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魔法少女めぐ☆める  作者: 荒三水
魔法少女めるめぐ
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魔法少女めるめぐ 5


 もとは外壁だったレンガの残骸を踏みしめながら、巡は校長室を見渡す。

 どうやらここが先ほど学校の屋上でスクリーンに映っていた場所で間違いない。高級そうな家具類と調度品の位置などですぐに判別がついた。

 室内は思っていた以上に広く、ぶち抜かれた部屋の被害はごく一部ですんだようだ。

 メルはホウキをしまうと、煙でよく見えない部屋の奥に向かって声高に叫んだ。

 

「マコト、覚悟しなさい! たまきちゃんりかえしにきたよ!」

「漢字! 漢字違う!」

「待っててたまきちゃん、今すぐ消して(助けて)あげるから!」

「それ逆! 本音出ちゃってるから!」


 巡はマコトよりもメルの動向が気になって仕方がない。

 メルがおかしな動きを見せたら全力で阻止しようと身構えていると、煙の向こうから声が返ってきた。

 

「思ったより早かったね……。それに、いきなり壁を突き破ってやってくるとは……。ククク……、さすがは、と言ったところかな。まあ想定の範囲内だがね」


 しかしその声はセリフとは裏腹にこころなしか裏返っていた。

 やがて煙が消え、人影が現れる。それはやはりスクリーンで見たマコトその人。

 黒いスーツを身に着けた裸ネクタイ男だった。下半身はしっかりズボンをはいているのに、なぜワイシャツだけ用意できなかったのだろうか。

 

「環はどこ!? 無事なんでしょ!?」

「そうだよ! たまきちゃんになにかあったらタダじゃおかないんだから!」


 巡はジロっとメルを睨みつけたが、目をそらされしらんぷりされた。


「もちろん無事だ。これ以上ないほど丁重に扱っている。彼女はとても貴重な存在だからね」


 それを聞いたメルはきょろきょろと室内を見回し、獲物を探している。

 巡も負けじと環の姿を探すが、目の前のマコトのほかに人影らしきものは見当たらない。


「安心するといい、彼女はつい今しがた遊びつかれて眠ったところだ。ワタシたちが話をするにはちょうどいい」

 

 マコトは奥のソファーを指差す。

 ショートヘアの栗色の髪を二ヶ所縛り上げた後頭部が、ソファーのはしからはみだしていた。

 背を向けて寝ているためこちらからその顔までは確認できないが、遠目にも巡にはそれだけでそれが環本人だとすぐにわかった。


「ホントに寝てるの? さっきの爆音で起きないなんておかしいよね?」

「環は一度寝たらそう簡単には起きないよ」

「なるほど、それでめぐるちゃんはその隙にたまきちゃんにいろいろいたずらして……」

「してないから!」

「待っててね、いまメルちゃんが永久の眠りに……」


 ずいっと前に出るメルを引きとめようとしたが、それには及ばなかった。

 マコトがメルの行く手をさえぎったのだ。


「なあに? マコト、やる気?」


 メルが威圧感たっぷりにマコトを見上げ言い放つ。

 対峙する二人の身長差はおよそ30センチ近くあるだろうか。

 その上マコトは間近で見るとかなり筋肉質な体つきをしていて、かなり鍛えていそうだった。

 何も知らないものからすればどう見てもマコトの優位は明らか。しかし実際はメルの異様な迫力にマコトの方がたじろいでいた。

 ていうか不敵に笑っているメルはかなり怖かった。


「ジャマするんなら消しちゃおっかな~。マコト程度じゃ、メルちゃんの魔法受けたらひとたまりもないよ?」


 微笑みながら脅すメル。とっても怖い。

 マコトはチンピラにインネンをつけられた中学生のように体をこわばらせ、視線をそらす。

 はたで見ている巡でさえ冷や汗モノ。巡は一瞬マコトを応援したくなった。

 メルが勝ち誇った顔で一歩足を踏み出すと、マコトは急に表情を一変させ口元に笑みを浮かべた。


「ふっ、ふふふ……、やはり最初から交渉の余地などなかったか……、ワタシもまどろっこしいマネを……ふっ、ふはははは」


 あまりの恐怖に気が狂ったのだろうか。

 明らかに引きつった笑みだった。どうしても無理やり笑っているようにしか見えない。マコトはいきなり甲高い声で威嚇しだした。

 

「や、やれるもんならやってみろ、この野郎ちきしょうなめやがって!」

「大きく出たね? でもマコトごときに全力なんて出さないから安心して。そもそもメルちゃんが本気で全力出したら、タイヘンなことになっちゃうし」

「い、言っとくけどなあ、今、この場所では魔法は使えなくなってんだよ! ざまあみろこのボケ!」

「そんなわけないじゃん。魔法を使えなくするなんて聞いたこともないし」

「なら試してみろ! 使えないったら使えないんだからな!」

「ふぅーん……」


 もはやマコトはケンカに負けて開き直った小学生にしか見えなかった。

 しかしメルはその言い草に腹が立ったのか、無言でその手にステッキを取り出す。

 そしておもむろにくるりとステッキを一回転させた後、ぴしっと突き出すようにして呪文を唱えた。

 

 ――あっ! やばい!

