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初恋の猫  作者: 殺戮
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月曜日「髪の黒い人」

私は、自分が嫌いだ。

周りに対していつも冷淡な性格の自分が。

「思いやりがない」とか、「取っ付きにくい」とかは、よく自分に向けられる言葉で。

中学のときはずっと、高校生活を待ち望んでいた。高校生になれば自分は変わるだろうと。変われるだろうと…。

少ない友達が増えて、恋愛をしたりもするだろうかと。

皮肉なことに、実際は違った。

高校生になったいま、これといって中学時代となんら変わりない生活を送っている。

中学の友達とは学校が別になり、疎遠になってきているし、高校でできた友達も数えれば片手で足りる。それもきわめて浅い付き合いだ。

男性との縁なんて全くない。中学と同じじゃあ、あるわけがない。

しかしそんな残念な高校生活もこれからまだまだ続くわけで…。


今日は月曜日。5日間の学校が再び始まる。

重い足取りで私は家を出発した。

「行ってきます。」

少し肌寒い空気と柔らかな日差しに包まれた、いい朝だった…。





***

すっかり秋らしくなった風が、くちなし色に変わった木々を揺らす。あたりは淡く紺色に染まり、うっすらと星が瞬いてきた。

そんな爽やかな天気とは裏腹に

今日も期待を裏切らず嫌〜な1日だった。


まず、2限目の現代文の授業でのこと。

隣の席の男子がペンケースを落とした。

普段からよくペンケースを落とすおっちょこちょいな人であるが、今回は尋常ではなかった。

シャープペンシルの替え芯までバラ撒いたのである。

周りは急いで中身を拾ってあげていたが、私だけ、ぽつりと着席していた。

拾ってあげなくて……良いのだろうか?

正直、どうでもよかった。私は以前からその子の落としたものは拾っていなかったし…と自分の良心に適当な言い訳をした。

そうして周りを気にせず、再び教師の話に耳を傾けようとしたそのとき、誰か、替え芯を拾っていた女子の小さな声が聞こえた。


「…こんなときくらい、拾ってあげたらいいじゃない…。」


ひやりとした冷たい声だった。明らかに自分に対してだと確信した。当たり前だ。冷たい対応をする人間は冷たい対応をされて当然なのだ。


替え芯を拾うのに時間がかかり、

終いには私が教師から直接指名されて替え芯拾いを手伝わされることとなった。

指名された私はクラス全体の注目を浴びながら、男の子が落とした物を拾う。

複雑な気持ちになったのは言うまでもない…。


他にも、掃除の時間にお喋りをしていた二人組の女子に注意を呼びかけただけで、片方には泣かれ、片方には睨まれたりした。


最後に、学校帰りの際に私の悪口を聞いた。私の前を歩く見覚えのない人たちが複数で話していたが、名前まで出されたんだから間違いない。


真木さなきさんって、ほんと苦手…。いっつも本ばかり読んでいるし…。」

「ウチも嫌い。暗くはないけど冷たいし怖いし!」

「えーマジ?加奈子たちのクラスにそんな子いるんだ。」


誰だろうかと気になったので、後ろから声をかけると怯えた顔で、クラスメイトの相川 加奈子《あいかわ かなこ》と、

浜北 羅々《はまきた らら》と名乗った。

クラスが変わり約半年経ったが何となく見覚えがあるようなないような、という感じだった。3人いたが残り1人はもう忘れた。


クラスメイト全員と顔見知りになるのはいつもクラス替え手前。

どれだけ周りに無関心なんだろう、自分は。

趣味とか、興味を引くものが全然ない。


いつからか私の別名は「三無しおさげ」だった。

「無関心・無表情・無愛想」

昔から私を表す3ワードで、おさげは私の三つ編みおさげのこと。

よく出来ている。自分でも関心してしまうほどだ。特に怒りとか、そういったものは湧き上がってこない。別にどう言われようと、どうだっていいのだ。


今日の不愉快な出来事の回想をしながら、自宅に着く。いつも通り、ため息を吐きながら家の玄関前まで行こうとすると…


「………っ!?」


いる。家の前に、誰か。

きれいな黒いスーツを纏い、月明かりに照らされた黒髪の男性。前髪は目元が隠れるほど長く、すらっと伸びた背丈。

一体誰なのだろうか…。今は親がいないが、追い払われないからといって家の前でスタンバイとは、なかなか非常識で失礼だ。


「あの…うちに何か用ですか。」

「あ!これはどうも。真木 蒼《さなき あおい》さんでいらっしゃいますよね?」

「そうですけど。まずあなたは誰ですか。」


少しきつめに言い放つ。面倒だがセールスの類ならば追い払わなければならない。

しかし若干喧嘩腰の私に、怯んだ様子もないようで、男は自己紹介をする。男性としては少し高めの声質で、ゆったりとした口調だった。


「失礼。僕は久松《ひさまつ》アーテルと申します。アーテルって呼んでくださいね。」


目元が見えず口角だけを上げた笑顔を馴れ馴れしく向ける。

名前からしてハーフだろうか…。

鼻筋が高く、身長の高さからしてもどこか外人のような雰囲気を漂わせている。

私は唖然としていたがアーテルは


「あ、そうそう。突然ですが蒼さん……」


と体を曲げて私と頭の高さを揃える。

そして何故か意味深長に呟いたのだ。


「実は僕、あなたに無いものを届けにきました。」


ふいにアーテルは、長い前髪の間から月明かりの淡いひかりに照らされ、青く光る瞳を覗かせる。

その瞬間が何故か衝撃的で。

時間が止まったようだった。

心臓が飛び上がった。

心ならずも思ってしまった。

綺麗だ、と。





***

私はベッドに潜り込むとうずくまって目を閉じた。

暗闇が心地よく私を覆い、安らかな気持ちを与えてくれる、寝る前の時間。


"明日もまた来ますからー。"

結局アーテルはそう言い残し、その場から立ち去っていった。

一体何者なんだろうか。なぜあんなことを言ったのか。怪しい人間だが関わってもいいのだろうか。

頭の中はあの男に関する疑問でいっぱいになってしまう。


いつもと異なり、明日というものに、少しばかり、本当に少しばかり胸を踊らせた私だった。

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