転校生は美少女?
巡の所属する二年B組の教室内は、いつも以上ににぎやかだった。
男子生徒の間では今日来るはずの転校生の話題で持ちきりだ。ものすごい美少女がやってくるという噂が飛び交っていた。
すでに朝のHRの時間は始まっているが、担任の姿がないため室内は無法地帯である。
巡はこそこそと教室に入ると窓際から二番目の一番後ろの自分の席へ。
普段なら彼の遅刻をからかう輩が集まってくるのだが、今日はすでに転校生の件で盛り上がっているため、巡は無事に自分の席までたどり着いた。
「……東西くん、また遅刻?」
「ち、ちょっといろいろあってさ……」
「これで三日連続なんだけど?」
「あ、はは……」
「笑ってごまかせばいいと思ってない?」
「い、いえそんなことは」
「ふん、全く……」
隣の席の女子が本から視線を外す事のなく巡を詰問する。
その不機嫌そうな態度にびくびくしながら巡は気まずそうに席に着く。
肩までかかるポニーテイルとやや気の強そうな切れ長の目。
彼女はクラスのマドンナ的存在、御厨花奈。
容姿端麗、成績優秀、高い運動神経という三拍子揃ったパーフェクト美少女だ。おまけにクラス委員長まで務めている。
だが性格はややクール。近づきがたいオーラを常に発し、特に男子に対してはそっけない態度を取る事が多い。
それでも彼女の人気は凄まじく、その知名度たるや学校全体でも五本の指に入るほどだ。
その冷たい態度が、逆に不可侵性を高め人気をかさ上げしているのだ。
巡は前回の席替えで驚異的な幸運でそんな子と隣同士、かつ一番後ろの席というポジションを引き当てた。
だがいつもは緊張してロクに話せないし、事あるごとに威圧されるため彼女のことが苦手だった。
もちろん嫌いというわけではなく、できればお近づきになりたいと思っているのだが、うまく会話が弾まないのだ。
しかし魔法により異常性癖者になってしまった今日の巡は一味違った。
「今日は転校生が来るみたいだね」
花奈は少し驚いたように巡を見る。彼の方から話を振られたのはおそらくこれが初めてだったからかもしれないからだ。
だがすぐに本に目線を落として答える。
「そうね……。女の子らしいけど」
「可愛い子なのかな? でもさすがに御厨さんにはかなわないだろうね」
「そうね……」
「あははっ」
巡はなるべく低い声を出すよう努めている。元から声が高い方だったのでそこまでの違和感はない。
だが花奈はするどくその変化を指摘した。
「なんか声が変。風邪でも引いた?」
「えっ? いやそんなことない……、あっ、そうそうちょっと風邪ぎみで」
「う~ん?」
再び本から顔を離すと、不審そうに巡の顔をのぞきこんだ。
じーっと無遠慮に見つめること数秒。
いつの間にか二人の顔が目と鼻の先まで接近していた。
そして。
――ぶちゅっ。
唇と唇が触れ合った。
「わああっ! な、なにすんですか御厨さん!」
慌てて両手で体を押して花奈を引き離す。
「あなたこそなんなの? そんないやらしい唇して」
「い、いやらしいって……?」
「脱ぎなさい」
「はい!?」
「私が薄汚い男になんて発情するはずがないわ」
「それと僕が脱ぐ事と何の関係が!?」
「いいから黙って脱げおらぁ!」
「ひぃぃぃっ!」
生徒達は教室のそこかしこで騒いでいるので、端っこの席で起こる凶行を特に気にかけるものはいない。
乱暴に巡の制服に手がかけられたとき、ガララと前方の引き戸が動き担任の久世が現れた。
「おらー静まれー、猿どもー」
ついに話題の転校生がきたとばかりに教室内は一気に静まり返り、教壇のほうへみんなの注目が集まる。
花奈の手も止まった。
「じゃあお待ちかねの転校生だー、ほら入って来い」
久世は教壇から廊下へ向かって手招きする。
一斉に集中する視線の先から、一人の女子生徒が入室する。
久世の横で立ち止まると、彼女は向き直ってあいさつした。