 

「メ、メルちゃんちょっと待っ……」

超滅波動砲イレイザーメガキャノン!(通称○ー○ン)」



 しーん。

 何も起こらない。メルの声がむなしくこだましただけだった。

 その代わりメルの迫力に押され傍観気味だった巡が、怒涛の勢いでメルを問い詰めた。


「メルちゃん! 今ヤバそうな魔法唱えなかった!? もし魔法発動しちゃったらどうなってたの!?」

「えっ? 触れるもの全てを消滅させるエネルギーの塊を前方に向かって波状放出するだけだけど?」

「だけって、とんでもない惨事になるよそれ! それに気のせいかさあ、ステッキの先が環の寝てるソファーに向いてなかった? マジでシャレにならないよそれ!?」

「気のせい気のせい。それにちゃんと手加減したし」

「魔法の説明を聞くかぎりでは手加減とかそういう次元じゃない気がするんだけど……」


 やはりメルの魔法はちょっと普通じゃない。明らかに場違いなガチガチの破壊魔法だ。

 

「み、見たか、見たろ!? な、魔法使えなかっただろ!? あーぶねぇー、よかったー、ちゃんと機能してたわー」


 脂汗を流したマコトがやたらテンション高めに騒いでいる。命拾いしたのだから当然の反応だろう。

 メルは不思議そうに首をかしげながら再び魔法を唱えだした。


「おっかしいなー、セイクレッドフレア! アークメテオフォール! ノヴァメギドナパーム!」

「ちょ、ちょっとそんな気軽にいろいろ魔法となえるのやめて!」


 マコトの言うとおりなぜか魔法が使えなくなっているようだが、万が一発動してしまったらどうなるかわかったものではないので巡は気が気ではない。

 その様子を見ていたマコトがビビりまくっていた表情から一変、ドヤ顔で語りだした。


「ふふふ……、ムダだよ。今この学園では一切の魔法が使用不可能なのだ」

「それはいったいどういう……?」

「それは……、巡くん、君の妹、環ちゃんの持つ魔法を無効化する魔法特性のおかげだ。なんと彼女には自分にかけられた魔法をかき消してしまう力がある。そしてその力はワタシの魔力増幅の魔法特性によりさらに強化され、その力は学園全体を覆っているのだ」

「ええっ!? 環にそんな力が……」


 マコトの発言に巡は驚きを隠せない。 

 それで環があんなふうに優遇されて……? でも確かに魔法が一切効かないっていうのは相当すごい力なのかもしれない。

 この場で魔法が使えないとなるとさすがのメルちゃんでも……。


「さあどうするメル? 威勢よくやってきたはいいが、これでは君も好き勝手するわけにいくまい」

「マコトったら説明乙的なセリフを自分からぺらぺらしゃべっちゃって、案外マヌケなんだね」

「ふ、それを知られたところでワタシに何の不利益もない。絶対的優位はゆるがないのだ。魔法がなければキミたちは所詮ただの高校生。このワタシが女子供に負けるとでも?」


 ここにきてマコトは上着をばさっと脱ぎ捨てる。これで正真正銘の裸ネクタイ男になった。

 肌の色こそ白いが、マコトの肉体はかなり引き締まっている。しかも体のあちこちには得体の知れない傷跡が刻まれていた。

 マコトが「コォォォォ……」と鋭く息を吐くと、異様なオーラが彼の全身から発せられる。


「……大学に入り、周りのリア充たちについていけず不登校になり退学。ワタシをコケにした奴らを見返すため、女人禁制の山寺にこもって十五年……。その果てに童貞拳を極め、心身ともに鍛え上げた四天童随一の肉体派。このワタシを生粋のキモオタ高村道程と一緒にしてもらっては困る……」

「す、すごい……、このオーラは……、なんていう負のオーラなんだ……」

「わが童貞拳を受けたリア充は爆発する。今となっては町で絡んでくるイキったチンピラもどきなどモノの相手ではない。妬みの力を莫大なパワーに変え、数多のリア充を蹴散らしてきたこの拳……、受けてみるか!」


 なんてイヤな拳なんだろう。受けたくないなあ……。

 どんな修行を積んできたのか知らないが、かなりの迫力。めちゃくちゃ強そうだった。

 思いもよらない展開に巡が戸惑っていると、

 

「待てぇぇぇいっ!!」


 部屋のドアが勢いよく開くと同時に、何者かが叫び声を上げて現れた。

 その人物に三人の視線が集まる。


「この拳、この俺が受けてたとう!」

アホやこのおっさん(笑)

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