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魔法少女めぐ☆める  作者: 荒三水
訪問! メルちゃんのお宅
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訪問! メルちゃんのお宅 9


 追い詰められた巡が心の中でそう叫んだ瞬間。

 背後から組み付いていた変態女は、目に見えない何かに衝突されたように吹き飛ばされた。

 

 ダンッ! ガッ! ズザザー、ガンッ!


 メルの体は激しくひねりを加えてカーペットの上で二回バウンドした後、床をすべり頭から壁に激突した。

 

「……え?」

  

 あまりにアクロバティックな吹っ飛び方に巡はあっけにとられた。

 もちろんメルがいきなり発狂して大型トラックに跳ね飛ばされた人のモノマネをしたわけではない。

 巡はこの光景にデジャブを感じた。二日前も自分の家で同じような事があったからだ。


「ゆ、夢留さん……?」


 静流は何が起きたのか把握できず、ただ驚いた表情で立ちつくしていた。

 巡は顔面蒼白になり、うつ伏せに倒れているメルに近寄る。

 

「メ、メルちゃん大丈夫!?」


 今のはさすがにメルちゃんと言えど……、やばいかもしれない……! 

 慌てて安否を確認しようとすると、メルはいきなりむくりと上半身を起こした。


「あいたた……、うん、へーき」

「わぁータフだなぁー、今のあいたた……、で済むんだ! なんか壁へこんじゃってるけど大丈夫かなあこの壁!」」


 メルはけろりとしていた。心配して損した。

 とっさに逆襲を恐れた巡は体を身構えたが、メルは座り込んだまま誰にともなくつぶやいた。

 

「……なるほどね。これでわかったかも。めぐるちゃんの魔法特性」

「えっ?」


 魔法特性……?

 巡がそれを問いただそうとすると、遠くで物音がした。

 玄関の閉まる音だろうか、誰かが帰ってきたようだ。


「おーい、いるのかー?」


 続けて男性の呼び声。

 すると呆然としていた静流が我に返り、急にあわてふためきだした。


「はっ、いけない、もうお父様が帰ってくる時間になってたなんて!」

「お父様が……、ようし、ここはもうこの勢いで結婚の報告しちゃおうか!」

「メルちゃん結婚するんだ。へー、おめでとう」


 メルは右手でがしっと肩をつかんできた。そして無言の笑顔。

 ……なにこれ、新技? 怖いんですけど。


「夢留さん、今日のところはとりあえず巡さんにお帰りいただいて、続きはまた今度にしましょう。お父様には段階を踏んで徐々に告白していかないと、ほら……」

「……う~ん、それもそうだね。なにも焦る事ないよね。わたしもまだ今の暮らしを失いたくないし」


 急に真面目な顔つきになる二人。その様子を見て巡もどこか緊迫した空気を感じ取った。

 ……あのメルちゃんがためらうなんて、カミングアウトしたら何が起きるんだろう。謎だ。

 

「おーい静流? 夢留?」


 階段を上がってくる音が徐々に近づいてくる。

 

「夢留さん、私が時間を稼ぎますからその間に巡さんを!」


 静かに、しかし鋭い声音でそう言い放ち静流は部屋を出て行った。

 巡は事態の急変にあたふたとまごつく。こういうときトロい。

 メルがすかさずその手を引く。

 

「めぐるちゃん、窓から出るよ!」

「えっ、結構高さあるけど……」


 メルは体をかがめて窓からためらいなく飛び降りた。

 ……うっそぉ、人間ってこの高さは普通アウトじゃないの?

 体を乗り出して下を覗き込むと、メルの体が再び窓の高さまで上昇してきた。あの怪しげなホウキにまたがっていたのだ。

 

「さ、はやくめぐるちゃんも乗って」

 

 そう促され、思い切って窓からホウキめがけて飛び移る。

 どういう仕組みかわからないが、ホウキは吸い付くように巡の体を引き寄せた後、空中で水平にバランスを調整した。

 巡が乗っかると同時に、ホウキは凄まじいスピードで滑走を始めた。

 一瞬で視界を通り過ぎていく町並みは、このまま異世界にでもワープするんじゃないかと思ってしまうほど不思議な光景だった。

 

「はいとうちゃく~」


 気がつけば自宅マンションの前。本当にあっという間だった。


「めぐるちゃんごめんね、わたしすぐ戻らないと。二人揃ってないと、お父様がね、ちょっとアレだから」

 

 メルにしてはあっさりとした引き際。

 よほど急いでいたのか、巡がホウキから降りるとメルはそれだけ言い残しその場から飛び去っていった。

 嵐が去って、巡はほっと一息つく。だがどうしても心の中にモヤモヤが残った。

 ……メルちゃんがあれだけ慌てるって、お父さんって一体どんな人なんだろう。あの家にはまだまだ謎がありそうだ。

 でも、これはきっと知らないほうがいいことに違いない。一つだけ言えるのは、もう二度とあそこには足を踏み入れちゃいけないってことだけだ。うん、とにかくそれだけは心に刻んでおこう。

 巡は、とりあえずいろいろなかったことにした。これ以上よけいな詮索はしないほうがいいと判断したからだ。

 すっかり暗くなった道を歩き出すと、靴下ごしに地面の感触が足に伝わってきた。靴はメル宅の玄関に脱ぎっぱなしだった。

 ……あーあ、明日メルちゃんに学校に持ってきてもらわなくちゃ。にしても今日は疲れた……、っと、そういえば女の子のままだった。父さんがうるさいから家でも腕時計してないとな……。

 ズボンのポケットに手を入れる。しかしその時巡はあることに気づいた。

 あ! 時計……、時計がない! 

 このままだと明日は……、女の子のまま登校しなきゃならなくなる!

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