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魔法少女めぐ☆める  作者: 荒三水
転校生は美少女?
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転校生は美少女? 2

「初めまして! わたし潮見夢留しおみゆめるって言いま~す。ピッチピチの女子高生でぇす! メルちゃんって呼んでねっ! 早くみんなと仲良くしたいな~。よろしくね!」


「うぉおおおお!」

 メルがうさんくさい出会い系プロフのような自己紹介をすると、予想を超えた美少女の登場にどこからともなく沸きあがる男子たちの歓声。

「きゃー! きゃー!」続いてなぜか起こる女子の歓声。

 

「わたし、今まで男の人と付き合ったことなくて……だからその……。いやだ! メルちゃんったら恥ずかしい! なに言ってるんだろ」


 メルのわざとらしい処女アピールが終わったところで、喚声は最高潮に達した。

 メルは恥ずかしがる振りをしながら、室内をきょろきょろと見回す。明らかに獲物を探す目つきだった。

 そして隅の席で机に突っ伏している巡を目ざとく発見した。

 彼はメルが教室に入ってきた瞬間、花奈が固まると同時に隠れるようにして顔を伏せていたのだ。 

 

「さて小芝居はもういいかー? さーて潮見の席は、と」


 先ほどメルの痴態を目の当たりにしていた久世はなんともなしに言う。


「先生、わたしめぐるちゃんの隣がいいです!」


 びしっと巡を指差して言う。


「あー東西か。お前ら仲良さそうにしてたもんなー。まー好きにしろ」

「やったぁ!」


 クラス中から「めぐるちゃん?」「知り合い?」「巡の野郎、どういうことだ?」などといった疑問の声が上がる。

 メルはおかまいなしにずんずんと巡の席に歩み寄る。

 そしてかたくなに顔を伏せているその首筋にふっと息を吹きかけると、巡は「わあっ」と顔を上げた。

  

「どしたのめぐるちゃん、気分でも悪いのかな~?」

「なんで、君が……」

「君だなんて、メルちゃんって呼んでくれなきゃいたずらしちゃうよ?」

「め、メルちゃん。……ま、まさか転校生で同じクラスだなんて」

「なんて僕はついてるんだろう!」

「変なモノマネしないでよ! その声全然似てない!」


 どうなってるんだ一体。僕はどうすれば……。

 巡は目の前の光景を認めたくなかったが、メルがここにいるのは紛れもない事実だ。

 彼は観念して思考を止めた。

   

「メル……久しぶりね」


 その時横の席に座っていた花奈が、メルに向かって言い放つ。 


「あっ! クリちゃんだ! クリちゃんこんなとこにいたの!?」

「ぶっ! その呼び方はやめなさいって言ったでしょ!」

「みくりや、のクリだよ?」

「なんでそこ抜き出すのよ! ミクちゃんとかカナちゃんとかいくらでもあるでしょ!?」

「まさかクリちゃん、変な想像して……」

「黙りなさいこの変態女!」

「なにさ自分だって!」


 二人が話し出すやいなや、いきなり険悪なムードになる。

 

「ねえ、クリちゃんそこの席どいてよ」

「なんで私がどかなきゃならないの?」

「ふ~ん、じゃ闘うしかないね」

「望むところよ。わからせてあげるわ、真の天才が誰なのか」

「一瞬で消し炭にしてあげるよ」


 さらにヒートアップする二人。メルの発言に巡は肝を冷やす。

 め、メルちゃんまさか魔法を使うつもりじゃ……。いきなり闘うとかって単語が出る時点で普通じゃないよ。

 彼は自らを女に変えたメルの恐ろしさを知っている。

 このままにしておくと何がどうなるかわかったものじゃない。

 嫌な予感がした巡は慌ててメルを止めに入った。

 

「メルちゃんダメだよ、魔法なんか使ったら!」 

「えっ、なんで?」

「東西くん、大丈夫よ。私も魔法使えるもの」

「え?」 

「気をつけてめぐるちゃん、その女、とんでもないレズだよ!!」

「ええっ!?」

「なるほど……、メル。東西くんのこれ、あんたの仕業ね」

「なんか納得してる!? ていうか否定は!? 早く否定して!」

「クリちゃんは可愛い女の子なら見境いなく食べちゃうんだよ! 近寄っちゃダメ!」

「そんな……。でもメルちゃん自分だってそうだよね!? 人の事言えないよ!」

「わたしは違うよ! だってわたしバイだもの!」

「全然違くないよ! もっと危険じゃないか!」


 メルの発言に教室内はどよめきに包まれる。

 口々に言い合うクラスメイトたち。


「バイかよ……。これでこのクラス四人目か……」「それなら私にも望みがあるわ!」「いえ私よ!?」「花奈ちゃんやっぱり……俺はこれからメルちゃんに生きる」「何よあの女、私の花奈様に……!」


 もうやだこのクラス……。


「お前らまだホームルーム中だぞー。レズだのホモだのは休み時間にやれー」

「違います先生! バイセクシャルです!」

「あー悪い悪いバイな」


 そんなの謝らなくていいよ先生……。それに休み時間でもやらないでほしいんだけど……。 


「潮見は転校生用に持ってきといた机使えー。隅に置いてあるやつ。それとそんなに隣がいいなら右隣にしとけばいいだろー」


 メルは結局窓際から三列目の一番後ろに机を置く事になった。

 机をやや巡よりに寄せて満足したように席に着く。

 ほぼ総立ちになっていたクラスの面々もおのおの着席した。


「じゃあーさっさと始めるかー。えー、今日は特になんもないなー。もうそろそろ秋だからなー。季節の変わり目には変な人が出没するから気をつけろよー」

「はぁーい!」

 

 メルちゃんいい返事だなー。自分のことだって自覚してくれればいいんだけどなぁ。


「じゃー終わり。あ、そうそう一時間目の英語なんだが、清水先生警察に事情聴取されてるから遅れるらしいぞー。来るまで自習なー。ん? 何で事情聴取されてるかって? 駅で痴漢と間違われたらしいぞー、本人が電話でそう言ってたそうだ。まー大方本当にやったんだろうけどなー。もう会えないかもなー」


 久世はほんの少しだけ残念そうに言い残すと、さっさと教室から出て行った。

 かなり適当なホームルームだったが、いつもこんな調子なのでみんなもう慣れっこなのだ。

 生徒の間に事件を起こした先生の事が話題に上る事はなかった。みんなわりとどうでもよかった。

 そんなことより関心は転校してきた美少女に向けられている。 

 再び騒がしくなる教室。

 いつしかメルの席を取り囲むように人垣ができていた。

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