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初恋の猫  作者: 殺戮
3/5

水曜日「髪の蒼い人」

今日は水曜日。週の真ん中、踏ん張りどころだ。

平日に遊園地なんて行ったものだから全く身体の疲れが抜けきっていない。若干後悔。


昨日のことを回想しつつ、たまーに思い出し笑いをしたりしながらも教室についた。

机に鞄を置き、荷ほどきをして席に着く。教室や廊下は生徒の話し声でガヤガヤと煩かったが朝に話すような友達もいないので、読書をはじめる。


最近読んでいる本は、数々のベストセラー作品を生み出している作家、八坂村麻呂(やさかむらまろ)の最新作で、「一人の女性が現実世界とネットの世界で人間関係をもち、ある日を境にその二つの関係があべこべになってしまう」というストーリーだ。3日前に読み出したが、面白くて家でも読んでいたりするので、ストーリーももう終盤である。


騒がしい教室で一人読書をしていると、なぜか私の机の周りに3人の女子生徒が集まってきた。

どこかでみた顔ばかりだと思ったら、いつの日か下校途中で私のことを話していた連中だ。


「真木さん、ちょっといい?」


真ん中に立つ女子が私に声をかける。2つ結びに茶色っぽい黒髪、白い肌…。

確か名前は……あ…あ、浅川〜


「加奈ちゃん?」


苗字じゃなくて名前が出てきた。ああ、相川加奈だ。相川は驚いた表情をして一瞬固まったが、肩をほぐしてすぐに持ち直した。


「昨日、ハピネスパークにいたよね?」


相川のその言葉で凍りついた。ハピネスパークとは、先日アーテルと過ごした遊園地だ。

この連中、き、来ていたのか。


「一緒にいた鼻の高いイケメン、彼氏〜!?

超絶カッコよかったじゃん!」


右から乗り出してきたのは浜北……えーと…羅々だ。多分。頭に響く大きさ、高さの声で、クラスの中心的人物だったはず。頭髪が、全体は茶髪で、毛先の方だけ微妙に金髪にしている「微妙」なギャルだ。


「バカ、羅々!真木さん困ってるでしょ。」


名の知らぬ生徒が慌てて浜北に注意をする。

優しそうだが一体どこの誰だろう。この前の下校途中にも一緒にいたような気がする。


「あの…」


何が言いたいの。用件は何。


喉に引っかかった。言いかけた言葉。

これでは言い方がきついだろうか。この人たちだって勇気をだして話しかけてくれたのだから、もう少し他に言い方があるかもしれない。

えーっと、別の言い方、別の言い方、別の……


「なになに?真木っち!?」


浜北がぐいっと身を乗り出す。大きな瞳には、薄めだがメイクが施されていた。

ああ、もう、なるようになれ。


「あのコーヒーカップ、すっごい勢いで回るよね。よかったら今度一緒に行かない?」


思ってもない言葉が出た。沈黙が重い…。


すると、浜北がぱあっと明るい笑顔で。


「えっ、まっ、マジ!?行く行く。行こーよ!」

「真木さん、私たちと遊んでくれるの?」


浜北のように身を乗り出した相川。こちらもノリ気だ。


そうして、相川加奈、浜北羅々、小口美里と来週に遊ぶ予定ができた。


「あっ、チャイム!じゃあね、蒼っち!」

「ありがとうね、真木さん。」

「また後で話そ!蒼ちゃん。」


なんだか、もう疲れたな…。



***


今日は今朝の三人と帰った。

途中で道が違うので別れてから、一人であとわずかな家路を歩く。

風は吹いていないからいいけど、これくらいの時間になると、やっぱり手足の先が冷たいな…。

手をさすりながら、足速に歩いた。


家の前に着くと、玄関の階段に腰をおろし、うずくまって寝ているアーテルがあった。

昨日橙色だった髪は、今日は紺色に染まっている。にしても、らイメチェンしすぎではないか…?

それはともかく、暇だったので、隣に腰をおろす。

これほど近くで見て初めて、意外と体つきががっしりしていることに気づいた。


長身のアーテルが小さくうずくまってると、なんだか少し、可愛いな。

起きたときにびっくりさせてやろう。


そう思って、同じようにうずくまる。



寝息を立てて、たまに寝言を呟くアーテル。

それは大概、聞き取れないのだが、ふいにハッキリと呟いた。


「…む…あ……あおいさ…ん」


心臓が止まるかと思ったほど、驚愕した。と同時に、きゅうっと胸が締め付けられる。

苦しい…気持ち悪い…は、恥ずかしい…。


瞬く間に熱くなってしまった顔を、冷えた手の平で覆った。

恥ずかしさで顔をあげることができず、そのまま再びうずくまった。


なんで私の名前を呟いたんだろう。考えれば考えるほどに恥ずかしさが増していく。もう、アーテルと顔を合わせることができないかもしれない…。


けれど…。ちょっとだけ、嬉しかっ…た…かも?


顔だけじゃなくて身体中が熱くなり、寒さなんて吹き飛んだ。


***


「…さん…蒼さん、起きてください。」


アーテルに体を優しく揺すられ、目を覚ました。

結局あのまま寝てしまったのか…。辺りは真っ暗で、寒さが厳しく、寝る前の気温より、10度くらい下回っているような気さえする。


「ごめんなさい。僕のせいで…」


しゅんとした感じで私に謝り、すわっている私に手を差し伸べるアーテル。

アーテルのせいじゃないよ、と言おうとし、顔をあげたところで…。


目が合った。久々に。


左手で長い前髪を掻き揚げ、そこに隠された綺麗な青い瞳。夜なのに、自ら鈍い光を放っているようにも見えた。


「あの、どうしたんですか。」


きょとんとした表情。まずい、また見惚れてしまった。


「蒼さん、顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」


「へっ?」


やばい、想像以上だったか。何か適切な理由、理由…。


「熱でもあるんじゃないですか。早く部屋に入って、ゆっくり休んでください。」


アーテルは自分から私の手を握り、引き上げた。


「そっ…そうだね!ありがとう、それじゃ!」


大分早口になっていたような気がするが、手を握られて、頭が混乱したので仕方がない。


玄関のドアを引き、扉を施錠する。

背中を向けると、扉に寄りかかり、そのままへなへなと崩れ落ちてしまった。


これからの生活…大変になるかもしれない。

そう思うと、何故か嬉しさがこみ上げた。


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