1 青春はあたしたちを裏切らない!
プロローグから結構時間がかかってすみません。
やっとできました!
初回特別編(?)で5000文字です。
「ふれあ~! 帰るよっ」
小等部4年F組の教室のドアの近くで、あたしを呼ぶ声がした。うんうん、分かってないなあこの子は。この子っていうのは今あたしを呼んでいる子で、あたしの大親友! でも、あの子はあたしのことをまだちゃ~んと理解してないんだよね。ったくも~。
「残念でしたっ! あたしは今日も集まりがあるの。生徒会長の仕事がねっ」
右手の人差し指を立ててくるんと1周まわしながらそう言うと、彼女――三邊鈴夏――は不機嫌そうに顔をしかめた。
「またなの? だから生徒会長になんてならなかったら良かったのにぃ」
「あんたはつくづく友達不幸者ね。友達ならあたしの幸せを願うものでしょう?」
あたしはため息をつく。そう、あたしは正真正銘の小学4年生。決して留年した中高校生ではありません。でも、この年のせいでなぜこの幼小中高一貫校である花園学園で生徒会長になったのかって不思議に思う人がたくさんいるんだよね。仕方ないんだろうけど。
あたしは幼稚園の時からこの学校にいて、幼稚園から小学校に上がるのに簡単な計算問題とか文章問題のテストをしてこの小等部にいるんだ。まあ、花園学園はいわゆるエスカレーター式? エレベーター式? まあそんな感じのやつでさ。
ここから中等部に行くのも中等部から高等部に行くのもテストを受けて合格点に達したら次のとこに行けるの。でも合格点に届かなかったら1週間後に再テスト。それで受からなかったら留年か退学っていう恐ろしい学校なの。 怖いよね。
ちなみに鈴夏は4年B組。小等部の時に違う幼稚園から受験して入学した子で、1年と3年の時に同じクラスだったんだよね。だからこうして4年生になった日にも遊びに来るわけで。ったく、始業式くらい仕事なくしてくれたらいいのに。生徒会もスパルタだわ。
「ってか、鈴夏!? さっさと帰ったら? あたしを待ってたって時間すごくかかるよ? ってか、あんた部活でしょ」
「あっ、忘れてた! じゃ頑張ってね!」
そう叫んでそさくさと帰って行く鈴夏。あーやっと帰ってくれた。
うちの学校は小学4年から部活や委員会に入ることができて、鈴夏は陸上部。あたしはもちろん生徒会。しかも会長! 我ながら、会長になれたことだけはすごいと思う。うん。
あっ、あたしも早く行かなくちゃ。走れ、あたし!
「すみません、遅れました!」
生徒会室に入ると、険しい表情をした高等部2年副会長の瀬村茉鈴先輩が冷たい声で「遅かったわね。ほんとにそれで会長のつもり?」と吐き捨てるように嫌味を言ってきた。この先輩、好きになれないわ~。
執行委員の高等部1年長尾陽菜先輩と七川聖先輩は笑顔で「いいよいいよ、小等部はここから遠いもんね」って言ってくれて、中等部2年の三原桃実先輩は特に何も言わないけどにこにこしてあたしの方を見てくれた。ちなみに生徒会唯一の男子、中等部3年の澤田悠大先輩は無口だから何も言わないんだけどね。
今日の議題はたしか『生徒のより良い生活の方針』。それを決めるんだよね。もうどうでもいいでしょ! っていうようなこともいちいち細かく決めるんだよね。しかも、中心は生徒会長のあたしじゃなくて副会長の瀬村先輩。どうせ仕切るんだったら、最初から会長を候補しとけばよかったのに。そしたらあたしを出し抜いて会長になれるでしょ。まあでも、信任投票で不信任がなかったっていうのがすごく不思議なんだけど。
「で、次に帰り道のことね。買い食いやゲームセンターへの立ち入りを一切禁じ、まっすぐ家に帰るように。それで……」
細い銀の棒でびっしりと黒い文字が書かれたホワイトボードをぴっぴぴっぴとさしながら早口で説明する瀬村先輩。美人なんだけど、しっかりしすぎているというか、なんか自分愛のナルシというか、他の人を見下してるって感じ。
「そこ! 会長さん、ちゃんと仕事しないと消しますよ?」
また嫌味。消すっていうのは多分引退させるってことだよね。まだ始まったばっかなんですけど……。3年の3学期に決めたんじゃん! クラブや委員会を決めたのはその時。活動を始めたのもそのころだから、まあ2ヶ月くらいかな。叱られんのもだいぶ慣れたけど……瀬村先輩も慣れてくんないかなあ?ほんとイヤな先輩だ。
とまあそんな感じで2時間弱。や、やっと終わった……。いろんなことで叱られるし、もうげっそり。前言撤回。やっぱりあたし、叱られるのに慣れるとか無理。
んで、次の日。事件が起こったんだ。
朝は普通に教室に入り授業を受けて給食を食べ昼休みになったから図書室に行っていた。誰と行ったかって言ったら、そりゃあ、もう決まってる。鈴夏。できれば1人で行きたかったけど、さすがに放置しすぎかなあ、と思って仕方なくです。決して鈴夏と一緒に行きたかったわけではありません、まったく。
とまあそんな昼休みが終わって、いつも通り教室に入ってあくびする。眠いぞ、この野郎。するとすっごい顔でずかずかと4年F組に入ってきた一生徒が。誰かと思ってその方向を見たら……びっくり仰天。
なんとなんと、あたしの大っ嫌いな副会長だったんです!
