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初恋の猫  作者: 殺戮
4/5

木曜日「髪が茶髪の人」


「つら………くない。」

病は気からとよく言うではないか。


現在は木曜日の第5限目。科目は古文…。

寝起きから凄まじい寒気を感じていたが、まさかこの時間まで続くとは。

昨日とは比べものにならないくらい、今日は寒い。雨が降っており、窓から隙間風の通る音が聞こえるほど風も強い。

私の席は廊下側なので、教室の中でも特に気温の低い場所にいる。暖房はついてはいるものの、資金が乏しい田舎の公立高校では、大型のストーブ一台くらいしかない。


寒すぎる…昨日外で寝たからか…。


だるくて授業どころではなかったので、机に突っ伏し、寝ることにした。


ったく、今まで風邪なんか引いたことなかったのに…。



「……さん、真木さん。授業中だよ、起きたら。」


眠りにつく瞬間にひそひそ声に起こされた。

おそらく隣の男子だ。真面目で誠実。顔立ちスタイルも中の中と言われている、素朴な生徒。

仕方がないので、むっくりと顔を起こし、多少睨みを効かせた。


「さっ…真木さん、そんな潤んだ目で見つめて…ど、どうしたの?」


赤面し、慌てふためいた様子で言う。


「目…潤んでる…?」

「う、うん。顔も赤いし…。あ、もしかして、体調悪い?」


最悪…。風邪の症状だ。


「少しつらいかも。」

「ほんと?なら早退した方がいいよ。」


その男子生徒は、私の体調が悪いのを先生に伝え、さらには帰宅の準備まで手伝ってくれた。

何だか申し訳なかったが、ここは病人として、甘えてみることに決めた。



「38度3分…熱なんて幼稚園以来だ。」


布団に潜り込んだ私はすぐさま眠りにつく。

が、その前に、あいつの事を考える。というか、布団に入ると無意識に考えてしまう。

アーテル…今日は来ないだろうな…。

少し寂しい気持ちもあったが、移してしまっては申し訳ないので、ちゃっちゃと寝ることにした。



頭に冷んやりした感覚…。ゆっくりとまぶたを開くと、部屋は淡い橙色に染まり、心配そうに私を見つめる人がいた。

ぼんやりした視界が次第に鮮明になると、いつの日かのように心臓がひっくり返りそうなった。

何故かそこには優しい表情をしたアーテルが膝をついて座っていたのだ。ど、どうやって入ってきたんだろうか。


「何でいるの。」

「蒼さん、インターフォン押しても出ないし、いつもならいるはずだと思って、ドアを開けようとしたらロックされてなくて開いたんですよ。」


やれやれ、と呆れた顔で私の頭に乗せた濡れタオルの交換をし始める。そういえば、アーテルの髪の色がまたもや変わっている。今度は茶髪だ。


「まさかと思って上がってみたら、蒼さん、ただの熱だなんて…。鍵を掛け忘れたんですか。無用心な人だ。」


そう言いつつも、アーテルは新しく絞った濡れタオルを渡してくれた。まるでお母さんだ。

なんだか申し訳なくなって、起き上がってそれを受け取る。


「でもなんで看病なんか…。」


「好きでやってるんです。」


どうやら機嫌が悪そうだ。何故アーテルは怒ってるんだろうか。


「アーテル、ごめんね。なんか、迷惑掛けちゃったみたいだし、うつすといけないし、もう帰ってもらっても…。」


言いかけたところで、背中からぐいっと引き寄せられた。

アーテルの頭が肩にある。今までで一番近い気がする。心臓の鼓動が一気に早まる。


「えっ、ちょっ、アーテル…?」

「まだあなたから…」


しょげた言い方だ。まるで子どもみたいに拗ねている。


「あなたから、言ってもらってません。"ありがとう"って。さっきから謝ってばっかり。」


「そ、そうだっけ…?」


記憶を振り返ろうとするも、緊張して頭が回らない。それにしてもなぜ唐突に!抱き寄せて言うことか!?


「あ、ありがとう。アーテル。」

「蒼さん…態度で示してくださいよ。」


は、はあっ!?態度って、どうすれば…。

アーテルの無茶振りに戸惑いあたふたしている私を、より一層、強く抱きしめて…。



「こんな風に心配させるのはもう、よしてください。あなたは僕にとって…」



私からすこし体を放して、顔を覗き込むように見つめる。あの綺麗な瞳が、右目だけ見えた。


「大切な…存在なんです。」


熱は収まったと思ったのに、心も身体も芯から温まってきた。こんなの、言われる方が恥ずかしい。


「ありがとう、アーテル。私も、そうだよ。」


身体が勝手にアーテルを抱き寄せ、その言葉も自然に出た。


しばらくしてから、アーテルは身体を引き離して、私に額をくっつけた。


顔が近い…。何も考えられなくなる。


「アーテル…。」

「蒼さん…。」


すると、ぱっと額が離されて、アーテルは満面の笑みで


「よかった、蒼さん。熱、下がったみたいですね!」


「ほえっ!?」


今の、熱を測ってたのか?予想外だった…。


「何とろけた顔してるんですか。お母さんが帰宅したみたいなので僕はもう帰りますから。」


そう言うなり、アーテルは部屋の窓から出て行こうとする。


「ちょっと、ここ2階…」


言い切る前に、アーテルは飛び降りた。

息を呑んだが、急いで窓に駆け寄り、下を覗くと、そこに人影は見当たらなかった。

意外とすごい身体能力…。


ふと西の方を見ると、今にも堕ちそうな赤い夕日が街を朱く染めていた。


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