訪問! メルちゃんのお宅 8
変態宣言をしたというのになぜか誇らしげな静流。彼女もメル同様カミングアウトの機会をうかがっていたのだろうか。
謎の沈黙の後、メルがふっ、と肩の力を抜いて静流に笑いかけた。
「……お姉さま、ごめんなさい。わたし心の中でずっとお姉さまの事、お高くとまったクソババアだと思ってた」
「いえ、いいんですよ。私のほうこそ、夢留さんのこと小ざかしいメスガキだと思ってましたので」
「お姉さまも、やっぱり両方いける口?」
「ええ、もちろん」
二人はこれ以上ないほど晴れやかな顔でにっこりと微笑みあい、かたい握手を交わした。
「やり直しましょう、私たち。新しい姉妹として、一から」
「はい、お姉さま!」
今ここに新しい変態姉妹が誕生した。
感動の瞬間だった。
「いやいやちょっと待って、なんかおかしくない!? なんで二人認め合ってんの!? どっちか非難しようよ!」
「夢留さん、ひとつ提案があるんですが、ここは三人で、というのはどうでしょう」
「いくらお姉さまでもそれはダメ。もうめぐるちゃんはわたし一人のものだから」
「いえいえ、あくまで私はサポートに回るということでどうかここは……」
「うーん、……まあアリといえばアリかなぁ?」
「人の事無視して勝手に話進めないでくれる!?」
「なんといってもめぐるちゃんは一人で二度おいしいからね!」
メルの不意打ち押し倒しタックル攻撃。
しかし完全に読んでいた巡はさっと身をかわし、メルは頭からソファーに突っ込んだ。
巡はその隙に素早く間を取り、腕に巻きつけてある腕時計を外した。一瞬で性別が入れ替わる。
「あらすごい、その時計に仕組みがあるんですね」
静流は感心した声を上げながらも、巡が逃げないようドアを守るようにして様子をうかがっている。
一方のメルはすぐに起き上がり、じりじり間合いを詰めてくる。
言葉にせずとも前衛後衛に分かれた二人のコンビネーションはさすがのものだった。
しかし巡も負けてはいない。
「メルちゃん、いや二人とも、いい加減にしないと僕も黙ってないよ?」
「うん、黙らせないよ。これからいっぱい可愛い声を聞かせてね」
「うわ、気持ちわるっ。……メルちゃん、それ以上近づいたら、これを使うからね」
巡が懐から取り出したのは、昨日メルからもらった黒光りする魔法ステッキだった。
最終防衛手段として万が一のために携帯していたのだ。
……まさかこれを使う羽目になるなんて。危険だから使いたくなかったけど、こうなったら仕方ない。
「えっ、まさかめぐるちゃんの公開オ○ニータイム?」
「んなわけないでしょーが! 魔法だよ、魔法を使っちゃうよってことだよ!」
「ふ~ん、魔法使うために女の子になったんだ。だけどめぐるちゃんの魔法って、わたしが教えたの一つだけでしょ? あれバリヤーを張れば痛くも痒くもないよ?」
メルは全くひるむ様子もなくにじりよってくる。
そういえば、あの時もバリヤーで防がれたんだっけ……、でも今はまだ張ってないよな……?
「でもあえてバリヤーは張らないよ。めぐるちゃんがわたしに向かって攻撃なんてしないって信じてるから。愛で結ばれた二人の間に壁を作るようなマネなんてしない。だいじょうぶ、メルちゃんわかってるから。めぐるちゃん素直になるのが恥ずかしいんでしょ? ほら、力を抜いて、身をゆだねて……」
「フェザーライトニング!」
ピシャアッ! バババリバリバリ!
ステッキの先端から発生した稲妻がメルの体に直撃した。
「きゃあっ!?」っという静流の悲鳴が聞こえると同時に、もくもくと煙が視界を包んだ。
や、やったか……? いや、メルちゃんのことだからこんな程度じゃ……。
巡はこの隙に部屋を離脱しようと試みたが、その瞬間ガッと首を持っていかれた。
「めぐるちゃん……、どういうことかなぁ、ためらいなくぶっ放すなんて」
耳元から悪魔の囁き。ギリギリと首を締め上げてくる腕。
巡はいつの間にか背後に回り込んだメルによって、チョークスリーパーを決められていた。
完全にキマっていた。
「ぐ、がああ……、つい、体がは、反射的に」
「まさかと思ったけどね……!? ギリでバリヤー間に合わなかったら、下手したらメルちゃん死んでたかも。これで二回目だよ?」
「さ、さっきバリヤー張らないって言ったくせに……、二人のか、壁がどうとか」
「なあに? それはメルちゃんの優しさにつけこんでガチで命取りに来たっていうこと? ねえねえねえ!」
「ぎ、ぎゃああ、ぎ、ギブギブ!」
「これはもうおしおき確定だよね~? メルちゃん死にかけたんだからそれぐらいの償いはしてもらわないと。あとこれは没収」
メルは半ば意識が飛びかけた巡の手からステッキを奪い取った。
途端にメルの魔力だかなんだか知らないがステッキがブイィィィンと振動を始める。
「さあって、どこから攻めてほしいのかなぁ~?」
メルは背後から巡の体を捕まえたまま、やっぱりそれ用の道具だったステッキを巡の体に押し付けようとする。
巡はなんとか振りほどこうと必死にもがく。
「もうっ、そんなにじたばたして、めぐるちゃん男のくせに往生際が悪いよ? もう嫌がる演技はいいから」
「都合のいい時だけ男扱いしないでくれる!? だいたい演技じゃないから!」
「だいたいなにが不満なの? このシチュエーション、むしろプレイ料金払ってもらいたいぐらいだよ? わたしがめぐるちゃんの立場だったら払ってるね」
「僕がおかしいみたいに言わないでくれる!? あとプレイ言うな!」
「……あ、そっか。男の子にしちゃえば抵抗なんてしなくなるよね。めぐるちゃん本当は性欲の塊だもんね。時計、どこにしまったの? ポケットの中?」
すぐにズボンのポケットをまさぐられる。
……まずい、ここで男に戻されたら、本当に抵抗できなくなるかも……。
「あった! ……さぁ、おとなしくしなさい? お姉さま、手伝って」
「ええもちろん。まあまあ、巡さんたらはしゃいじゃって」
変態は仲間を呼んだ。無理やり腕時計を装着させるつもりである。
巡はかつてない貞操の危機を感じた。このまま男に戻ってしまったら、まず逃げることは不可能だろう。
それどころか抵抗もなく体を許してしまうかもしれない。
……やばい、マジでシャレにならない! なんとか、なんとかしなくちゃ!