なんで!? あたし、またなんかやらかしちゃった系!? あたし、今日は普通に生活してたけど……って思っていたら、副会長はあたしをスルーして(これ結構失礼でしょ! 会長に挨拶の一つもないんかい!)同じクラスのおとなしい女の子――金河ひなみ――に向かって大声で叫んだ。
「あなた、自分がしたこと分かってるんでしょうね!?」
あたしにはまったく意味が分からなかった。ひなみちゃんが副会長に怒られることなんてしなさそうなのにって。ひなみちゃんは前も同じクラスだった。すごく真面目だったし、頭もいい。控えめな方だけど、少なくとも副会長に目をつけられるような子じゃない。そんなひなみちゃんが、なんで今ものすごい迫力で副会長に怒鳴りつけられてるわけ!?
絶対、副会長はなんか間違ってるに違いない! だって、あのひなみちゃんだもん。副会長の間違いだよ、なんにしても!
「ふくかいちょおおぉぉお!」
あたしが叫ぶと、副会長は心底嫌そうな顔をして吐き捨てる。
「うっわ気色悪い。何よ会長。あんたが仕事しないから、こっちは大忙しなのよ」
めっさひどいぞ、この人! き、気色悪いだよ!? それはスライムに言うべき台詞じゃない!? いや、スライムに言っても失礼な台詞だよ! しかも、気持ち悪いなんてレベルじゃない。気色悪い、だよ!? さらにその前にうっわ、とかついてたらもう最凶の極悪台詞だよ!
あたし、キレた……ってか、待てよあたし。感嘆詞使いすぎじゃない? ぎゃあぎゃあ言い過ぎ騒ぎ過ぎ。うん、落ち着こう。
「ってかあぁぁああ!? 仕事仕事大忙し大仕事って言いながら、あたし何にも聞いてないんですけど?」
うん、そうだ。朝からあたしは何も聞いていない。なのに仕事しないから、とかそんなの言いがかりだよ。あたしは何の仕事も言いつけられてないんだもん。
「黙れ」
「……」
頭の中の血管が1本、切れた気がした。
「うおおああああぁあああぁァァァ!!!!」
「何こいつ意味分かんないキモイ!」
ひどいな副会長! キモいのはお前だ!
