魔法少女登場3
「お前らー、遅刻だぞー。こんなとこでAVの真似事してる場合じゃないぞ」
「そういう先生だって遅刻だよ」
「俺はいいんだよ。教師だから」
「それもっとダメでしょ」
巡とは正反対に余裕の久世。すでに彼の遅刻は常習化しているが、人徳のなせる業かあまりそれを非難する人間はいない。
「ん? ところでお前、なんか……」
久世はじろじろと巡を眺めだす。
自分が女になった事を半分忘れかけていたおバカな巡も、その視線に気づきさっと身を縮こまらせる。
そんな彼をかばうようにメルが素早く前に出た。
「先生! めぐるちゃんをいやらしい目で見るのはやめてください!」
「君にそれを言う資格は絶対ないからね! 人に言う前に自分に言い聞かせて!」
久世は不思議そうな顔をする。
「いやらしい……? うーん、東西が昨日と別人に見えるような?」
「き、気のせいじゃないですか?」
「そうですよーめぐるちゃんが女の子になって犯さ……うぷっ」
巡はメルの口を手で塞いだ。
……僕をかばいたいのか陥れたいのかわからないのでしゃべらせない方がいいな。
「なんだか東西を見てると変な気分になりそうだ。不調みたいだし今日は早退しようかなー」
「……そんな簡単に休まないで下さいよ」
「あーそういや今日は転校生が来るんだった。ダメかー、しょーがない、めんどくさいけど行くかー」
久世は脇に止めておいた自転車に再びまたがると、ゆっくりとペダルをこぎだす。
「先行ってるぞー」と言い残しのろのろと学校の方へ向かっていった。
残された二人は自転車を見送りつつ立ちつくす。
そのうちメルが押さえつけられていた手の指をしゃぶりだしたので、巡は慌てて腕を引いた。
「じゅる……。危なかったねめぐるちゃん」
「むしろ二人きりの方が危ないよ」
腕をさわさわしてくるメルの両手を振り払って言う。
すぐ近くで熱い視線を感じつつも、巡は頭の中で今の状況を整理していた。
ちょっと抜けていて適応が遅い彼でさえ、自分の身に起こったことがどれだけ大事か改めて感じ始めていた。
「ねえ、この体元に戻してよ!」
「えっ? なんで戻りたいの? それだけ可愛ければこれからの人生超イージーモードだよ?」
「そ、そういう問題じゃなくて、いきなり女の子とか……困るよ」
「そっかな~。もとからガチムチって感じじゃなかったし~、男の腐ったような感じだったからいいんじゃないのかなぁ?」
「そんな……ひどいよ」
「めぐるちゃんが全部って言うから叶えてあげたんでしょ? メルちゃん頑張ったんだから」
「全部って……めちゃくちゃだよこんなの!」
「つまりめぐるちゃんは超可愛い女の子になって魔法が使えるようになったんだよ。ただし二次元のおじいさんしか愛せないけど」
「ただしのほうもあわせ技!? それってどうなっちゃってんの!?」
「つ・ま・り亀仙人でオ○ニーするしかないよね! やだ、めぐるちゃんたらすっごい変態!」
「君にだけは言われたくないよ! なんてことするんだよ!」
「だいじょうぶ。ちゃんと抜きどころを探しておいてあげるから」
「いらないよ! 大体ないでしょそんなところ! いいから元に戻してってば!」
泣きそうになりながら懇願する男子生徒と恍惚の表情でそれを見返す女子生徒。
はたから見るとかなり異常な光景だった。
『ああ……たまらないよめぐるちゃんのその表情。今すぐ押し倒してむしゃぶりつきたい……』
「む、むしゃぶり……?」
「あれ? 声に出ちゃってた?」
「なんか直接頭に聞こえたような……」
「すごい、わたしのテレパシーを受け取ったのね! 早くも魔法の力に目覚めたのよめぐるちゃん!」
「て、テレパシー? ていうかそんな危険な妄想垂れ流さないでよ!」
「これでわたしの本当の気持ち……わかってくれたでしょ?」
「なにその告白! 本当っていうか最初から裏表なかったよね!? 全然ぶれてない!」
「ツンデレのデレがきたんだよ?」
「ツンなんかあった!? それにデレとかそういう次元じゃないよ! ドロッドロだよ!」
「違うよぉ、ぐっちょぐちょだよ」
「……それ以上近寄ったらぶつよ?」
「うん。ぶって。思いっきりね」
脅しにもまったく動じることなく、変態少女は目を血走らせてにじりよってくる。
貞操の危機を感じた巡は、襲いかかる魔の手をどうにかかわすとわき目もふらず一目散に学校へ向かって全力疾走した。