会話をする三人組がいた。そして潜めていたはずの声は、笑い声に乗せてしだいに大きくなる。


「あはは、だってテロって! テロってベタすぎだよね! いっつも国民を虫けらでも見るような目で見下してたのに、命の危機に瀕した途端に子供みたいに喚き散らしちゃって。……っあははは!」


「お前、さっきからふざけすぎだ! 一応自分も人質だって自覚はあるのかよ」


「だから、二人とも黙ってなさいってばぁ!」


 議員を人質にとっているあの男性が、このテログループのリーダーだ。その真正面にいるというのに、緊張感など微塵も感じていなさそうな、どこか達観した少年。他人事のように笑う彼を両隣にいる少年少女はたしなめる。


「いやぁ、私も傑作だと思うよ。聞きました? この前の国会で女性議員に対して言ったヤジ。あれ差別問題になりますよ。なんかもう、天罰としか思えないです」


「まあ、一言で言うとザマァねぇって事だな!」


「み、皆、聞こえちゃうから静かにしないと。僕まだ死にたくないし……」


 そしてその近くにも知り合いとみられる三人がいた。つまり六人組なのだろうか。背中を向けて円を描く形で座っている。


「ザマァ議員はさておき、人質に恨みはないから救わなきゃな! でもさ、テロリストを麻酔弾で撃てって……。オレ、使った事ないからちゃんと当てられるか不安なんだけど」


「そんなの皆よ。てか要求三十億とか馬鹿げた金額じゃない? 本気(まじ)で言ってるなら相当な馬鹿よね」


「はあぁ、もう帰りたい。弾外したら僕達は殺されるかもしれないのに。な、なんて事に巻き込まれちゃったんだろう……あぁ」


 不安、不快、不満感を隠そうともせず表に出せるこの余裕は、この状況下であるのに賞賛すべき事だった。普通の人間ならば、まず混乱するか思考が停止してしまうからだ。


「大丈夫ですか? 顔色悪いよ」


「なんだよ根性ねぇな。俺の隣の変人(こいつ)を見習ったらどうだ」


「え〜、ボクをなんだと思ってるの」


 そんな会話をしている時だった。片耳にしていた無線機から声が聞こえる。


『銃の射程圏から外れている、カメラマンの背後のテロリストはこちらで処理します。人質を囲んでいる五人と議員を人質にとっている一人を、それぞれ目の前にいる君達に任せます。その麻酔弾は特殊なので、体のどこかに当たりさえすれば一秒もしない内に意識を失います。なので、心配する事はありません』


「へえすごいな、これ。さっきちょっと不安だったのが馬鹿みたいだ!」


「あんたは紛れもなくいつだって馬鹿よ」


「はぁ? お前性格悪くね」


『カウントダウンを開始します。5秒前、4……3……2、1!』



 ――――そして今、新しい日常に、非日常と言える数少ない日々に、六人の少年少女が身を置く事になった。

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