っと……落ち着けあたし。頭がおかしいのかもしれないなあたし。あたしやばいな、あたし。ん? 待て待て待て待て、もうおかしくなってる。
コホン、と咳払いしてからあたしは副会長に聞いた。
「あのですね副会長。あたしは話の内容が読めていないんですよ。説明してください」
「仕方ないわね。まあ、会長はバカだから仕方ないのかもしれないけれど。それにしてもこの多忙な時に限って手間取らせるわね。足手まといだわ」
いちいちひどいこと言ってくるな、この人。でもまあもう相手にはしない。こんなの相手にしてたって何の得にも財産にもならないからね! と、こっそり心の中でドヤ顔。
「この子は規則を破ったの。生徒手帳を見なさい。(3)学校生活における校則のところよ。⑤登下校の途中において飲食を禁ずる。⑧ゲームセンターやショッピングセンターなどの寄り道を禁ずる。ここを破ったのよ、この子は」
うっ……生徒手帳の校則のとこなんて一回も開いてないよ。字が細かくて読みにくいし、難しい漢字一杯書いてあるんだもん。吐き気がするよ。よく読みあげられるね、副会長は。
「そっ、それはその……校則を、破ったんじゃなくって……」
か細い声で訴えるひなみちゃん。でも副会長、頭に血が上ってそれどころじゃないって感じ。4年相手に必死になりすぎですよ。
「校則を破ったんじゃなかったら何なのよ!? 証拠だってあるし、なにより制服だったのよ! 花園学園の支持に変化があったらどうしてくれるの?」
「それは、だから……」
ああ、だめだ。ひなみちゃん謙虚だしおとなしい子だし、自分の意見ハッキリ言えるような子じゃないからなあ。それに、まくしたてるようにあんなこと年上の人に言われたら、ひなみちゃんじゃなくても大体の子は怯んじゃうよね。
必死すぎるよ、副会長。もうちょっと落ち着けっての。それにしても、ひなみちゃんなにやらかしちゃったの? そういうタイプじゃないって思ってたんだけどなぁ。うーん、分からん。
「副会長。ちょっとだけひなみちゃんと話をさせて下さい」
「ええ? あーもう、仕方ないわね」
副会長はため息をつきながらもひなみちゃんと私を二人にさせてくれた。よしよし、これで聞き出してやるっ!
「あ、あの、ふれあちゃん。私ね、おつかい、急いでて、お母さん忙しいから、私が……」
おいおい、もうちょっと話をまとめろ。とは言わない。これでも生徒会長だもん。分かります。
要約すると、ひなみちゃんのおうちはお母さんが忙しくて家事ができないから、代わりにひなみちゃんが家事全般を担当してて、それで制服のまま買い出しに行ってたってことだよね。そういえばひなみちゃんのお母さん大学の先生かなんかだったもんね。誤解してごめんなさい……。
すると、待ちくたびれたのか副会長が冷たい視線をひなみちゃんに向けながら言い放つ。もうやめてください、副会長さん。
「青春したいのか知らないけど、規則を破るなんて最悪の行為よ」
あたしはそれに少しいらっときて反応。
「青春はあたしたちが作り出す!! だから、青春はあたしたちを裏切らない!」
「……は?」
副会長、超ぽかんとしてる。まあ、あたしも言っててよく意味わかんなかったよ。
「大体、この子は買い食いなんてしてない! 副会長はこの子を悪者にして悪い見本を作りたいのかもしれない。けど、この子は良い子だよ。お母さんの代わりにお使いに行ってたの。
でも、服を着替えていられる時間がなかったから、制服のままいってしまったんです。
それに、買い食いと言ったらその場で食べることでしょう?このこの場合、食べてない。それどころか、買ったものは牛乳やお肉、冷凍食品などのその場では食べられないものばかり。
これでも買い食いと言い張りますか? 副会長」
あたしは極上のスマイルで副会長を見上げる。ど、ドヤ顔なんてしてないぞ!
「……分かったわよ。認めるわ。でもね、あなたが会長だということはまだ認めてないから。まあ……百分の一、1%くらいは認めてあげる」
つんっと澄ましながらも副会長は顔が赤くなっている。うわあ、副会長かわい~。でも。
「1パー!? 副会長のケチ! もうちょっと認めてよー。10%、いや、もういっそのこと100でいいのに!」
あたしが文句を言うと、副会長はいつものSっ娘に戻ってつんつんし始めた。
「それは無理よ。これからあなたの青春とあなたの意見、たくさん見せてもらうわ。悔しいのならあたしを見返せるような会長になりなさい」
おおう、なんかめっさカッコええこと言われた……。感動。
「瀬村先輩……ありがとうございます!!!!」
うわあ、なんか悪かった。先輩、めっちゃいい人だった。よしっ、これからも真面目に頑張ろう! 絶対副会長に認めてもらうんだから!
以上、解決いたしました!
「で、会長。名前忘れたんだけど」
「えっ、副会長、そこ忘れます!?」
何この会話。つい最近の副会長となら、こんな言い合い出来なかったよね。
「4年F組花園ふれあです」
「ふれあ……ね。分かったわ。覚えておいてあげてもいいわよ」
自分から聞いたくせに! この人もしかして、ツンデレってやつですか? ツンデレなんですか!?
「うわあ~副会長可愛い~」
「はあっ!? あなた、ふざけてたら会長降ろすわよ」
「や、やめてくださいよ!?」
なんだかんだ言って私たちって仲良いかも? っていうか、気が合うかも。
心の中でそう考えると、なんだか顔がにやけてしまいそうだった。