転校生は美少女? 3
クラスメイトによるメルへの質問攻めが始まった。
「趣味は?」「好きな食べ物は?」「血液型は?」「どこに住んでるの?」「好きなタイプは?」「スリーサイズは?」「今日は何色のパンツはいてるの?」「初経はいつ頃?」「オ○ニーは週何回?」
メルはにこやかに全ての質問に答えている。
その横で巡はずっとうつむいたままだ。
彼は女の子になった自分の異変にいつ誰が気づくかもしれない恐怖に、生きた心地がしなかった。
時おり起こる笑い声にびくつきながら身を縮こまらせていると、左隣の花奈がひそひそ耳打ちしてきた。
「ねえ、女の子になるってどういう気分?」
疑う様子もなくそう問いかけてくる。巡はその一言に心臓が止まりそうになった。狙いを研ぎ澄ました一撃。
だが努めて平静を装いとぼけてみせる。
「な、なんのことだかさっぱり……」
「隠しても無駄よ」
彼女の狩りセンサーはいち早く巡の正体を見破っていた。
なぜかメルと知り合いだった彼女は、巡がおそらく何らかの魔法をかけられたのだろうと当たりをつけたのかもしれない。
確信を含んだその強い口調に言い逃れはできないと悟った。
「で、できれば秘密に……」
「いいわよ。その代わり……、わかってるわよね?」
妖しく微笑む花奈。理解が追いつかなかったが、不吉な予感だけははっきり感じとった。
「私はとことん質にこだわるの。その中でもあなたは過去最高の逸材よ」
「あの、ちょっと何を言っているのか……」
その時一時間目のチャイムが鳴る。隣ではあらかた質問も尽きたようで、これが合図になったのか一度解散になった。
みんな席に収まりはしたが、やはり教師が来ない。自習といってもほぼ休み時間と変わらない状態だ。勝手に席を出歩いているものもいる。
とはいえあまりうるさくすると隣の教室から教師が怒鳴り込んでくるため、先ほどよりややトーンは落ちていた。
「じゃあ手始めに女子の制服を着てもらいましょうか」
「全然秘密にしてくれる気ないよねそれ」
巡はまだ花奈に絡まれていた。とはいっても隣の席なので逃げようがないのだが。
「ちょっと、わたしのめぐるちゃんにちょっかい出すのやめて欲しいんだけど」
メルが二人の間に割って入ってきた。
「相変わらずねメル……。にしてもあんた、性転換魔法なんて禁呪レベルのものをためらいなく使うなんて……。小学校に戻って道徳の授業だけ受けてきなさいよ」
「わたしだって悩んだんだよ? めぐるちゃんを他の女に取られないようにするために苦渋の決断を」
「うそつき! ノリノリだったよね!? しかも変な性癖までつけてくれちゃって!」
「だーかーらぁ、それもめぐるちゃんがメルちゃん以外の女の子に目移りしないようにって。ぜ~んぶめぐるちゃんのためなんだよ?」
「全部自分のためでしょ! 大体僕がメルちゃんに惚れてるって設定からしておかしいよ! 目移りもくそもないよ!」
「またまたぁ~」
「またまたじゃないよ!」
花奈が不敵な笑みを浮かべメルに言う。
「メル、裏目に出たわね。すでに東西くん、いえ巡ちゃんのお口は私がおいしく頂いたわ」
「ええっ!? そ、そんな! めぐるちゃんの下のお口が蹂躙されつくしちゃったの!?」
「そんなこと誰も言ってないよ!」
「なんてこと……。く、くやしい……。…………あれ? でもなんか興奮する……なにこの胸の高鳴りは……」
「さあ巡ちゃん、さっきの続きをしましょうか」
「ああっ! ダメめぐるちゃん!」
「……メルちゃんちょっと落ち着こうよ。さっきからおかしいよ呼吸荒すぎだよ」
「は、はぁはぁはぁ……。これが寝取られ……? 新たな性癖に目覚めそう……」
「お願いだからもうこれ以上進化するのはやめてよね……」
メルは高潮させた頬に両手をやる。
棒立ちのメルを横目に花奈はちょいちょいと手招きする。
「さ、巡ちゃん。バラされたくなかったらこっちに来てご奉仕しなさい」
「嫌だよ! 急にどうしちゃったの御厨さん! そんなキャラじゃなかったでしょ!?」
「あまりにも巡ちゃんが可愛すぎて理性が飛んだの」
「その割には冷静だよね!?」
「私の理性がちょっとでも残っている間に早くしなさい!」
「ひえっ! む、無理だって! それにこんなところで騒いでたらみんなから注目浴びちゃうよ!
「私は見られた方が燃えるの」
「僕は絶対嫌だよ! ……メルちゃん、うっとりしてないで助けてよ!」
メルは呼びかけにも答えず恍惚の表情で言い寄られる巡を見つめていた。
……完全にツボ入っちゃってるよ! もうダメだこの人!
『はぁはぁ……ああダメ……。もうガマンできない。でもここでオ○ニーしたらめぐるちゃんに嫌われちゃう……』
うわぁ、やばいよ、やばいテレパシー届いちゃった!
僕に嫌われるっていうか転校初日から社会的信用を失うよ!
『あぁ……めぐるちゃんの蔑んだ視線を感じる……。なんていい目をするの……それだけでわたしもう……。でもダメ。このままだとちょっと変な子だと思われちゃう』
大丈夫、安心して! もうとっくに変態通り越してるから!
巡は一方的に発信される放送禁止電波にただただ戸惑うばかりだった。